第18話 本来の仕様
「……わかった。他にもキミのことを知らなきゃ気が済まないけど、今まで隠されてた情報量が多すぎるから、また今度にするよ」
五体満足ではないが、今までの僕の所業を許してくれたようだ。というより、他人の家庭事情は聞いていて楽しいものではない。
これ以上なつみは、強引に過去を追及しなかった。
「話してくれてありがとう」
「こんなざっくりとした経歴でいいのか心配だったけどね。でも一つ聞きたいんだけどさ、なつみはどうしてこんな何も知らない男と一緒にいようとしてくれたの?」
今思えば不思議だ。僕となつみは運命的な出会い方をしたわけでもないし、ただ僕の一方的な一目惚れとプロポーズによるものだ。一回は玉砕されたが、後日なつみが「気が変わった」と言って交際が始まった。
僕がじっとなつみの返答を待っていると、彼女は少し恥じた表情で呟く。
「キミはそれに心当たりあるんじゃないの? わかったうえで聞いてるんだとしたらそれこそ重罪だよ」
「え、ええ~……心当たりがないから聞いてるんだけど」
「覚えてないとは言わせないからね⁉ キミが私を家から絶縁させてくれたことだよ!」
「あーそれか」
言われてみればそのような事件もあったな。しかし僕としては、それがなつみの心を許すきっかけになるとは思えないが。
「あの事件で私はキミに救われた。でも同時に、キミは自分に傷を負ってでも誰彼構わず助けようとする人間だって知ったの。偽善もいい所だよ。だから私がキミの救いになりたいって思ったから、それでずっと傍にいるんだよ」
頬を若干赤らめているなつみは、かなり珍しく見えた。
案外僕たちは、お互いのことを良くも悪くも口に出して評価していなかったのかもしれない。このことに気付けただけでも、なつみに対する僕の信頼を減らした分、プラスだと思った。
「そういえば、さっきキミは『千里眼』の力がどうとか、って言ってたよね。どういうことなの?」
話もひと段落したと、僕はお茶を啜っていたところだ。なつみに指摘されて、先程言おうとしていたことを思い出す。
「やっとその議論ができるね。実はちょっと気づいたことがあるんだ。さっきから僕となつみで見解の相違みたいなところがいくつかあったんだ」
「相違? キミのお父さんのこと?」
「それもある。でもこれからの説明は、言葉よりも目で見た方が早い。――『千里眼』起動」
僕はしばらく放置していた左目に、信号を送るよう意識する。コードを通り、僕の意思のとおりにテレビ画面が作動する。
「僕は昨日、この『千里眼』の性能を試したんだよ。科学的に解析することはできないからさ、とにかく物体の未来を時間経過式に観察したんだよ。庭に咲いている花とか、天気とか、サイコロの目とか。あと相手の行動とか。それらすべてを『千里眼』で調べると、どれも全部予知通りだったんだ」
するとようやく、テレビと左目の接続が完了したようだ。
僕は前置きをここまでにして、唇を湿らして本題に入る。
「だからこの目の未来予知は完璧なんだと、そう確信してた。でも本来の仕様は別にある。『千里眼』はいくつもの並行世界を観測し、さらにはその並行世界にジャンプできる力を持っているんじゃないのかな」
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