裏. 俺は何処で間違えたんだ?
このロリコン共めが。
無駄に広く無駄に豪華な役員室で豚共が気持ちの悪い話に華を咲かせている。
「熊田さん、先日はありがとうございました。大変すばらしい体験をさせて頂きました」
「いえいえこちらこそいつもお世話になっております」
「お世話だなんてとんでもない。私なんかゴミのような相手しか紹介出来ずいつも申し訳なく思っております」
「最近の若い者はなってないですからな」
「全くです。若い頃から手を抜いて金に見合った仕事を果たせないなんて将来が思いやられますな」
「その点、熊田さんはいつも素晴らしい若者に出会えるようで羨ましい限りです」
「何かコツでもあるのですか?」
「はっはっはっ、運が良いだけですよ」
運が良いだけだと?
ハッ、良く言うわ。
俺に指示するだけで自分は手を汚さず美味しい所だけ頂くクズの癖に。
他の豚と同じくパパ活だのなんだので外れの女を楽しんでいれば良いものを。
俺の苦労も知らず呑気なもんだ。
まぁその分
「確かに運が良いのでしょうな。彼のような部下を従えているのですから」
「はっはっはっ、本当にその通りです。全部彼のおかげですよ。ですがあげませんよ?」
「頂けませんか。それは残念だ」
「これまで通り、皆さんの要望を時には聞きますからそれで勘弁してください」
「それはありがたい。また今度お願いしますよ」
いやいや、準備するのどれだけ大変だと思ってるんだよ。
そう簡単に安請け合いしないでくれ。
なんて言っても無駄なこと。
俺がここに呼ばれているということはそういうことなのだろう。
役員の中にただ一人ただの部長が混じっている。
それは俺が特殊な役割を持っているから。
彼らが満足する女を見つけ、必要であれば
はぁ、面倒だ。
だがこいつらの要望を聞いている限り俺の人生は安泰だ。
こいつらと同レベルの金は貰えるし、こいつらの次に強い権限も貰えている。
部長の役職で甘んじているのは、何かあった時に奴らが俺を切りやすくするためだろう。
貰えるものさえ貰えればそれで良いから特には気にならんがな。
さて今回はどうしたもんか。
手っ取り早いのは社内で弱みのある人間を探すことなんだが、使えるものは使い切った感があるんだよな。
と思っていたら丁度良いタイミングで部下のクズ野郎が良い話を持って来た。
「部長! これ見て下さいよ!」
新しくうちの部署に配属された三日月という男。
俺に能力が無いと周囲に思わせ役員との関係を悟らせないようにするのと、社内の問題児を苦しませる場所として敢えて掃き溜めの部署にしていたのに、それを一掃しようとしている厄介な人間。
クズ野郎が痛めつけているから任せているが、それでダメなら転属させて追い出すつもりだった。
その三日月に美人の妻と子供がいるとクズ野郎が報告して来た。
どうせ大袈裟に言ってるんだろうと思い大して期待せずに見たが、中々のものだった。
娘は間違いなく役員共の好みだろうし、俺は嫁が気に入った。
うちの部署をかき回してくれたお礼も兼ねて、頂いてやろうか。
そんなことを俺のパトロンに報告したら予想外のことを言い出した。
「それは丁度良い。実はその三日月とやらをどう排除するか考えていたところだったんだ」
「は?」
基本的にこいつが直接社内のことに関わることは無く、何かあっても全て俺に押し付ける。
それなのに考えていただと。
どういう風の吹き回しだ?
どうにも嫌な予感がする。
「よし、お前はこれまで以上にそいつに仕事を振れ。極力家に帰すな。会社に泊まらせても良い」
「過労死させないレベルで追いこめということですか?」
「ああ、正常な判断が出来ないくらいに疲れていればそれで良い」
「…………承知致しました」
良く分からないが、パトロンがそう言うのなら俺に拒否する選択肢はない。
何か問題があるのならばそれを上手く回避するのも俺の役割だ。
過労死させないレベルというのが難しいところだが、なんとかやって見せるさ。
しかし一体何を考えているのだろうか。
俺の駒であるクズ野郎が三日月を憎んでいることもあり、そいつを追い込む作戦は順調だった。
三日月が俺に何かを訴えても体よく誤魔化し、コンプラ部門も俺の部署には手を出せない。
後は文句を言ったら査定に響くとでも言えば奴は何も出来なかった。
そんなある日、またパトロンに呼び出された。
「その日に三日月を帰せば良いのですか?」
「ああ。出来れば娘の誕生日を祝ってやれとか、手に持ちきれない程の大きなぬいぐるみをプレゼントすれば喜ぶのではとか言ってやれ。そうすれば後はこっちでやる」
「はぁ、承知致しました」
は?
こっちでやる?
指示だけでは無くてこいつが実際に手を下すということか?
ますます嫌な予感がする。
しかしこいつも別に愚鈍なわけではないから止め辛いな。
豚共の中では割とマシであり程良い野心がある。
だからこそ俺はこいつに目をつけてのし上がるために利用させて貰っているのだから。
仕方ない、何かあったら後始末で挽回するか。
ってまさかあいつ殺したのか!?
流石に人が死んだとなればいくら俺でも擁護できねーぞ!
今の時代、過労が原因で事故を起こしたとなれば炎上しかねん。
そうしたら俺も豚共も終わりだ。
え、事故は過労が原因ではない?
追突事故が原因?
追突されて後にトラックに轢かれた?
「追突された後の反応が早ければ助かったかもしれないらしいがな。運が悪い奴だ。はっはっはっ」
こいつまさか。
いや、止めよう。
こいつが何をしたかなど考える意味はない。
俺は自分がやるべきことをやるだけだ。
この状況で俺達が困るのはやはり違法な労働を強いたことがバレることだ。
「遺族が訴えてくる可能性はありますか?」
「それは無い」
即答しやがった。
俺が知らないことをこいつだけが知っていることがどうにも気味が悪い。
自分が事態を動かしていないことが不安でならない。
「残された娘は誰にも相談出来ない状態だからな」
「は?」
「家でも学校でも一人らしい、可愛そうなことだ。是非我々が助けてあげようではないか」
そんなことがありえるのか?
学校でも? 親族は?
しかしここまで自信をもって断言するということは本当の事なのだろう。
それなら確かに俺達に被害は無さそうだ。
しかも容易に操れるだろう。
嫌な予感は拭えないが、何もかも上手く行きそうな状況ではある。
しかしテンションがダダ下がりだ。
まさか嫁も一緒に死ぬとはな。
娘を人質にして楽しもうと思ったのに、クソが。
「おい、どうなってる!」
例の娘を拐かすようにとクズ野郎に任せてから数日後。
自席に座って次の計画を考えていたらパトロンが大慌てでやってきた。
「熊田さん、ここでは何ですのであちらへ」
まさか社員の居るところで露骨に話しかけてくるなんて。
これまでずっと関係がバレないようにしてきたのが水の泡じゃないか。
しかしそのことが頭から抜け落ちる程に慌てるなど一体何があったんだ?
「うちの会社が突然買収工作をかけられた」
「は?」
「しかも相手はかなり強引な手段を使って来ていて、色々とバレそうな状況だ」
「は!?」
どういうことだ!?
うちの会社を欲しがるだけならまだしも、バレそうだというのは意味が分からないぞ。
上層部が腐っていることが分かっているなら要らないだろう。
特別な強みがあるわけでもなく、優秀な社員が多い訳でも無い平凡な企業だぞ。
買収する価値が何処にあるっていうんだ。
「今のところ私達のことは嗅ぎつけられていないようだが、他の連中は違う」
そりゃあそうだ。
俺は徹底して隠ぺいして来たからな。
ただ他の豚共はおおっぴろげにパパ活だのなんだのやっていたから少し調べればすぐにバレてしまうだろう。
「だが問題はそこではない。買収を仕掛けて来た奴らが何故か三日月の話を持ち出して来たんだ」
「は?」
何だと!?
買収問題で何故一個人の話題が出てくる。
ありえないだろ。
「すぐに調べて対処しろ。そしてお前が指示した男を逮捕させずに処分しろ」
「逮捕させずに? ですか?」
「ああ、不可解だがそれが先方の望みのようだ」
「……分かりました」
確かに不可解だが、クズ野郎に話を聞いたらなんとなく見えて来た。
例の娘を脅しに行った時に見知らぬ男子高校生が一緒に居たらしい。
俺の勘ではそいつが元凶だ。
クソが、あのクズ野郎に任せた俺の失態だ。
俺なら事前情報と違っても上手く立ち回れた。
だが後悔なんかしている暇など無い。
クズ野郎は圧力をかけて処分したが、買収問題は終わっていないのだ。
この買収は成立すると俺の勘が言っている。
そして豚共は若い女に手を出していたことがバレて社会的に処分されるだろう。
道連れにされるのはごめんだ。
俺が手掛けた『案件』はほとぼりが冷めるまで隠しておけば良い。
問題は三日月の件だ。
買収を仕掛けて来た奴らが今回の件に興味を抱いているのなら間違いなく俺にまで辿り着く。
どうする。
どうすれば一番被害が少なく収まる。
こうなったらかなり苦しいが証拠を消して知らぬ存ぜぬで押し通すか。
三日月の娘達が何かを言おうとも、証拠が無ければ無かったこととして押し通すことが可能かもしれない。
幸いにもまだ直接手を出していないからな。
回収すべき物証は一つ。
あの偽の督促状を急いで取り返しに行くぞ。
くっくっくっ、ざまぁみろ。
良い気味だ。
ちょっとした意趣返しで俺と三日月の母が不倫していると臭わせて焦らせてやろうと思ったらあんなにも効果があるとはな。
ここしばらくストレスが溜まる展開だったから少しだけスカっとしたわ。
ざまぁみろ。
ガキが大人を舐めるからそういう目に合うんだ。
徹底して下手に出たからかいとも簡単に証拠品を渡してきやがったし、これで俺達は何もしていないと言い張れる。
これで逃げ切ってやる。
そう思っていたのに。
「君には失望したよ」
「は?」
「今日、奴らからこんなものを見せられた」
「はぁ!?」
あの偽の督促状の写真だった。
まさか奴ら、写真に撮って残しておいたのか?
だが甘い。
「そんなの偽造だとでも言えば良いだけの話では?」
俺達を陥れるために偽造したものだ。
そもそもそんな無茶苦茶な内容の督促状なんて社会を知らない者が作ったに違いない。
そう言い逃れできるはずだ。
「ふん、偽造なのは君が取り返して来た方では無いのかね」
「…………」
「先方はアレが確固たる証拠だと言っていたよ。本物を持っていると確信している口ぶりだった」
「まさか……そんな……」
あのガキ、まさか督促状を複製してそっちを渡して来たのか!?
しかし確認したがアレは確かに本物そっくりだったぞ。
そんな技術をあんなガキが持っているのか?
いや、違う。
あのガキに協力している人間の仕業か。
くそ、くそくそくそくそ!
姑息な真似しやがって!
だがまだ諦めないぞ。
逃げるチャンスはあるはずだ。
「あいつらは誰にも頼れないんですよね。なら私達の行為も公には出来ないのでは?」
クズ野郎を警察に関わらせずに処分させるくらいだ。
俺達を社会的に罰することも出来ないはずだ。
「そうだな。だから俺達は買収後に転勤になるらしい」
「転勤?」
「中東支部。紛争地帯に近い都市で職を失った現地の人に技術を教える仕事だとさ。はは、やりがいがあるだろう」
「…………」
ふざけるな!
そんなの死ねって言っているようなものじゃないか!
「はは、終わりだ。何もかも終わりだよ。君も私も、もう終わりなんだよ」
「そんな馬鹿なああああああああ!」
何故だ。
どうしてこんなことになった。
金も女も権力も全て手に入れ、悠々自適の老後生活を楽しむ予定だったのに。
全て上手く行っていたのに。
俺は何処で間違えたんだ?
その後、買収は成功して豚共は全員逮捕。
俺と元パトロンは中東へ飛ばされた。
元パトロンはいつ死ぬかも分からない恐怖に耐えられず逃亡して行方不明。
俺はどうにか耐えきったが、ある時日本に強制送還されて三日月の件を含むすべてが明らかにされて逮捕された。
残りの人生の全てを塀の中で過ごすことになるのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます