第8話 未来の条件
僕はテレビへの出力を一旦遮断するように意識した。なつみに最悪の未来を見られることなく選別するためだ。
『千里眼』は所有者が設定する現在時刻を原点として、分単位にIFの選択肢を無作為に発生させ、それによって生じたいくつもの未来になりえるものを『並行世界』として観測する。いわば世界シュミレーションのようなものだ。
目を瞑ると、僕の視界にいくつもの映像が縦に並んで浮き出てくる。これら一つずつに目を通して比較するよりも、条件にかけて絞った方が断然効率が良い。心の中で条件を唱える。
――天堂なつみが現在と同じ健全な健康状態のまま過ごす未来
――病院以外の場所への外出、但し二週間以内
フィルターをかけた瞬間、無数に並んでいたはずの映像の列が、九割以上フェードアウトした。すでに残されている数は三十もないのではないか。
「よかった~。マジで『千里眼』あって助かったよ」
内容までは確認していないが、僕たちが何をしてもほとんどがバッドエンド、もしくはそれに近い未来ばかりのようだ。そうと知ると、つい安堵の息が漏れた。
「今は未来の選別してるの?」
「そうだよ。選択肢を出せばなつみでも決められるかと思って」
「条件は何にしたの?」
やけに細かく聞いてくるなあ、と思いながらも答える。
「なつみが健康でいられる未来かつ、二週間以内に外出をする未来だよ」
「なるほど…………え、キミは?」
「僕はいいよ。とりあえずなつみが怪我とかしなければいいから」
するとなつみはむっとした表情になる。
「二人が無事じゃなきゃ意味ないから! だったらこうしてよ。『キミと私が無事に帰還する未来』って」
「わ、わかったよぅ」
なぜかキレ気味に条件の修正を指示された。ベッドをペシペシ叩くほどおかしな条件だっただろうか。
――僕となつみが無事に帰還する未来
条件の追加をすると、意外なことに、二十あった未来が残り十二までに減ったのだ。
「あらら、なつみに指摘されなかったら、僕が怪我をする未来を選択肢に含めるところでしたわ」
「それ、笑いごとじゃないから」
なぜだろう。なつみの反応がやけに冷たい気がするな。それほど未来を真剣に見定めようとしているのか。
――もしそうであるなら、本質的に僕もアイツと同じなのかもしれないな。
「蛙の子は蛙ってことか……」
「どういうこと?」
「なんでもないよ」
かなり話が脱線したが、とりあえず僕は仕切りなおして未来を観測することにした。
しかし数分後、十二通りある未来を見た僕は驚愕のあまり呆れてしまった。
「なつみは水族館好き?」
「人生でまだ行ったことがないからなー。それ以外の選択肢はないの?」
「うん。僕たちに残されたデート先は神奈川の〇×水族館のみでございます」
最終的に残された未来、それは二人で『水族館に行く』というものだけだった。条件で絞った結果であるなら、この『千里眼』の予知通りに行動すれば無傷のまま帰ることが出来る。
しかし疑問に残ることがある。それは、水族館以外の場所に行った選択肢が尽く消滅したことだ。言い換えれば、この予知に反して映画を見に行ったりしたら無事に帰ってこれないことになる。まるでおかしな話だ。
「……そっか。じゃあ私は行ってみたいな。水族館」
「お気に召したようで何よりです! ではなつみお嬢様、医師に外出許可を取りに行って参ります。なんなら有休もとってきます」
そう言って僕は猛ダッシュでなつみの病室を飛び出した。
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