裏. 悪意の根源
「全く、どいつもこいつも使えないわね。壊れた小娘一人どうにも出来ないなんて!」
とあるマンションの一室にて、派手な装飾に身を包んだ中年女性が苛立ちながらスマホを床に叩きつけた。
「せっかくあたしがここまでお膳立てしてあげたって言うのに!」
怒りが全く治まる様子は無く、床に落ちたスマホを思いっきり蹴り飛ばした。
「しゃーないさ、まさかあんな奴が手を貸すとは誰も思わねぇよ」
部屋の中にはアロハシャツとグラサンという見るからにチャラそうな若い男もいて、中年女性とは対称に冷静だ。
「篠ヶ瀬優斗ね。お人好しがしゃしゃり出てくる可能性は考えていたけれど、まさかあんな化け物が出て来るなんて想定外にも程があるわ」
「同感だ。あんな人脈チート反則だろ」
どうやら彼らは優斗をとんでもない人物達が支えていることに気付いているようだ。
「悪いが俺はここまでだ」
何よ、逃げる気!?
などと女が癇癪を起すことは無かった。
「分かってるわ。むしろ早く消えて頂戴。絶対に足がつかないようにするのよ」
「もちろんだ。俺だって捕まりたくはないからな」
「ほとぼりが冷めたらまたよろしく頼むわ」
「ほとぼり? しばらく待つつもりなのか?」
「まさか」
男の問いに女は醜悪な笑みで答えた。
「この程度で引き下がるなんてヤツらに負けを認めているようなものじゃない。絶対に全てを奪い尽くし、奴らが大切にしていた娘をぶっ壊してやる」
「おお、怖い怖い。だがくれぐれも気を付けてくれよ。俺に足がついたらあんたも危ないのと同様に、あんたに足がついたら俺も危ないんだからよ」
「分かってるわよ」
彼らの関係が何なのかは分からないが『足がつく』という表現をしている以上、まともなことはやっていないのだろう。
「大丈夫よ。篠ヶ瀬優斗がどれほど卑怯な存在だとしても、あたしがアレを持っている以上、小娘は誰にも頼れないのだから」
「だが王子様が頑張っちゃうかもしれないぞ」
「それならその王子様も一緒に縛ってしまえば良いのよ。お姫様にお願いされたら断れないでしょう」
「まぁ確かにな」
男は女の言葉を受けて渋い顔になる。
正しいとは思っているから反論しないが、同時にかなり危険だとも思っているのだろう。
「しかし何をするんだ。俺の仕込みは全部潰されたぞ。学校も会社ももう手を出せない」
学校、会社。
ということは男の仕込みとはまさか。
「身内を使うわ」
「おい!?」
「仕方ないのよ。そろそろヤらせろって煩い奴らが多くてね。全く、見ためだけのあんな小便臭いガキの何処が良いんだか」
嫉妬か?
などと聞き返すほど男は無粋では無かった。
どこの世界でも、善人だろうが悪人だろうが女性が若さを羨むのは当然のことなのだから。
「でもそうね。確かに身内を使うのは危険よ。篠ヶ瀬優斗が私の存在に気付きアレを取り返しに来るかもしれないから。だからあなたにお願いがあるの」
「…………」
「アレを持って隠れて頂戴」
「そうきたか」
男と女はすでに一蓮托生の関係だ。
爆弾でありキーアイテムを抱えることに不満は無い。
「だがお姫様がこれを諦めたらどうする?」
「その時はあたしたちが破滅するだけよ」
「…………」
「…………」
女はさらりと終焉を言ってのけた。
男は怖くないのかと聞き返したかったが、無言のプレッシャーを受けて口に出来なかった。
「だからあたし達はやるしかないのよ」
身内を使うのは危険かも知れないが、どうせこのまま待っていても状況が悪化するだけ。
優斗が傍にいることでお姫様が成長してアレへの執着を失ってしまったのなら、全てが白日の下に曝け出されてしまうだろう。
そのことを女は良く分かっていた。
「小娘が潰れるか。あたし達が潰れるか。あたしは絶対に勝ってみせる」
女のその宣言を聞いて満足したのか、男は闇に溶けるようにいつの間にか部屋から居なくなっていた。
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