第23話 タスキの決意

 アリアの想像と本物のアリアのことを思い返した後に、先輩達との話も思い返したタスキは、ベッドの上で余計な事まで思い出していた。

 タスキの顔が苦々しいものに変わってしまった。

 折角の幸せな気分が一瞬で吹き飛んでいった。

 タスキは、暗く沈んだ目で窓から外を眺めた。

 外には、闇が溢れていた。纏わりついたら払えないくらい、濃く重い闇であった。

 それらを眺めて、タスキがぽつりと言葉を呟いた。


 「アイツは今何処で、何をしているだろうな」


 タスキの頭に、転移前に通っていた高校の時の記憶が蘇って生きた。


 「アイツは、実家が金持ちだったからって僕らみたいな普通の学生を見下して、バカにしていた」


 タスキは、転生前の苦い学園生活を思い出した。


 「僕らは、アイツが満足するまで我慢するしかなかった。地元の代議士の息子だったから誰も文句を言えなかった。そして、先生とか目上の人には猫を被っていたから、先生にアイツの事を話しても信じてくれなかった」


 苦い思いから、歯を強く噛みしめた。

 そして、目の前の空間に誰かを想像して、タスキが鋭く睨みつけた。

 タスキの心から憎しみが溢れてきた。

 タスキは続きを語り始めた。


 「先生は気付けなかったのか、アイツを。いや、きっと気づいていただろう、アイツの本性を!」


 タスキが吐き捨てた。そして、タスキの憎しみに怒りが混ざった。


 「でも、先生は我が身可愛さに無視していたんだ!僕らを生贄にしていたんだ!自分にアイツの悪意が向かないように!」


 怒りが憎しみを飲み込んだ。


 「何が教師だ!先生だ!生徒を教え導く存在!あはは!全然出来ていないじゃないか!見て見ぬふりをするなら、お前らは教師失格だ!」


 怒りのボルテージが最高潮に達した。

 タスキは、まだ怒りを吐き出そうとした。だが、アリアの事が不意に頭に浮かんだ。今日見た、アリアの笑みであった。

 タスキの熱が一気に冷めていった。

 タスキは、笑い出した。


 「あはははは」


 一頻り笑った後、タスキはアリアの部屋の方を見た。そして、頭を下げた。


 「ありがとうございます、お嬢様」


 アリアに、それ以上怒りに飲まれてはいけませんよ、と諭された気持ちであった。

 落ち着きを取り戻したタスキは、再び昔を思い出していった。


 「だからきっと罰が当たったんだ」


 そう言い、冷たく笑った。


 「ある日、アイツは突然姿を消した。アイツの両親は必死に警察にお願いして、捜索してもらっていた。テレビでも代議士の息子が消えたと連日報道されていた。でも結局、アイツは見つからず、帰っても来なかった。巷では神隠しに遭ったのではと囁かれていたな」


 タスキは、自分の身体を見た後に、視線を外に向けた。


 「もしかして、アイツも僕と同じように異世界に転移しているのか」


 そう考えた後、苦々しく表情を歪めた。


 「どうせ、アイツの事だ。そっちの世界でもうまく猫を被っているんだろう。そして、また人を見下して、女の子を騙して遊んでいるんだろうな」


 タスキの脳裏にまだまだ苦い考えが浮かんでくる。


 「女神にも猫を被ってうまく取り入って、転移ボーナスでチート能力とか貴族の息子になっているかも」


 タスキは、そう考えると少し寒気を覚えた。だが、それを以前の仕返しとばかりに、滑稽な想像に変えた。


 「でも、失敗してでっぷりと太ったキモ豚野郎にでもなってたら面白いな。でもって、醜く肥えた身体で、ナンパして振られる度にパパに言いつけてやるとか言ってたら最高だな!」


 タスキはそれが可笑しくて腹を抱えて、大笑いをした。そして、笑いすぎて目に涙を浮かべた。

 「はぁ、可笑しい」とつぶやいた後、タスキは真面目な顔になると、有り得る可能性を思い浮かべた。


 「もしも、アイツがこの世界に転移していたら」


 一切の怯えなく、鋭い眼光で外を睨みつけた。更に可能性を語っていった。


 「アイツが、お嬢様に少しでも手を掛けそうになったら」


 そこで一旦止めて、タスキは元クラスメイトの顔を思い浮かべた。

 その顔にタスキが静かに告げた。


 「その時は、僕がお前を殺す」


 更にタスキは続けた。


 「僕だって伊達に転移はしてないよ。ボーナスはしっかり貰ってる。それに・・・」


 タスキは、守るべき大切な人を浮かべた。その笑顔が失われないようにと硬く決意を固めて、声高に宣言した。


 「大切なアリアお嬢様を護るのが、今の僕の仕事だから!」


 タスキはアリアを思い、穏やかに微笑んだ。

 改めて、自分の役目と決意を確認したタスキは、ベッドに潜り込んだ。

 目を閉じる前、タスキは天井を眺めて、小さく呟いた。


 「絶対に護ります、アリアお嬢様」


 そして、目を閉じると眠りに落ちていった。



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