第8話 前のアリアの影響を甘く見ていました

 シオンにお姫様抱っこされたまま、お屋敷の正面まで戻ってきた。

 その途中、庭の手入れ作業をいている男性使用人たちに生暖かい視線を向けられて、愛おしそうに見送られるという羞恥プレイを存分に満喫してアリアは、長い、本当に長かったお屋敷の正面までの道のりをやっと終えた。


 「正面に着きましたので、このまま!お風呂まで向かいましょうか、アリアお嬢様!」


 このままという部分を微妙に強調したようにシオンが溢れんばかりの笑顔を浮かべてアリアにそう言葉を掛けた。

 魔力切れの倦怠感と精神的な疲れからアリアは気だるげに頷いた。

 そして、再びシオンにお姫様抱っこされて大浴場までの道程を進んでいった。

 廊下を進んでいくと、仕事を終えたらしい道具を片付けている女性の使用人に何度も出くわしたので、その度に手を振って、お疲れ様ですとの意味を込めた微笑をなんとか浮かべて労いつつ、その横を通ってきた。

 アリアは、今までの冷酷で非情な印象を何とか改善しようと怠さに負けないで一生懸命に手を振り微笑みを浮かべていった。

 しかし、その傍でシオンが誇らしげに使用人たちに見せつけるようにアリアを優しく両手で抱いて堂々と歩いていった。


 (何をしているの、シオン!!)


 アリアの微笑みなど目に入らぬかのように、シオンを羨ましそうに、恨めしそうに女性の使用人達が見つめていた。

 自分の邪魔をするシオンに、アリアは少し怒って頬を膨らませると顔を上げてシオンを睨んだ。

 しかし、シオンはそんな怒った顔も愛らしいと感じてほっこりとして顔に笑みを浮かべており、アリアの抗議が全くシオンには届いていなかった。

 更に、アリアに怒ったような愛らしい表情を向けられているシオンに、使用人たちは打って変わって羨望と憧憬の眼差しを向けて、いつか自分も見せてもらおうと心に強く決意していた。

 そして、そんな混沌とした感情が入り混じる廊下を進み続けていると、先程アリアが粗相をしてしまった場所に着いてしまった。

 アリアはその場所がどこであるかが分かると、途端に身体が強張り無意識の内にシオンを掴んでいる手に力が入り、そして不安そうに見上げてしまっていた。


 「?」


 シオンはなぜアリアに見つめられたか、最初は分からなかったがアリアの視線を追い、廊下の一点を見たことで納得した。

 シオンは、穏やかに笑うとアリアを抱く腕にそっと力を入れて、優しく胸に抱きしめた。


「大丈夫ですよ」


 アリアにそっと語りかけた。

 そう語りかけられたアリアは、一瞬驚いたがシオンの慈しむような優しい表情を見ると小さく「ありがとう」と呟きシオンの胸に顔を埋めた。

 シオンは、胸に顔を埋めるアリアを優しく見守りながら、強く心に決意した。


 (心配しないでください、お嬢様。どんなことがあろうと私が守ってあげますからね!)


 そして、再びお風呂に向かって歩き出そうとした時、シオンの背中に声が掛った。


 「メイド長」


 シオンは振り返り、アリアはパッと胸から顔を離すと声のした方に視線を向けた。

 そこには、アリアの後始末をしてくれていた女性の使用人がいた。


 「あら、どうしました?」


 シオンがそう問いかけ、アリアは不安な気持ちでその女性の使用人を見た。

 女性の使用人はアリアがいることが分かると、姿勢を正して恭しくアリアに頭を下げた。


 「アリアお嬢様、お疲れ様です」


 そして、頭を上げるとシオンに口を開いた。


 「はい。メイド長を見かけたので、無事全ての“後始末”が終わったことの報告とアリアお嬢様に一言お伝えしていただきたいことがありましたので、声をお掛けしました」


 事務的な口調で、しかし一部だけシオンだけに伝わる様に僅かに声色を低く鋭くして報告を行った。


 「そう、分かったわ。ご苦労様」


 シオンは了承の意を示した。

 報告が終わると、次にシオンの腕に抱かれているアリアに視線を向けて口を開いた。


 「アリアお嬢様」

 「な、何かしら」


 平静を装って答えようとしたアリアだが、動揺が口に出てしまった。


 (え、もしかしてばれたの!?シオンへの伝言ってそれ!?)


 アリアは内心でどぎまぎしながら、次の言葉を待った。

 女性の使用人は、懸命に平静を装いつつ不安そうな瞳をしているアリアに、愛おしさを感じると表情を和らげてゆっくりと語り掛けた。


 「心配はありませんよ。ちゃんとお嬢様との約束通りに誰にも気づかれずに綺麗にしておきましたからね」


 アリアは女性の使用人の顔に視線を向けると、じっと見つめた。


 「本当にですか?」


 念を押す様に訊いた。


 「はい、大丈夫ですよ」


 ゆっくりと語り掛けてくる声に、アリアを気遣う気持ちが込められていたことを感じて、嬉しくなったアリアは、朗らかに笑うとお礼を言うためにシオンの腕から降りようとした。


 「ありがとう、シオン。もう随分楽となりましたから降ろしてもらえますか?」

 「しかし・・・。まだお辛いのではありませんか?」

 「心配してくれてありがとう。本当に大丈夫ですから降ろしてください。お願いします!」


 懇願するような瞳でシオンを見上げる。


 「分かりました」


 アリアのその瞳に見つめられ、シオンは諦めてそう返事をした。


 「シオン、ありがとう!」


 アリアは嬉しそうに微笑むとシオンにお礼を言った。


 (う、お嬢様!?それは反則です!?)


 アリアの微笑みにくらっと来たシオンはそう心の中で呟いた。

 そして、アリアはシオンに降ろしてもらいながら、余裕のできた心の中で思わず薄笑いを浮かべた。


 (ちょろいな!流石は美少女だぜ!)


 それで罰が当たったのか、降ろしてもらったアリアだったが、両足を着いて立とうとした瞬間、上手く力が入らず足が崩れてしまった。


 「あっ」


 アリアが思わず声を漏らした。

 急いで手を出そうとしたが、うまく力が入らず手を出すよりも先に顔面から地面に倒れていきそうであった。

 それでも、何とか顔面だけは避けようと身体を捻ろうとしたが、疲れきった身体は言うことを聞いてくれなかった。


 (ヤバい!?)


 アリアは、目を瞑って衝撃に備えた。


 「・・・?」


 いつまでも経っても来ない衝撃にアリアは少しずつ目を開けていった。


 「大丈夫でございますか?」


 自分の身体を受け止めてくれていたシオンと女性の使用人の顔が目に入った。

 2人とも必死な表情で、アリアを見つめていた。


 「ごめんなさい。大丈夫ですよ」


 アリアは、2人に身体を支えてもらいながら立ち上がった。


 「お嬢様、やはり無理をなさっているのではありませんか?」


 シオンの問いかけに、鷹揚に首を振った。


 「ありがとうシオン」


 心配してくれているシオンにお礼を言った後に続きを話した。


 「少し足が引っ掛かっただけで別に無理などはしていませんよ。それに、ここまで運んでくれたシオンのおかげでもうすっかり疲れも取れましたので全く心配はいりません!」


 一生懸命に微笑みを浮かべて、不安そうにアリアを見つめる二人に返した。


 「ですが、先ほどの倒れ方は」


 シオンにニコッと笑いかけ続きを強引に止めた。

 そして、女性の使用人に向き直った。


 「お嬢様、やはりメイド長のおっしゃった通り無理をなされているのではありませんか?」


 女性の使用人がアリアの顔を見据えながら真剣な表情で問いかけた。

 何度も体調を気遣われるアリアは、大切にされていることを感じると自然とその顔に笑みを浮かべていた。

 しかし、心の中では苦々しい思いも生まれていた。


 (本当に、何でこんないい人たちを虐めたりしてたんだよ、アリアお嬢様!)


 アリアは心中を表には出さないように、今もアリアを心配してくれている2人に口を開いた。


 「もう、本当に心配はいりませんよ。2人とも心配しすぎです。わたくしはもう全然、平気ですからね」


 そして、使用人に顔を向けるとアリアは頭を下げてお礼の言葉を口にした。


 「ありがとうございます。わたくしの約束を守ってここまで綺麗にしていただき本当に感謝しています。本当にありがとうございます」


 アリアは、女性の使用人に抱き着いた。そして、そこで感謝とは違う恐怖していた本心を打ち明けていった。


 「わたくしは、本当に怖かったです。もう終わってしまうかと考えてしまいました。使用人皆から“あんな汚いお嬢様には仕えられない”、“罰が当たったんだわ、いいきみ!”と言われてわたくしから離れて行ってしまうかと考えてしまいました。シオンたちに見られたとき、本当に終わってしまったと思いました」


 アリアは、恐怖に耐えるように強くしがみついた。


 「でも、そんなわたくしに軽蔑の視線を向けたり嫌な顔をせずに、逆にわたくしのことを案じてくださいました。そして、わたくしの漏らしてしまったものを文句もなく、見られないように気を使って片付けてくださいました。・・・ありがとうございます」


 女性の使用人を見上げて恐る恐る問いかけた。


「こんなわたくしですが、これからも一緒にいてくれますか?」


 不安に揺れる瞳で見上げてくるアリアに、しっかりと言葉を返した。


 「もちろんでございます。アリアお嬢様!」


 アリアを強く抱きしめた。

 アリアはシオンと同じ自分を大切に思う気持ちを胸の中に抱かれながら感じていた。その胸には、シオンとは違った暖かさと安らぎがあった。

 アリアは、しばらくの間目を閉じてその使用人の胸に抱かれていたのだった。






 「お嬢様。アリアお嬢様!」


 名前を呼ばれたアリアは、ゆっくりと目を開けて声のした方に顔を向けた。

 そこには、不機嫌そうな表情をしたシオンがいた。


 「どうかしましたか、シオン?」


 小首をかしげてシオンに訊いた。

 そう訊いた後、再び胸に顔を埋めた。


 (はぁ、柔らかい。これが母の胸か。シオンとは違う弾力と抱擁感があるな)


 不安が解消したアリアは、気持ちよく胸の感触を存分に楽しんでいた。


 「お嬢様、お嬢様!!」


 再び、シオンに顔を向けると大きく手を広げていた。


 「?」


 頭に?を浮かべた後、アリアはもう一度胸の感触を楽しもうとした。

 しかし、後ろからアリアをシオンが強引に抱きしめて引き離した。

 そして、アリアの身体の向きを変えて自分の胸に思いっきり抱きしめた。


 「ああ、お嬢様。シオンも一生離れません!」


 胸に感じるアリアに恍惚の表情を浮かべて、そう言葉をつぶやいた。


 「ねぇ、シオン?」


 もう少しあの感触を満喫したかったアリアは少しイラっとして、つい声を低くしてシオンに問いかけてしまった。


 「はい、アリアお嬢様!いかがなさいましたか?」


 胸の中に感じる幸せな感触に夢中なシオンは、アリアの変化に気づいていなかった。


 「あなたは、わたくしに仕えているのよね?」

 「もちろんでございます、アリアお嬢・・さ・・・ま。・・・!?」


 途中まで言ったシオンは、そこでアリアの様子が変わっていることに気づいた。

 そして、怒っているアリアは目にした時、シオンは自分のしでかしたことを思い出した。


 「申し訳ございません」


 シオンは大きく頭を下げた。

 顔を蒼白にしたシオンは、手を震えさせながらどこからともなくナイフを取り出すと、切っ先を首に当てた。


 「この罰は、私の命を持って償います」


 アリアは、それを急いで止めた。


 「落ち着いてください、シオン!!わたくしが悪かったわ!」


 少し邪魔されたくらいで怒ってしまった自分の狭量さと元のアリアみたいに自分勝手だった己の行いに後悔した。そして、ここまで打ち解けたシオンとの関係が無くなってしまう事にアリアは恐怖した。


 「ごめんね、シオン。許して。お願いだから止めて!」


 瞳から雫を零しながら、シオンに懇願した。

 それが聞こえたのか、少しナイフが首から離れた瞬間、アリアの傍にいた女性の使用人がシオンからナイフを取り上げた。

 その瞬間にアリアはシオンに急いで近づき、これ以上変な真似をしないようにシオンの身体に腕を回して強く抱き着いた。


 (俺は、本当にバカだ!まだ、1日も経ってないのにもう打ち解けた気になってた。前のアリアが残した傷跡がまだ心に残っているのに!自分勝手に責めて本当にバカだよ!!)


 後悔から涙を流しているアリアは、濡れた瞳でシオンを見上げた。


 「ごめんね、ごめんね、シオン」


 アリアは、誤りながらシオンの目をしっかりと見つめ、自分の思いが伝わるように言葉を紡いだ。


 「大丈夫、大丈夫ですから。わたくしは、もう今までのように罰を求めたりしませんから。お願いですから、馬鹿な真似だけはしないでください、シオン!!」


 シオンの名を力強く呼びかけて、アリアは届いてくれるように願い訴えた。

 それが届いたのか、シオンがアリアの目をしっかりと見返してきた。


 「申し訳ございません。お嬢様を悲しませるなど従者失格です」


 シオンが落ち込んだ様子で、アリアに言葉を返した。


 「いいえ、シオンが誤る必要はありません。悪いのは、わたくしです!!」


 アリアは、自分自身に冷たく言い放った。

 そして、落ち込んだシオンを元気づけるためにアリアは、体に回した腕に力を込めて抱きしめた。


 「良かった、シオン」


 シオンがまた自分を責めるような事を言う前にアリアは、シオンを案じる言葉を口にした。

 そして、自分の一番安らげる場所はここなんだと気づいたアリアは、「ごめんね」と「よかった」と誰にも聞こえないぐらい小さな声で呟き、シオンの胸に身体を預けた。






 シオンは、先ほどアリアが言った自分を責める言葉を聞いて、胸が苦しくなった。


 (お嬢様に要らない心配と責任を負わせてしまった。ダメだな、私は)


 シオンは、自分が悪いのだからそれ以上責任を背負わないで下さいと口にしようとした。

 しかし、その前にアリアが「良かった、シオン」と気遣う言葉をかけられてしまった。更に、アリアに暖かく抱しめられてしまったことで、その言葉が口から出なくなってしまった。

 シオンは、胸に感じる小さくても大きな存在に落ち込んだ気持ちが掃われていくのを感じた。


 (ごめんなさい、お嬢様)


 一言、心で謝罪した後シオンはアリアを掻き抱いた。

 その瞬間、思いのほか強く抱しめられたアリアが吃驚してシオンを見上げたが、シオンの顔を見たとたんに、穏やかな微笑みを浮かべて胸にゆっくりと顔を埋めていった。






 アリアは、突然強く抱しめられたことに吃驚してシオンの顔を見上げてしまった。

 けれど、明るくなった表情を見た瞬間は良かったと喜んだアリアだったが、瞳にはアリアに縋る気持ちが見て取れたのでシオンが愛おしく感じ、その胸が少しでも暖かくなるようにゆっくりと頭を預けていった。

 そして、アリアは、心の中で真剣に考え始めた。


 (このままでは、ダメだな。まだ、皆が前のアリアの陰に怯えている。もう、こんな風に罪を感じて自分自身を責めてはいけない)


 アリアは、ある決意をした。


「ごめんね、シオン」


 シオンの胸から顔を上げ身体を離すと、2人に向かって口を開いた。


 「2人にはお願いがあるの。聞いてもらえるかしら?」

 「はい、お嬢様」

 「畏まりました、お嬢様」


 シオンと女性の使用人が返事をした。

 アリアは、真剣な眼差しで二人を見据える。


 「最初の一番重要なお願いです。わたくしのことを信じてください」


 2人は戸惑いながらもアリアに頷いた。

 2人の答えを得たアリアは、少しだけ表情に笑みを浮かべてから、再び引き締めた表情で続きを語っていった。


 「わたくしは、今後一切周りの者達に無茶な命令や危害、罰を与えることはありません。そして、昨日までの冷酷だったわたくしのことは忘れてください。これからのわたくしを忘れないように覚えていってください」


 2人の目を見て、冗談でも前までの悪い企みでもないことを訴えていく。


 「ですので、わたくしに至らぬ点などがありましたら、遠慮せずに注意してください。それから、わたくしにして欲しいことは遠慮なくおっしゃってください。嫌なことや出来ないことなどは無理ですが、わたくしのできる範囲のことでしたら出来ますからね!」


 雰囲気を和らげる意味で、微笑みを浮かべて2人を見つめる。


 「わたくし達は、この屋敷で一緒に暮らす(多分暮らしているよね?)家族なのですよ。もう、こういうぎくしゃくしたことは起こってほしくありません。これからは、皆で楽しく気兼ねなく節度を守って暮らしていきたいです!!」


 一つ息を吐いてから、アリアは再び表情を引き締めると最後のお願いを落ち着いた口調で語った。


 「これが最後のお願いです。今わたくしが言ったことを屋敷の皆に伝えてほしいです。お願いします」


 アリアは、2人に向かって思いっきり頭を下げてお願いした。


 (まじで、お願いします。バッドエンド回避には、円滑な人間関係が必要なんです。こんな重苦しい雰囲気は止めてほしいよ。それに、俺は追加シナリオも出来ず、人生も全う出来ずに交通事故で死んでしまったのに、目の前で軽々しく命を無駄にするようなことをされると憤りを覚えるよ、命を大切にしてくれ!!)


 アリアは、憤りの籠った愚痴を心の中で発した。

 そんなアリアの真剣なお願いを聞かされて、2人は畏まって深々と頭を下げて了承の意を示した。


 「「畏まりました。アリアお嬢様」」

 お願いの承諾を確認したアリアは、この話はもう終わりだと空気を変える意味で、別のことを話し始めた。


 「長々と話してしまって疲れましたので、お風呂にでも向かいましょうか!」


 打って変わって朗らかにアリアに語り掛けられた2人は、その意図を汲んでアリアに口を開いていく。


 「そうですね、アリアお嬢様。しっかりとお湯に浸かって今日の疲れを取りましょう」


 シオンがそうアリアに返した。


 「申し訳ございません、アリアお嬢様。宿舎にいる娘たちを連れて行かなければなりませんので、ここからご一緒にとはいけません。お許しください」


 女性の使用人が、申し訳なさそうにアリアを見て答えた。

 アリアは、そんな女性の使用人の答えに少しだけむっとした。


 「分かりました。わたくしはお風呂の方でお待ちしていますね。それと、わたくしはそれくらいでは怒らないと、先ほど言ったではありませんか。もうそこまで畏まらなくても大丈夫ですからね」

 「申し訳ございま」


 また、詫びようとしたので、アリアは微笑みを浮かべて口を人差し指で押さえる仕草をした。

 そして、もう怯えないように親密感を出そうと名前を出そうとして、その名前を知らないことに気づいた。そこでアリアは、名前を尋ねてみようと女性の使用人の顔を見た。


 「今更このようなことを尋ねるのは失礼かもしれませんが、もしよろしければお名前を教えてくださいませんか?」


  アリアに改まった口調で名前を問われたその女性は一瞬呆けたがすぐに恭しく頭を下げ畏まると、アリアに口を開いた。


 「スイとお呼びください」


 名前が分かったアリアは嬉しく微笑み、親しみを込めて名前を加えて言葉を紡いだ。


 「分かりました。ではスイ、後ほどお会いしましょう。と、そうそうもしよろしければ、他の方々もお風呂の方に来てくださるようにお誘いできますか。やはり、お風呂は1人で入るより、大勢で入った方が楽しいですものね。お願い致します」


 そこまで言ったアリアは、女性の使用人が軽く頭を下げたことを確認すると、「では後ほど」と軽く言葉を掛けるとお風呂に向かって歩き始めた。




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