宮理高校

1

「いいか、今の俺たちなら、くらいついていける。全力を出すぞ」

 宝田はいつもにも増して大きな声で言った。

 明日は地区大会県予選準決勝である。代表校は二校であるため、勝てば地区大会に行くことができる。ただし相手は、絶対王者の宮理高校だった。

 東嶺高校時代から、宮理高校には勝ったことがなかった。勝たなければ、その先には行けない。

 勝算は、なかった。

 今年も宮理は強い。ここまで、圧勝で勝ち進んできていた。

 その一方で、総合先端未来創世高校には多くの課題が残っていた。連携もうまくいっていないし、レギュラーも固まっているとは言えない。

「あんたが不安そうでどうするの」

 森田が小声で言う。宝田は、何度か頷いた。

「絶対勝つぞ!」

 



高校総体県予選準決勝 対宮理高校戦オーダー


鷲川(PR 2)

佐山(HO 3)

酒井(PR 3)

須野田(LO 2)

小川(LO 2)

甲(FL 3)

松上(FL 2)

芹川(NO8 3)

荒山(SH 3)

犬伏(SO 1)

鶴(CTB 3)

林(WTB 3)

金田(WTB 1)

瀬上(CTB 2) 

能代(FB 2)



「榊……」

 相手陣にその姿を確認して、荒山は思わず名前をつぶやいた。

 榊堅信。その選手は、一年生にして宮理高校のナンバー8としてレギュラーになっている。小学生の時から東嶺ファンで、よく試合を見学に来ていた。今年はチームメイトになるものだと、信じて疑わなかった。

 しかし、彼は来なかった。彼が憧れていた「東嶺」という名前は、なくなったのである。

 榊の中で「東令で勝ちたい」の次に強かったのは、「全国に行きたい」という思いだった。

 わけのわからないなんとか高校に入るつもりはなかった。監督もコーチも解任され、推薦もたった一人。上を目指せるチームではない。

 それでも。榊はいざ目の前にすると、心が揺れていた。

 荒山がいる。県内で一番の、全国でもトップクラスのスクラムハーフ。何度も試合を観戦して、そのプレーに魅了された。

 敵になるなんて。

 東嶺高校はなくなった。けれども、東嶺だったチームは続いている。憧れていた先輩たちが、目の前にいる。

 完膚なきまでに叩きのめします。榊は誓った。それが、決別の証になると思った。

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