ギャグ要素じゃなかったんかい!
「おいおいおい、どうなってんだ、あれ!?」
ゼオの先導で飛竜に乗って北の山脈に向かっていたエオライトは、北の山脈が近づいてきたところで、奇妙なものを見た。
突然、空に向かって、巨大な黒い竜巻のようなものが巻き起こったのだ。
「おいおいおい、ありゃあマナだぜ! もしかしてフレイムドラゴンは、悪しき竜だったのか!?」
「……違う」
(間に合わなかったか)
エオライトは、自分の至らなさに失望してしまった。
「あれは、姫だ……」
「はぁっ!?」
「姫の、マナだ……」
「どういう……っおい! あれ!」
ゼオは何かを発見して、指を差した。
黒い竜巻の合間をぬって、中心に何か巨大で透明な卵のようなものが見える。何となくだが、そこにあるものがこの竜巻を引き起こしているような、そんな気がした。
「嘘だろ! あそこにいるのって……」
ゼオは絶句してしまった。
「ミュリエル姫……!?」
*
「ううう、何とか退避できましたけど……アインダークさん、大丈夫ですの?」
「うああああ、吾輩の家があぁああああ!!!!」
「大丈夫じゃなさそうですわね……」
ピナはアインダークと共に、何とか山の麓まで避難していた。
アインダークは赤髪の青年の姿に変身し、涙を流して山の方に手を伸ばしている。
(ご自分のおうちが破壊されたんですものね。そりゃあショックですわ)
ピナは冷や汗をダラダラ流しながら、アインダークが手を伸ばす方向を見つめた。
黒い竜巻と、空に浮かぶ透明な卵。
(まさか……まさか姫が……)
卵の中には、一人の少女の姿があった。
けれどその背中には黒くて巨大な翼が生え、手は鱗に覆われ、爪は鋭く巨大になっている。アメジストの瞳は、まるで爬虫類のように瞳孔が縦に伸びていた。
頬まで鱗に覆われたその表情は、俯いているせいでよく見えない。けれど正気を失っているのは確かなようだった。
(姫がドラゴンだったなんて──!)
あの空に浮く半竜の少女は、ミュリエルだったのだ。
ピナはしっかりと、ミュリエルがあの姿になるところを目撃していた。
「姫をどうにかして正気に戻さないと……あっ」
オロオロしていたピナは、上空に竜騎士の姿を発見した。
冒険者ギルドに連絡を送っていたおかげで、先鋭隊が到着したのかもしれない。
「騎士様ー!! こっち、こっちですのー!!!!」
ぴょんこぴょんこと飛び跳ねて、何とか竜騎士たちの視線をこちらに向ける。
竜騎士──エオライトとゼオはピナを発見すると、急いでこちらに向かって降りてきた。
*
「……と言うことなんですの」
「おいおい、姫がドラゴンだって?」
合流した二チームは、ひとまずお互いの情報を交換していた。
「吾輩の巣が……快適だったのに……」
アインダークは地面で指をいじいじさせていた。相当ショックだったらしい。
「ってかこいつがドラゴンだってことも衝撃なんだが」
「この方はいい竜ですわ。わたくしを助けてくださいましたもの」
「はあ」
アインダークは相変わらず落ち込んでいる。
「一体どうしてこんなことに……」
エオライトがつぶやくと、ピナがまなじりを釣り上げた。
「そもそもの話、あなたが浮気するから悪いんじゃないですの!?」
「は?」
ピナに詰め寄られて、エオライトは目を瞬かせた。
「お、俺が浮気を……?」
「姫は仰っていました。あなたにセクシーな愛人がいるのだと」
「???????」
「とぼけたって無駄ですの! 名前も聞きました。ベアトリーチェとか、何とか」
(いや誰???????)
エオライトの頭の中に?が大量に浮かんだ。
「お、お前、エオライト! 浮気してたのか!?」
ゼオがエオライトの肩をつかんで、ガクガクとゆする。
ポカーンとした顔で、エオライトはゼオを見た。
「お、俺は浮気をしたのか?」
「いやなんで俺に聞くんだよ」
二人のやりとりを聞いて、ピナが呆れる。
「浮気をしたという自覚もありませんの?」
「いや、お、俺は本当に……」
ゼオもようやく正気に戻った。
「そうだよな。お前、邪竜討伐の後始末で忙しくしてたし、それ以外は屋敷に戻ってたもんな。いや待てよ? でも確かに、なんかこそこそしていた時期もあったような……」
ゼオとピナの冷たい目が、エオライトにむく。
エオライトは慌てて首を横に振った。
「や、やましいことは、何もない」
「怪しすぎますわ! 姫の誤解を解くためにも、白状なさい!」
「う……」
ピナに詰め寄られて、エオライトはモジモジしていた。
「実は……」
「実は何だよ?」
「病院に通っていたんだ」
「病院?」
ゼオは首を傾げた。
「お前、なんか病気してたのかよ?」
「いや、それが……」
はあ、とエオライトはため息を吐いた。
「姫に近づきすぎると鼻血が出る件で、貧血が悪化してしまって……。病院で検査したんだが、血液の数値が悪くて、しばらく通院していたんだ」
「「……」」
「結局色々検査したんだが、病気は見つからなかった。ひとまず貧血の治療をして──」
ゼオはエオライトの話を遮って、ガシッと肩を掴んだ。
「エオライト」
「ん?」
「お前それ……」
「?」
「ギャグ要素じゃなかったんかいっ」
ゼオは思わず突っ込んでしまったのだった。
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