第2話

「……」


 起きたら、ベッドの上だった。

 上体を起こす。テーブルには、すぐに食べられる物が置いてある。


「あ! 兄さん、起きたのかい?」


 声をかけてくれた女性だった。

 あんなに移動したのに、追いかけてくれたのか?


「追跡魔法がなかったら、追いかけられなかったよ。それと、他人の好意は受け取っておくべきだよ?」


「……魔法?」


「ああ、異世界転移者だったみたいだね。まず、この世界の常識を覚えようか。でも、その前に食事だね。ゆっくり食べな」


 目の前にスープが置かれた。

 私は涙を流しながら、スプーンでスープをすすった。

 こんなに親切にして貰えたのは、何時以来だろう……。

 味は……、分らなかった。





「……イメージしたモノを作り出す? それが、魔法?」


 私は……、美大を中途退学した経歴を持っている。

 親に、多大な負担をかけて、進学できなかった。

 理由は……、『本物の天才』を知ってしまったからだ。

 それから、混乱に陥り、筆が進まなくなった。

 気が付くと、あれだけ好きだった、創作活動から遠ざかっていた。


「イップス……、トラウマ……。打ち込んでいただけにダメージが大きかったんだよな」


 その後、バイトを始めて親の援助も断って自立した。

 確定申告も行った。

 誰にも批判は言わせない。私は、独立していた。

 最終的には、就職もしたんだ。


 その経験を生かす……。


「イメージね……」


 白いハンカチを取り出す。

 それに、魔力を送った。


「……えっ? なに? その魔法?」


 私は、今目の前の風景を、白いハンカチに投影した。線となる部分が燃えて色が付く。分類としては、火魔法かな?

 この方法では、紙だと燃えてしまいそうだな。紙なら、インク……水魔法?

 それを見た女性が驚いている。


「……私のこの街に対するイメージです。まあ、悪くはないかな?」


 そこそこの出来栄えだとは思う。

 写真ではない。ただの風景画だ。窓から見える風景。証拠にもならない。

 でも、私の心にはこの風景が映っている。

 それを具現化する……。


「『イメージ』って言葉を捉え間違っているね。普通は、火や風などの奇跡を生み出すモノよ?」


 そうなのかな?

 でも、そんなのは、先入観だと思う。

 試しに、人差し指から火を出すイメージを持って見た。


 ──ポッ


 火が出た。


「……これは、つまんないな」


 こんな火なら、ライターでも使えばいい。

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