優斗. これからどうしよう

 俺と同じ。


 それが彼方の第一印象だった。


 鏡で毎日のように見ていた絶望した自分の表情と全く同じ表情だった。

 いや、むしろ俺よりも深い悲しみと苦しみを瞳にたたえていたように見える。


 人助けの血が騒ぐ。

 放ってはおけない。

 手を差し伸べるのは当然の事だった。


 だが同時に自分の本当の姿を見せられているかのようで苦しかった。

 だから一旦は彼方から離れようと考えた。

 人助けしたい気持ちよりも逃げたい気持ちの方が上回った。


 そんな逃げ腰の俺を母さんが叱ろうとしているのか、あの言葉が勝手に思い出されてしまう。


 その子は『幸せにしたい相手』となり得るのではないかと。

 『一緒に幸せになる』チャンスなのではないかと。


 母さんの遺言を守りたい気持ちと、彼方と向かい合って自分の闇を見せつけられる恐怖。

 そして純粋に彼方を助けたい気持ち。


 多くの気持ちが入り混じって悩みに悩んだが、彼方の優しさに気付いた俺は彼方と共に在ることを選択した。


 自分が辛い状況でも他人を想える彼方の優しさ。

 それは母さんの優しさととても良く似ていた。


 彼方の中に母さんの姿を見たのか、あるいは単に優しさが気に入ったのか。

 正確な理由は自分でも分からないが、俺はこの時、彼方を好きになったのだろう。


 人としての好きなのか異性としての好きなのかは微妙なところだが、可愛い彼方と接するうちに異性としての好きが百パーセントになっていた。


 尤も、本当に彼方が好きだったのかという確信をずっと持てないでいたのだが。

 その理由が彼方に告白されるまで分からなかったというのは我ながら情けない話だと思う。


 情けない話と言えばもう一つ。

 自分が苦しんでいる理由も分かっていなかった。


 彼方と出会って温かな想いを胸に宿し幸せな日々を過ごしていたことは間違いない。

 母さんの遺言を守れているはずだった。


 それなのに左手の傷は治らないし、一人になると心が澱んでいる気がした。


『俺は今幸せなんだ』

『彼方と一緒に幸せになろうとしているんだ』

『俺は幸せなはずだ。だから大丈夫。俺は幸せなはずだ。だから大丈夫。俺は幸せなはずだ。だから大丈夫。俺は幸せなはずだ。だから大丈夫。俺は幸せなはずだ。だから大丈夫。俺は幸せなはずだ。だから大丈夫。俺は幸せなはずだ。だから大丈夫。俺は幸せなはずだ。だから大丈夫』


 まさか彼方への想いを疑っていただなんてな。


 母さんに言われたから幸せだと思い込もうとしているのか、本当に幸せなのか。

 その狭間で悩み苦しんでいた。


 どうりで彼方の事が好きかどうか考えても答えが出ないはずだ。

 危うく『好きに違いない』だなんてあやふやな気持ちのまま告白するところだった。


 とりあえず俺の事はこんな感じかな。


 改めてしつこく説明するまでもないことだろう。


 問題は、だ。


 これからどうしよう。


 いや、だってさ。


 俺って絶対、彼方のことが好きすぎるぜ。


 まず第一に可愛い。


 最初会った時は幽霊かと思える見た目で体が細くガリガリで異性としての魅力は皆無だったけれど、元気になった彼方はとびきりの美少女でスタイル抜群と来た。

 後で知ったんだが、美少女としてかなり有名で告白されまくりだったんだとさ。

 俺は高一の時に精神状態がまともじゃなかったから知らなかっただけらしい。

 

 次に相性が良い。


 明るくて笑顔が可愛くて何よりも傍に居ると居心地が良い。

 話しやすくて軽口を叩き合うのが楽しくて、それなのに無言の時間も心地良い。

 相手に合わせるとか、機嫌を伺うとか、そんなことをする必要が全く無いんだ。


 後、忘れちゃいけないのが性格だ。


 俺が好きになったきっかけでもある優しいところは普通に生活しててもさりげなく出てくるんだ。

 優しいというよりも面倒見が良い面の方が強いかもしれないな。

 家事が得意ってこともあり、母性が強い男をダメにする女性って感じだ。


 そしてちょっぴりえっちだ。


 本人は断固否定すると思うけれど、ときおりやらかすのは実は本性が出ちゃってるんじゃないかって勝手に思っている。

 もしそうだとして彼方と本格的に恋人として生活することになると……俺、自重出来る自信が無いぞ。


 てなわけで、改めて考えると俺は彼方の事が大好きなわけだ。


 恋人なんだから好きで良いじゃないか。

 そう思う人もいるだろう。

 俺もそう思うし、爆発しろとも思う。


 でもさ、物には限度ってものがあるのよ。

 俺らは猿じゃなくて人間だからさ、いくら相手が好きだからって節度を守って交際するのが正しい在り方だと思うのよ。


 ちゃんと分かってるんだ。

 同棲生活をしているからって若気の至りで流されまくったらダメだって分かってるんだ。


 分かっているけどさ!


 俺多分、彼方に今まで以上に超優しくなるぜ。


 だって考えてもみてくれよ。


 彼方のことが好きすぎて迷いも消えた。

 困っている人に優しくしたい性格で彼方はまだ問題を抱えている。

 母さんの遺言効果で彼方を幸せにしたいと思っている。


 な、ヤバいだろ? 


 ぶっちゃけこれまでもこれらが原因で彼方に尽くしていると思われてもおかしくない程に優しくしてたんだ。

 それなのに迷いが消えたことでより優しくするどころか、追加で好きな気持ちを伝えようとしてしまう気がするんだ。


 そして彼方がそれを喜んでタガが外れたらさ……


 ぬおおおおおおおお!


 どうすりゃ良いんだ!




 母さん。


 俺は今幸せだよ。


 幸せすぎて困っていることもあるけれど、笑って見ていて欲しいな。


 それともう一つ。


 俺達が本当に・・・幸せになれるように応援して欲しいんだ。


 そうなるためには、彼方に残された問題を解決する必要がある。


 そして彼方に『生きてて良かった』って言わせる。


 きっとその時こそが、母さんが望んだ『相手を幸せにして一緒に幸せになる』ゴールだと思うから。


 母さんの望みを叶えるのではなく、俺自身がそのゴールを目指したいと思うから。


 だから応援して待っててくれ。







 それと学生の間に子供が出来ないように祈ってて欲しいです。マジで。

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