第33話 なつみの回想#6

 その後、私たち姉妹は、自分のやりたいことを見つけて生きていくと誓った。警察はとっくに捜査を終え、家には私たち三人だけだった。


 思えば私だけじゃなかった。いつの間にか目標を示されて、それだけを目指そうと自分を削ぎ続けてきた。達成できない壁や達した後の恐怖は三人とも同じだったのだ。

 だから私は妹と共感できた。もちろん妹を許したわけではない。山代のお陰で、私の苦痛があの子にも伝わっただろうし、なにより私たちの何がおかしかったのかを実感できた。それもこれも、彼のお陰だ。


 私は少しだけ家を出た。もう外は真っ暗で、少し肌寒い空気に覆われている。

 家の角を曲がると、そこには一台の車と、車体に寄りかかる山代がいた。私に気付くと飲んでいたコーヒーで咽てしまった。


「けほっけほ! な、なつみさん⁉ どうしてここが!」

「家から丸見えでしたよ。それで少し話があるんですけど、夜遅いですがいいですか?」


 山代は目を輝かせてうんと頷き、私を車に乗せて近くの公園に移動した。


「君、一体何者なの?」

「言いましたよね。ユーチューバーだって」

「じゃあどのチャンネルの人なの?」

「そ、それは……頑張って探してください」


 どうせゲームの実況とかしてそうだな、と思い、一晩中動画を漁ろうと思った。


 しかし彼の行動は本当の意味で私を呪縛から解放してくれた。自分に敵意を向けさせることで。生涯姉と妹は彼を憎むだろけど、私にはわかる。この人はきっと、悩みを抱えている人を救っておかないと気が済まない人間なんだなと。

 それを一人で抱えるのは、死ぬよりつらいことだ。私が経験してきたことより、ずっと困難な道でもある。


 彼がそんなやり方を貫くのであれば、私は――  


「そういえば、山代さんは私に惚れたんでしたっけ?」

「ぶふぉあ‼ げほっ、なんでそれを言うんですか! そうですけどね! 玉砕されましたけどね!」

「あー、べつに煽っているわけではないんですけど、その……気が変わったので返事をしたいな、と思って」

「え、それって」


 私は車椅子から彼を見上げる。決して対等にはなれない体だけど、きっとその思いは届くはずだと信じて、私は言葉を口にする。


「私と、付き合ってくれませんか」




 いつかあなたを救ってあげられるまで――。

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