第3話
異世界に来て、数日が経過した。
私が風景画を描いたハンカチは、女性の経営する喫茶店の壁に飾られている。
私は、前の世界で鍛えた調理技術を駆使して、喫茶店で働くことにした。貧乏学生だったのと、チェーン店でのアルバイト経験が、生かせたからだ。
味が珍しいらしく、日毎に客足が増えて行く。
「ユージ。炒飯3人前追加!」
「う~す。オーダーストップで! もう材料がないです」
「あ~、もう! 明日の仕入れは、また増やすからね」
生卵が手に入らないんですよね……。
別メニューを提案するか。
それに、短時間で大量に作れる料理がいいかな。
私は、最後の炒飯に取りかかった。
「シーナさん。材料を全部使い切りました~」
「ユージ……。お客さんだよ」
「オーダーストップって、言ったじゃないですか?」
「……そうじゃなくて」
一人の男性が、前に出て来た。
「あの壁の絵は、君が描いたのかな?」
なんだ?
顔を上げる。
そして、それが私の前に差し出された。
「漫画本?」
「やはり知っているのだね」
それは、同人誌みたいな薄い本だった。
斜め読みで内容を確認する。
「……童話が近いか。竜と少女の冒険物語かな? ラストは、悪い貴族を追い出してハッピーエンドか」
文字は、読めた。本当に自動翻訳みたいだな。
頭に自然に内容が入って来る。
前の世界でも、このスキルがあれば、外国語は楽だったのにな。
異世界……。侮れないかもしれない。
「今、王都では『漫画家』を探している。どうかな? 話だけでも聞いて貰えないだろうか?」
……王都? 漫画家?
「私に漫画を描けと?」
「まあ、そうなる。王族貴族が求めていてね。君の知識にあるストーリーでも構わない。作ってくれないかな?」
盗作じゃん!
王都にいる異世界人は、なにしてんだよ!!
タイトルが被った時点で、アウトだな。
いや、事前に全員で集まって相談すれば……。
いやいや、母数が分からない。危な過ぎる。
「……せっかくですが、お断りします」
「そうか。では、連絡先だけでも置いて行く。気が向いたら連絡をして欲しい」
それだけ言って、壮年の男性が店から出て行った。編集長になるのかな?
◇
「良かったの? 断わっちゃって」
「……あれは、危ないです。遠からず、トラブルが起きますね」
「ふ~ん」
ここで、シーナさんが白いタオルを差し出した。
「なんですか?」
「ユージの絵は、評判いいんだよ? もう一枚描いてよ」
まあ、いいけど。
「紙とインク、ペンを用意して貰えますか? 魔法で描くよりは、慣れた方法で描きたいです」
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