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センターの鶴は、気持ちよく走っていた。
ラグビーを始めたのは、高校生になってから。一年目は、ほとんど試合に出られなかった。二年生の時も歓迎試合は新人チームに参加。今年初めて、レギュラーチームに選ばれた。
試合に出る仲間たちと、チームを組める。それは、最上の喜びだった。同級生には二人の天才がいる。それでも県代表になれない、決勝にも行けないのは、他のメンバーに力が足りないからだ。だからいつか、自分がその「力」になる。そう思って鶴は頑張ってきた。
一つ、トライまで決めてやるか。そう思った彼の前に、大きな影が立ちふさがった。
「え、なんでここに」
それは、近堂だった。本来後ろで待ち構えているはずのない、最前列のプロップ。それが、真正面からタックルしてくる。鶴は後ろ向きに倒れた。
ラグビーでは、倒れた選手はボールを手離さなければならない。独走してきたので、味方が集まるまでに時間がかかる。レギュラーチームはなんとかボールはキープしたものの、新人チームも集合しつつあった。スクラムハーフの星野が急いで駆け寄り、ボールを投げる。だが、そのパスは届かなかった。
すっと現れた金田が途中でキャッチ、インターセプトしたのである。慌てたときの星野がどういうパスをするか、金田の頭の中にはきっちりとインプットされていた。
そして金田は、ステップを使わずそのまままっすぐ突っ走った。そこにいたナンバー8の芹川が、思わず真正面から当たった。金田の首に手がかかる。
笛が鳴った。ハイタックルだった。首から上への危険なタックルは、反則なのである。
起き上がった金田は、テイラーに視線を送った。彼は今回、新人チームのキャプテンに任命されていた。
テイラーは、レフェリーに対してゴールの方を指さした。重い反則に対しては、ペナルティゴールを狙うことができる。
「犬伏!」
テイラーが、カルアを呼ぶ。位置は、自陣22ライン付近。ゴールまではかなりの距離がある。
カルアはボールをセットして、じっとゴールポストを見つめていた。右足が、弧を描く。楕円球は、まっすぐに飛んでいった。
テイラーは、戦闘機のようだと思った。ぐんぐんと伸びて、落ちないまま、ゴールポストの間をくぐり抜けていった。
レフェリー(代行のマネージャー森田)の手が上がった。
キック成功。新人チームに3点が入った。
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