4. 突撃! お宅訪問
「~~~~っ!」
優斗が彼方を家に招くのを抵抗したのはどうやら正しかったようだ。
彼方は顔を真っ赤にして両手で覆って家の外に逃げてしまった。
「だよなぁ」
優斗はその間に慌てて床に散らばったいくつものソレを優先して回収する。
「自分でも正直これは無いわぁって思うもん」
ソレが何処に落ちているのかなど優斗は覚えていない。
普通のゴミの中に紛れてしまっている可能性もあるから全部ゴミ袋にぶち込まなければならない。
しかもソレは部屋中の至る所にある。
本来は自分の部屋にしか無いのが普通なのだが、自分の家に戻る時間が殆ど無かったため場所を選ばずにソレを作ってしまったのだ。
「ゆ、優斗……君?」
「まだ片付けてるからもうちょっと待ってて」
「う、ううん。私もやるよ」
「うええ!?」
彼方はまだ顔を真っ赤にしているが、部屋の中に入ってきた。
「ゴミ袋、使うね」
「いやいやいや、え、マジで?」
「がん……ばる……」
そんな風に照れて言われたらまたソレが増えてしまうではないか。
慌てて優斗は彼方に背を向けた。
そしてその意味を彼方は察してしまい、更に顔が赤くなり優斗のお尻のあたりを思わず見てしまう。
意識しているのはお尻では無く前面の方。
男の子のシンボルの部分なのだが。
「よぉ~し。やるぞお!」
彼方は不自然に大声をあげて強引に気持ちを切り替えて何も考えずに床に落ちたゴミを拾い始めた。
惣菜の空き箱、パンの袋、使用済みの割箸、そして
彼方はそのティッシュを拾う時だけ一瞬躊躇したものの、凄い速さで拾いゴミ袋に押し込んだ。
それこそが優斗が事前に片付けたかったものだった。
男の子の種が包まれたティッシュを彼方に見られる前に捨てたかったのだ。
優斗が彼方に出会ってから、彼方は優斗を何度も誘惑して来た。
その全てにどうにか抗った優斗だが、悶々としたイベントの連続により溜まりに溜まってしまったのだ。
しかも彼方は少し前まで一人にすると壊れてしまいそうになるため離れることが出来なかった。
そうなると当然処理することも出来ない。
以前にも少し説明したが、唯一のチャンスは彼方が風呂に入っている時間。
優斗はその時間に慌てて家に帰ると洗濯などの行為と一緒に欲求も解消していたのだった。
だが時間があまりにも短かったため、自室に戻ってパソコンを起動してお宝映像を表示して……なんてやっている暇はない。
幸いにも彼方のスキンシップのおかげで常に暴発しそうな状況だったため、処理するのに時間はかからない。
しかし少しでも早く用事を終わらせて彼方の家に戻らなければという焦りがあり、自室に戻ってベッドに横になる時間さえ惜しんで所かまわず処理をした。
そして廃棄物を他のゴミと同様にその場に放り捨ててしまったのだ。
せめて他のゴミが散乱していなければちゃんとゴミ箱に捨てていたのかもしれないが、諸事情により既に部屋中が荒れてしまっていたため、後でまとめて捨てれば良いやと近くのゴミの傍に捨てるのに抵抗感が無くなっていたのだ。
元々優斗はそこまでズボラではない。
環境がそうさせてしまった悲しい事件だった。
「~~~~っ!」
しかし、だ。
捨てられていたのはあくまでもただの丸まったティッシュだ。
優斗が気まずげにそれを急いで片付け始めたとはいえ、その正体をすぐに察したということは案外彼方も……これ以上は危ない。
そんなこんなでゴミを一掃し本格的に部屋の掃除が始まった。
とはいえ彼方の家の場合とは違ってゴミさえ片付けてしまえば他は綺麗に整頓されているので普通の掃除だ。
埃を取り掃除機をかけ窓を開けて空気を入れ替える。
キッチンのシンクに積まれている食器達を洗い、彼方得意の家事能力を発揮してみるみるうちに室内がピカピカになって行く。
作業しながら彼方は優斗の事情について思いを巡らせる。
「(一人暮らしの部屋じゃない。ご両親は……)」
高校生の一人暮らしにしては広すぎる家。
というよりも自分が住んでいる家の間取りにかなり近い。
明らかに家族と一緒に住むための家だ。
優斗が彼方の家に入り浸っている事。
家族で住むための家に一人で住んでいる事。
悪い予感がするけれどもまだ確信は持てない。
物語に良くあるように両親が海外長期出張している可能性もあるのだから。
「(ゴミは凄かったけど、それ以外は綺麗に整頓されてた)」
優斗は家事が苦手だけれど、だからといって彼方の家で雑な生活はしていなかった。
むしろ何をやるにも丁寧さを心がけていて決してゴミをその辺に放り投げるようなタイプには見えない。
もちろん彼方の家だから気を使っていた可能性もあるけれど、この家の様子はある日突然ゴミを雑に捨て始めたかのような不自然さを感じられた。
「(普通に過ごすことすら出来ずにゴミを散らかしてしまう程の何かがあったのかも)」
彼方が何をする気も起きなかったように、優斗もまた心を病んで投げやりに生きていた可能性は無いだろうか。
教室での病んでいるような姿の優斗であれば考えられなくはない。
「(やっぱり優斗君には何かがありそう。来て良かった)」
もう少し調べれ……ではなく片付ければ何かが分かるかもしれない。
「優斗君の部屋も掃除するよ」
「うっ……やっぱりそうなるのか」
「もちろん!」
優斗の部屋もまたゴミが散乱していた。
例のアレも数多く見つかったが、無心になって作業を続ける。
「お布団も干さなきゃ」
シーツや枕カバーなどいつ変えたのかって感じだ。
やるからには徹底的に。
彼方は優斗の家を磨き上げた。
「ここまでしてくれるなんて悪いな」
「気にしないで。だってこれから一緒に住むんだもん」
「え?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いて無いよ!?」
「そうだったかな~」
もし優斗が一人暮らしで自分と同じ境遇であるのなら、しばらくは優斗の家で暮らそうと考えていた。
そうすることで何か見えて来るものがあるのではないか。
だからまずは暮らせる状況になるようにと掃除に精を入れていたのだ。
「マジか……彼方が俺の家で……」
「あはは、今更でしょ」
「いやそうなんだが、そうじゃないというか」
これまでずっと同棲生活をしていたのだ、今更場所が変わるだけで何が違うと言うのか。
もちろん相手の家に行くのと自分の家に呼ぶのとでは気分が全く違うのは当然のことだが、この二人に関してはそのくらいの差など誤差だろう。
「お泊りセット持ってこないと」
まるで旅行にでも行くかのようにワクワクしている彼方だが気付いていない重大な問題があった。
その問題は、片づけが終わり、その日のうちに拠点を優斗の家に移し、夕飯もお風呂も全て終わって『これなら優斗君の家でも生活出来るね』などと余裕で言い放った直後に発生した。
「どうする? やっぱり彼方の家に戻ろうか?」
「~~~~っ!」
優斗の部屋のベッドと壁の位置。
それは彼方の部屋と同じで寝転んで左側が壁になっている。
そして彼方は右手を握って貰えないと眠れない。
つまりそれが意味することは。
「ありがたく使わせてもらいますうううう!」
そうやけっぱちに叫んで彼方は勢いに任せて優斗のベッドに横になった。
そして隣に設置した簡易ベッドに優斗が寝て手を握る。
このポジションで寝ざるを得なかったのだ。
「(ふわああああ! 優斗君の匂いが、匂いがするうううう!)」
たっぷり干したはずなのに、お日様の香りよりも染みついた優斗の香りが体中を包み込んでクラクラする。
「(変な気分になっちゃうよ……)」
今日は散々例のティッシュを意識させられ、優斗の香りに全身が包まれ、優斗に右手を握られている。
「(ダメ! 危ない!)」
気付いたら自由な左手が危険なことをしようとしていた。
こんなところで発情したら行くところまで行ってしまう。
そうなったら優斗の問題を解決するどころではない。
「(こんなの耐えられないよおおおお!)」
攻めに攻めて家まで押しかけた結果、最後の最後で自爆してしまうのであった。
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