第9話 わたくしは、ポンコツ令嬢ではございません

 疲労がずいぶん回復したアリアは、足取り軽やかにお風呂に向かって歩みを進めていた。


 「ふんふんふん!!」


 鼻歌も零れてしまうほど、浮かれた気分でお風呂に向かっていた。


 「楽しそうでね、お嬢様!」

 「ええ、とても楽しみですよ、シオン。なんと言っても、皆さんとお風呂ですからね」


 アリアは、さわやかに微笑み、明るく弾んだ声でシオンに答えた。

 しかし、腹の内では違う嗤いを浮かべ、そして感涙に咽んでいた。


 (ああ、長かった。やっと、やっと桃源郷が。もうすぐ目の前に!)


 アリアの目尻にも薄っすらと涙が浮かんだ。


(もう前回みたいな失敗は無いはず。きっとスイが今頃声を掛けて回っているはず。わたくしのこの企みに気づくことは無いはずよね。悪役令嬢だけどTS転生して、本当に良かったわ。何を見ようが、疑われることは無いはず。くくく、主人公君ごめんね、君のお株先に奪わしてもらうわよ。あははは、はーははは!)


 今度は下品な笑いまでもアリアは零していた。

 傍のアリアが泣いたり笑ったりと不審な挙動を繰り返していたが、そんなことなど目にも入らず、シオンも浮かれていた。


 「こうして一緒にお風呂に入るのはいつぶりですかね、お嬢様。私もアリアお嬢様と同じく楽しみです」


 そう言葉を掛けられたアリアは、その純粋な気持ちに胸が痛んだ。


 「そ、そうね、シオン」


 純粋に喜んでいるシオンの表情を見るのが忍びないアリアは、目線を逸らしながらそう答えた。

 そして、もう少しでお風呂につく頃、アリアの脳裏にあることが突然浮かび上がった。

 アリアは、シオンにそれを訊いた。


 「シオン、少し聞きたいのだけれど。わたくしの着替えって誰が持ってくるのかしら?」


 午前中に、脱衣所で全裸放置されたことが脳裏に蘇ってきたアリアは、また脱衣所全裸放置とシオンを心配して屋敷中探し回ることを恐れて、シオンの顔を窺った。


 「あ!?」


 シオンの中に不安と焦りが生まれた。


 「申し訳ございません。すぐに取って参ります」


 急いで走り出そうとしたシオンにアリアが優しく微笑みかけた。


 「焦らなくていいですよ。わたくしは、シオンが選んでくれる着替えを楽しみに待っていますから。先にお湯を頂いてゆっくり待っていますので、シオンもゆっくりと今のわたくしによく似合う服装を選んで持ってきてくださいね」


 アリアの思いやりの気持ちを受けて、心が軽くなったシオンはアリアに頭を下げると、今度は走り出さずに余裕のある歩みで着替えを取りに行った。






 アリアはシオンが見えなくなるまで、笑顔で手を振って見送った。

 そして、1人になると人気が無い広い廊下をお風呂に向かって歩き始めた。

 その表情からは先ほどまでの笑顔が消えており、今は緊張した面持ちが浮かんでいた。

 アリアの心臓は早鐘を打つかの如く、激しく鼓動を打っていた。

 その鼓動に気づいたアリアは、一旦立ち止まると胸に手を当てて、大きく息を吸って一拍おいてからゆっくりと吐いていった。

 緊張が少し解れたのか鼓動が落ち着いてきたことを感じるとまた、歩みを進め始めた。

 アリアは、一歩一歩確かな足取りで進んでいく。

 周りの景色も目に入らぬほどひたすらに、お風呂までの道のりを歩んでいく。

 歩きながらアリアは、今までにここまで緊張したことがあっただろうかと己に問いかけた。いや、ないとすぐに己の意思が返してきた。

 フッと薄く笑みを浮かべた。


 (俺もまだまだだな)


 そして、とうとう目の前には風呂場までの道が広がっていった。

 それを目にすると、アリアの中の緊張が限界を超えて高まった。

 最早、周りの景色だけでなく音までも感じる余裕が無くなった。

 アリアの脳裏からは、お風呂以外の今朝からの全てが抜け落ちていった。


 (この先に俺のハッピーエンドが待ち構えているのか)


 そう心中で呟くとアリアは、その風呂までの道に踏み出しって言った。

 アリアはシオンに教わった通りに廊下を進み、そして左に曲がった。

 その先には、アリアが目指していた桃源郷への入り口が開かれていた。

 入口に向かう前に、一つ息を吐いて思わず零れそうになった嗤いを抑えた。

 そして、口元を真一文字に結ぶと表情を引き締めて見慣れた青い暖簾の下を潜って中に進んでいった。

 本物の桃源郷への道程は、シオンの教えでは左に折れて男湯に突き当たったらそこから右に折れて奥まで進むものだったのだが、アリアは右に折れるのを忘れていた。






 男は、また目を覚ましたら記憶にない部屋で寝ていた。


 「あれ、ここはどこだ?」


 部屋を見回し、頭の中から記憶を手繰り寄せようとしたがここに来た記憶が全く出てこなかった。

 唖然とした男だったが、すぐに寝起きの呆けた頭をなんとか起こした。

 そして、再び部屋を見回して、なんとか思い出そうとしたがやはり出てこなかった。

 途方に暮れた男は、ぼんやり部屋の中で立ち尽くしていると、部屋の窓から空の色が黄昏に染まっていたことに気づいた。その瞬間、男の意識が覚醒して今の状況に驚愕した。


 「やばい!!何一つ仕事をしてない!」


 もう記憶なんてどうでもいいと、部屋を飛び出した。


 (どうする、どうする。このままではシオンさんの雷が落ちるぞ!ここは、高校の時にも活躍した俺の必殺のTHE土・下・座を使うしかない!!)


 その男の使用人の本名は平波襷で、こちらの世界ではタスキと呼ばれている異世界転移者であった。

 高校3年の夏休みの赤点補習が終わった帰り道にこの世界へと転移したのである。

 タスキは、シオンを探して屋敷を走り回った。その途中で会った同じ使用人にシオンを見なかったかと聞いていった。

 その甲斐あってか、アリアの部屋の近くで見たとの情報を得てタスキは急行した。


 「シオンさんいや、メイド長!!」


 アリアの部屋に入ろうとしたシオンを確認すると、タスキは大声で呼びかけた。

 シオンは声のした方に、静かに視線を向けた。そして、誰かを確認するとアリアの部屋のドアを閉めた。


 「何ですか?」


 早く着替えを選んで、アリアの下に向かいたいシオンは、苛立ち気味に素っ気なく訊いた。

 タスキは、シオンの前で思いっきり土下座をした。


 「メイド長、すいません!!記憶にない部屋で寝ていました!!それで何一つ仕事をしていませんでした!!本当に申し訳ございませんでした!!どうか、お許しください!」


 矢継ぎ早に謝罪の言葉を繰り出していった。


 「いいですよ。本日の事は大目に見ましょう。今日はこのまま仕事を切り上げて明日に備えて早めに身体を休めなさい」


 シオンは、余計なことを思い出す前に早く帰らせようとした。

 あまりの呆気なさにタスキは驚き、シオンに訊き返した。


 「本当に終わりでいいのですか?」

 「そう言っているでしょう。今日はこのまま風呂にでも入って早く休みなさい」

 「分かりました。ありがとうございます、シオンさん」


 タスキは、シオンに感謝すると男湯に向かっていった。

 そして、男湯に着くと目の前に服を脱ぎ終えた裸のアリアがいた。


 「「え!?」」


 2人は同時に固まった。

 タスキの本日最後で最大の地獄が始まろうとしていた。






 暖簾を潜り脱衣所に入ると、入り口の暖簾と脱衣所の造りから、なんだか日本の温泉旅館みたいだなとアリアはふと、そう考えた。

 そして、それと同時に男の時にボーナスをつぎ込んで宿泊した温泉旅館の記憶が頭の中に蘇ってきた。


 (あの時は、仕事のストレスで相当参っていたからな。前の会社はブラックで始発、終電が当たり前だったし、人の粗を探して責めるのが好きなクソ上司がいたせいで精神的に追い込まれていたからな。そしてある日、何かがぷつっと切れた気がしたら、仕事がどうでもよくなって、突然一人旅をしたくなったんだよな。それで、そのまま適当に電車を乗り継いで着の身着のままで辿り着いた温泉旅館に泊まったんだったけ。ああ、仕事を休んで入ったあの温泉は最高だったな。あの温泉の脱衣所がこんな感じだったけか)


 ほろ苦い懐かしさからアリアは、脱衣所を見回していた。その時、アリアは脱衣所が先ほどとはどこかが異なる違和感を覚えた。


 (あれ、なんか狭いような気がする。それと臭いが違うような。なんか、嗅ぎなれたような臭いがするな。それにもう少し几帳面に物が片付けられていたような?まぁ、一回しか入ってないし記憶が曖昧なのかもな)


 記憶とのズレにこれ以上懐疑的になっても時間の無駄になりそうだったので、アリアは、そう結論付けて納得した。

 違和感に一応の決着をつけたアリアは誰もいない脱衣所をキョロキョロと忙しなく観察し始めた。


 (ここに後数分もすると、うふふふ!)


 含み笑いを浮かべてその時の光景を脳裏に思い描く。


 (主人公に転生していたら、こうはいかなかったな、ふふふ!)


 そんな妄想をしているアリアの脳裏にふと余計なことが閃いてしまった。


 (ん、待てよ!もし俺みたいに転生してきたやつがいたらどうなる!で、そいつが人畜無害系でラノベ主人公属性でも持っていたならば、俺が見られる側になるんじゃないか!?例えば、今朝と昼間のあの使用人がそういう属性を持っていたとしたら!?)


 アリアは要らない事を更に考え始めてしまった。


 (いやいや、そんな都合よく俺以外の転生者が現れるなんてないだろう。それにそんなことがあるとしたら、あいつが間違えて女湯に入って全裸のこのアリアと鉢合わせになるか、俺がポンコツで男湯と女湯を間違えて入ってしまうよくあるラノベご都合展開になっちまうじゃないか)


 と、そこまで考えたアリアは、眉間に皺を寄せて数秒沈黙した。


 「ふふふふふ」


 アリアの口から笑いが零れた。

 そして、その考えを否定すべく高らかに宣言した。


「このわたくしがポンコツ悪役令嬢などありえませんことよ!」


 そう高らかにアリアは宣言し、ポンコツ部分も否定した。

 それから、アリアは脱衣所で何くだらないことを考えているのかと正気に戻ると、シオン達が来る前に大浴場に行くかと服を脱いでいった。

 そして、最後の一枚の下着に手を掛けた時、これを脱いでいいか数秒間葛藤した後、思い切って下着を一気に脱ぎさった。

 裸になったアリアは大浴場に入ろうと足を踏み出そうとした。そのとき、脱衣所の青い暖簾が揺れた。


 「遅かったわね、シオン」


 シオンだと思い声を掛けたアリアは、そこにいた男性の使用人のタスキとばっちり目があった。


 「「え!」」


 アリアとタスキは、同時に戸惑うような声を出して固まった。そして、数秒間2人は身動ぎせずに互いの顔を見合わせていた。

 その時、そんな空気を破るように楽しそうに談笑する女性たちの声が廊下の外を通り過ぎていった。

 それを契機にアリアが、なぜ男性のあなたがここにと問いかけるために口を開いた瞬間、タスキにその口を塞がれた。


 「んん」


 アリアの口からくぐもった声が漏れる。

 驚愕に目を見開き、目の前の顔を見る。


 (何何何!)

 「んー!」


 アリアからくぐもったうめき声が更に零れる。

 混乱したアリアは、助けを呼ぼうと声を張り上げようとしたが、口が塞がれているために思ったように声が出なかった。


 (シオン、シオン、シオン)


 懸命に心の中でシオンの名前を叫び、助けを求めた。

 しかし、その声がシオンに届くことは無く、アリアの助けには来てくれなかった。

 そこに更に、外の廊下から男達の野太い声が聞こえてきて、その声がどんどんこちらに近づいてきた。


 (うそうそうそ)


 アリアの両目に涙が浮かび、そして流れ出した。

 男達の声が脱衣所のすぐ外から聞こえた。

 そして、男達が脱衣所の暖簾を潜ろうとしたその時、アリアは腕を捕まれ、入り口から見えない着替えの棚の陰に押し込まれた。






 アリアを隠し終えたタスキは、急いで脱衣所の入り口前に立つと、何とか頭から絞り出した偽の仕事を語り、アリアのために男達を遠ざけようとした。


 「あ、先輩方お疲れ様です。お疲れの所すみませんが、先ほどこちらにジェームズ執事長がお見えになり、なにやらお願いしたいお仕事が出来たとかで先輩方をお呼びになっていました。多分、お屋敷の正面にいると思われますのでそちらに向かっていただければと思います。あ、そうでした。急な仕事なので、その分給料に上乗せがあるそうですよ。非力な僕では足手纏になるそうで、ここの掃除を言い渡されてしまいました。申し訳ありませんがよろしくお願いします」


 そこまで、口早に言い終わると頭を深く下げた。

 そして、男達は無言で憐れんだ目でタスキを見つめた後、「よっしゃ、もう一仕事やるか」と気合を入れて脱衣所から去っていった。その去り際に「まぁ、がんばれよ」と声を掛けられ肩を叩かれた。

 タスキは、先輩使用人達が脱衣所から遠ざかり見えなくなるまで見送ると、アリアを隠した物陰に戻っていった。


 「もう大丈夫ですよ、お嬢様」


 タスキはそう声を掛け物陰を覗き込むと、びくっと身体を揺らして怯えた様子で顔を見上げているアリアがいた。






 アリアは、突然腕を掴まれ着替えの棚の陰に押し込まれたとき、今までに感じたことのない恐怖を感じた。


 (うそ!?)


 目をきつく閉じて、自分の身体を強く両手で抱しめた。

 そのまま、目を瞑っていると脱衣所の入り口まで男達が来たことが分かった。

 そして、これからされることを考えるとアリアの身体に震えが走り、その震えは止まらず身体を守ろうと抱きしめている腕にも力が入った。

 アリアが必死で恐怖に耐えていると、さっきの男性使用人が男達と何かを話している声が聞こえてきた。


 (何何何。もしかして順番でも決めてるの!?)


 話の内容を聞く余裕がないアリアは、もう身体を丸めるくらいしか出来なかった。

 そうして、恐怖に耐えていると、いつの間にか話し声が聞こえなくなり男達が立ち去った気配を感じた。


 (助かったのか)


 アリアは、恐る恐る瞳を開けていった。

 目の前には誰も見えなかった。


 (今だ!)


 まだ、恐怖に竦んで震えている身体に精一杯の気合を込めて、立ち上がり逃げ出そうとしたその時、アリアを呼びかける声が聞こえた。


 「もう大丈夫ですよ、お嬢様」


 しかし、怯えていたアリアは、何を言われたか理解できなかった。

 そして、何かの掛け声と同時に覗き込まれた。


 「!?」


 その瞬間、体がビクッと震えた。アリアは恐々と顔を上げていき、何とかその顔を見据えた。


 (ああ、ここがわたくしのバッドエンドなのね)


 そう悟ったアリアは、どうせ最期ならゲームのアリアのように儚くてもいいから笑顔で逝こう決め、ぎこちない笑みを浮かべた。


 (ごめんなさい、アリア。俺でもダメだったよ。シオンここまで本当にありがとう。それから、お屋敷の皆さんごめんなさい)


 アリアは、顔は笑っているのに瞳から涙が止まらない。

 覚悟を決めて、目の前の男に身を捧げようとアリアが考えた瞬間、走馬燈の様に前世からの記憶が蘇ってきた。そして、前世で死ぬ前に言い放った言葉を思い出した。


 (今度は必ず君を救ってみせる!!)


 その言葉を心の中で強く言い放つと、今まで恐怖と諦念で見えなかった一筋の光が見えた。


 (ごめん、アリア。それと、俺)


 諦めていた事を詫びたアリアは、相手の身体を鋭く見据えた。そして逆転の一手を思い浮かべた。


 (さぁ、伸るか反るかの大博打!乾坤一擲だ!!)


 目の前を見据え、凛とした声で目の前の男性使用人に言い放った。


 「もうわたくしは覚悟を決めました。さぁ、この高貴なる我が身を散らすがいいわ。わたくしには、もう怯えも恐怖もありません!!」


 アリアは、今まで身体を抱いていた両腕を無造作に降ろしてその裸体を晒した。

 タスキは、突然のアリアの行動に当惑しポカンと呆気に取られた。


 (何してんすか、お嬢様!!)


 そう心で叫んでみたタスキだったが、アリアの裸体が視線に入ると男の本能で繁々とその裸体を眺めてしまった。

 アリアは相手が夢中で自分の裸体を見ていることを感じ取ると、ここが勝負どころだと一瞬で身体を屈めた。そして、視線を外されたタスキが狼狽えた一瞬のスキを狙って、足に力を入れて相手に飛び込んでいった。


 (狙うは、男の急所!!)


 アリアの頭は寸分の狂いもなく急所に吸い込まれていった。そして、アリアの頭が到達する前にタスキは条件反射で向かってくるアリアを紙一重で避けてしまった。

 突然目の前から消えたように見えたアリアは、「え!!」と驚きの声を上げ、そのまま受け身も取れないで脱衣所の床に顔面から落ちていった。

 そのままアリアは床に強かに顔をぶつけてしまったが、すぐに起き上がり身体を反転してタスキを見据えた。

 ぶつけた顔がガンガンと痛むがそれを気にする余裕はアリアには無く、ただひたすらにタスキから視線を外さずに見据えていた。その最中鼻から血が滴ってくるのを感じたが、アリアは視線をタスキに固定したまま、無造作に右腕で拭ってみせた。


 「やってくれましたね!ですが、わたくしはこんなことでは挫けませんよ。必ず救うと決めたのですから、こんな所では終われません。さぁ、いきますわよ!!」


 そう話しながら、自分とタスキの位置関係を確認し、タスキの右手後方にある出入り口から脱出するための方法を考えていた。

 タスキに向かっていくと見せかけて、全力で出入り口まで走り脱出しようと作戦を立てたアリアは、右足を後ろに下げて左足に重心を掛けた前傾姿勢を取り飛び出そうとした。その時、タスキが先に動いた。


 「しまった!!」


 思わずアリアの口から零れてしまった。そして、機先を制されたアリアは、身体が動かず視線でその動きを追う事しか出来なかった。

 タスキは、アリアがまた何かをしそうな気配を察知した瞬間に、全力でアリアの近くに移動した。

 そして、アリアの足元で頭を床につけた。


 「申し訳ございません、アリアお嬢様」


 タスキは得意の土下座で取り敢えず謝罪した。

 更にタスキは頭を床につけたまま言葉を紡いでいく。


 「アリアお嬢様、こちらは男湯となっております。このままでは、お嬢様がお恥をかかれてしまいます。どうか、今のうちにお召し物を着用の後、女湯へとお移りください」


 そう言われたアリアは呆然とした。

 そして、今までのことが全部自分の勘違いだと分かると、途端に恥ずかしくなり顔が赤く染まっていった。


 (ポンコツ令嬢アリアですわ)


 そう心の中でぽつり呟き、また垂れてきた鼻血を拭うと、こんな痛い思いしないで良かったのかと痛む顔面を軽く触さわった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る