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榊は、後ろへと下がっていくカルアの姿をじっと見ていた。
キックがやばい、とは聞いていた。ただそれは、「馬鹿力」のことだと思っていた。とにかく遠くに飛ばして、局面を打開する。そういう作戦をとってくると思っていたのだ。
しかし、違った。恐ろしく正確なのだ。難しい位置からのキックを決めたにもかかわらず、悔しがっていた。真ん中を通す自信があったに違いない。
金田もいい役割を果たしていた。中学で対戦した時は、もっとわがままなプレーをしていた。
いいチームなのか?
もちろん、あこがれだったチームが一年で完全に変わってしまうわけがない。しかし中心選手たちが卒業し、監督もコーチもいなくなった。もっとボロボロになっていると思った。
宮理のほうが強い。それは確かだ。だが、宮理のほうが「ずっと強い」とは限らない。そう思わせるチームだった。
なんとか高校なんて名前に、なるんじゃねえよ。榊は、怒っていた。
26-7のまま、しばらく試合は動かなかった。お互いによく守り、決め手を欠いた状態が続いた。
時間だけが過ぎていく。焦りを感じているのは、当然総合先端未来創世の方である。二宮が入ったことにより、荒山の負担は減った。それによって、失点を防げるようになった。しかし、得点できるまでには状況は改善されていない。
予想以上の手札があることを見せた結果、宮理は圧勝を目指さなくなった。トライされなければ、まず負けることはない。「ペナルティ辞さず」で守られると、崩すのは容易ではない。
残り二分。実際相手は、ペナルティを犯した。ここから19点返すのは、無理である。荒山は審判に、ペナルティキックを選択すると告げた。
「犬伏。真ん中だ」
「わかりました」
カルアにとって、全く問題ない距離だった。だが、このキックがただの得点機会でないことは、彼にもわかっていた。この大会では、チームは確実にここで敗退する。しかし、また、次がある。
勝利のためではない。完封を避けるためでもない。チームの、プライドのために。
カルアの蹴ったボールは一直線に飛んでいき、ポールとポールの真ん中を抜けて、観客席を越えて、フェンスにぶつかった。
笑顔はなかった。ただ、カルアは小さくガッツポーズを決めていた。
そして、それからすぐ、試合は終わった。
(試合終了)宮理高校 26-10 総合先端未来創世高校
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