第20話
「次は、なにを描くんだい?」
私は、ため息を吐いた。
「シーナさん……。私は、漫画家にはなりませんよ?」
「ふ~ん。でも、オファーも来てるんだろう? 兼業してもいいんじゃないかい? 例えば、この世界に来る前の話とか?」
考えてしまう。
電車や車、飛行機なんかの話を描けば、読まれる可能性がある。
何冊も漫画を描いた、私だけ知っている読者の傾向だ。
『ライト兄弟の物語は、一応覚えているんだよな……。誰でも空を飛べる。それを実現した人達の話。箒で飛べる人は、限られてるんだ。
いや、狼煙や念話がある世界なんだ。電話がいいかもしれない』
「……科学だと、アイディアが尽きないな」
この世界の人達が知らない、『科学』をネタにした漫画……。
それが、私の読まれる結論でもあった。
まあ、この世界の読者の好みだな。
「考え込んでるね? 揺れているのかい?」
「私は、喫茶店シーナの料理番でいたいですね……」
「……そうかい。まあ、気が変わったら言っておくれ。私も、多少はレシピを覚えたしね」
追い出そうとしているんじゃないな。
私の巣立ちを促してくれているみたいだ。
だけど、私に動く気はない。
「こんな居心地のいい場所を手放す気はないですよ。漫画は……、気が向いたらまた描きます」
壁を見る。私が描いた絵が、いくつも飾られていた。私の感情その物だ。
ここは、居心地がいい。
それだけだった。他に理由なんていらない。
私を見た、シーナさんが笑った。
◇
「シーナさん。オーダーストップで!」
「あ~もう! 了解!」
今日も今日とて忙しい。
店の改装は、行わない。シーナさんの両親が残した店なんだそうだ。できるだけ手を加えたくないらしい。
調理場だけでも広げてくれれば、もう少し料理を多く作れるのだけど……、このままでもいいかな。
赤字じゃないんだし。
「今日も、冒険者で溢れてるな。溜まり場になっている気がする」
街の外に出て、稼いで来いと言いたい。いや、街中でも仕事はある。
朝から晩まで、漫画を読んでる奴もいるし……。働けと言いたい。
「さて、片づけるか。まず、洗い物だな~」
私は、何時ものルーチンを熟す。それだけで、心が満たされる。
働くとは、こんなにも気持ちいい物だったんだな。
「…………」
洗い物をしていたら、決まった。なんか決めてしまった。
「私の次に描く、『漫画本』が決まりました」
シーナさんが、掃除の手を止めて聞いてくれる。
「タイトルは?」
「『喫茶店シーナの日常』ですかね。ほのぼのとした日常を描きたいと思います」
そうだ! 異世界来たけど漫画喫茶を開こう! 信仙夜祭 @tomi1070
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