第16話

 まず、魔法矢の生成からだ。矢に、私の描いた『漫画』の紙を巻き付ける。

 それを、ジャンヌさんが試し打ちした。


「……凄いね。スクロールの効果そのものだ」


 実際のところ、私が写し取った『漫画』なんだけどね。描いた魔方陣に魔力を持たせることで、再現していた。


「欲しいスクロールがあれば、後日リストをください。作っておきます」


「お代は?」


「要りませんよ? シーナさんと良くしてくれれば文句はありません。それとお願いとして、食材の融通ですかね」


 ジャンヌさんは、なんとも言えないといった表情だった。

 推測はできる。スクロールは高価なんだろうな。

 それを私は、魔法で再現できる……。

 混乱を招くかな?


「ユージは、シーナの店から動く気はないのかい?」


「私にあっている仕事を、提供して貰っています。賃金も十分だし、移動は考えていません」


「料理人より、漫画家の方が稼げるんじゃないのかい? いや、スクロール作成師?」


 なんだ、作成師って……。

 私も前の世界でそれなりに『漫画』を読んだけど、聞いたことがなかった。

 ジャンヌさんの造語だよな?


「……そうかもしれませんね。でも、興味ないです」


 とりあえず、私は動く気はない。地位も名誉も、金も興味がないからだ。





 夜になり、ジャンヌさん用の魔法陣を描いて行く。


「水を凍らせる魔法……。これでいいよな」


 もう一度、試し打ちして、桶の水を凍らせてみた。


「私の漫画は、魔法のスクロールの代わりにもなる。売らなければ、問題ないよな……。いや、魔法のスクロールがどうやって作られているのかも分からないけど」


 とにかく大量に必要らしいから、複製して行く。

 ペンを念動力で動かして行く。

 大分上達した。

 上手く描けるのなら便利かもしれない。


 その日は、疲れが出ない程度に数枚描いた。魔方陣による複製は、性能評価が終わってからにしよう。



 喫茶店シーナの営業再開が決まった。

 素材が入手できたからだ。

 でも、何時もの半分の量だな。


 店を開けると、冒険者が雪崩れ込んで来る。

 そして、『ゴブリン討伐記』を奪い合っていた。十冊用意したんだけど……、もっと増やそうか。


「お客様……。ご注文をお願いします」


 シーナさんの静かで低い声が店に木霊する。

 一気に注文が入った。

 今日は、カレーで良かったな……。


 数分でオーダーストップ。

 客からは、なんでもいいので料理を作ってくれと頼まれる始末だ。

 シーナさんと相談して、お粥にした。

 まじで、食材がない。


 お粥を出すと、冒険者が数人出て行って、戻って来たら食材を持って来てくれた。

 ありがたく使わせて貰う。

 さて、なにを作ろうかな。



 その日は、午前中で店を終わりにしたけど、冒険者は満足そうな顔をして帰って行った。


「ユージの料理は、大人気だね」


「人気なのは、喫茶店シーナですよ。居心地がいいんでしょうね」


「嬉しいことを言ってくれるね」


 その後掃除して、私は、魔法陣の製作にかかった。

 今日は時間がある。


「毎数を稼がないとな……」

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