貴様、末代まで呪ってやるわぁあああ!
「何の話かよくわからないが、とにかく俺は病院と邪竜の後始末で忙しかっただけだ。本当に浮気なんかしてない」
エオライトは困ったようにそう言った。
「すまん、鼻血の件、そんなに悩んでたんだな……」
ゼオはため息をついた。
「でもそれじゃあ、エオライト様は本当に浮気をしていないってことですわよね?」
「ああ……」
三人は黙り込んでしまった。
どうも、ミュリエルは何か大きな勘違いをしているらしい。
そこで始めて、地面をいじいじしていたアインダークが、会話に加わった。どうやら巣が壊れたショックから、少しは回復したらしい。
「我が名はアインダーク。人間たちよ、どうぞよろしく」
「お、おお、どうも。割と友好的じゃねぇか」
アインダークは二人と握手を交わした。
しかしエオライトと握手したところで、眉を顰める。
「ム? 貴様、なんかついてるぞ」
「?」
アインダークが、エオライトの頭上あたりをテシーンと振り払った。その瞬間、赤黒いモヤのようなものがペシっと弾き飛ばされた。エオライトはブルリと身震いをする。
「い、今何か飛んで行きましたわよ?」
ピナがビクッとすると、アインダークが肩をすくめた。
「古代魔術がかかっていたようだ。貴様、よくそれで今まで生きていたな」
「え?」
エオライトはキョトンとした。
「並大抵じゃない呪いだ。そんな呪いにかかったら、四肢が爆散して血を撒き散らして死ぬぞ、普通」
「はあ……」
ゼオが呆れたように言う。
「おいおいおい、古代魔術ってドラゴンにしか使えねぇのに。エオライト、お前どこでそんなもの引っ付けてきたんだ? ってかなんで生きてんの?」
「いや知らな……」
──待てよ?
エオライトはふと思い出した。
*
「貴様、許さぬ、許さぬぞぉおおおお!」
邪竜討伐の最終局面。
エオライトは逆鱗と呼ばれる竜の喉の鱗にありったけの力で剣を突き刺し、邪竜にトドメの一撃を与えた。
「貴様、末代まで呪ってやる!!!!! 五臓六腑が爆散し、その血を撒き散らしながら失血死するがいいわぁあああああっ!」
「うるさい」
淡々とエオライトは邪竜を討伐したのだった。
*
「いやそれじゃね?」
「それじゃないですの?」
「吾輩、絶対それだと思う」
三人に突っ込まれて、そうなのか……? とエオライトは首を傾げた。
「貴様、なんかよくわからんがマナ耐性が強すぎるぞ。人間のくせにドラゴン級ではないか」
「お前、人間離れした強さだもんなー。呪いも完全にかからなかったんだろ」
「ちょっと待ってくださいまし」
ピナがふと、何かに気づいた。
「エオライト様は、鼻血が止まらなくて貧血になったと仰ってましたわよね?」
「「「あ」」」
ピナの言葉で、三人は何かに気づいたようだ。
「もしかしてそれって、邪竜の呪いのせいだったんじゃないですの?」
「……それは、確かに」
エオライトははっとして鼻に手を当てた。
それから何かをじっと考え込んで、カッと目を開く。
「ひ、姫のことを考えても鼻血が出ない……!」
「呪いならさっき吾輩が解除したぞ」
エオライトの顔がぱああああああと輝いた。
「お、俺は……俺はもしかして、姫と対面してももう鼻血が出なくてすむんじゃ」
珍しく拳を振り上げて喜ぶエオライト。
よかったな、とゼオが呟く。
「これで話し合いができるじゃねぇか」
「そうですわ。姫の勘違いを解いてきてくださいまし」
「あ、ああ」
エオライトは頷いた。
「そもそも姫は、エオライト様がセクシーな女性が好きだと勘違いして、願いの果実を取りに来たのですわ。セクシーになるという願いを叶えてもらうために」
「え……」
エオライトは驚いた。
「俺のことを、嫌いなかったからじゃなく──?」
「ええ。姫はあなたのことが大好きなんですよ。だからきっと勘違いを解けば、姫も元に戻ると思いますの」
四人は空を見上げた。
一体どう言うわけかわからないが、ミュリエルは半竜となって空に浮かんでいる。
「吾輩でもどうすることもできなかった。人間、お前の言葉でどうにかしてくれ」
「責任は取れよ、ちゃんと」
そう言われて、エオライトは頷いた。
この壮大な勘違いを、解かなければ。
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