(5)
叶署から飛び出して早々に車の縦列に阻まれてつっかえる。年々渋滞のピークも分散され気味にはなってきたが、心地よく車が流れるほどには解消されていない。ざっと見通す限り、主要幹線の進みは自転車に劣るかもしれない。
「柴くん!」
「はい!」
即座に見切りをつけて脇道へ。この辺りは、というかこの街はそもそも一方通行が多く、枝道ともなれば概ね一方通行だ。折れ間違えれば振り出しに戻ることもざらにある。
ともすれば迷路と言えなくもない道筋を、迷いなく突き進む。最短には及ばないものの、細かく折れ進みながらも刻々と目的地へ迫る。
後数分もすれば、まで来たところで車両の警察無線が鳴った。
『本部よ――ガガッ――長谷川ァっ! 柴塚ァ!』
無線からの声が、出だしが終わる間もなくだみ声へと変わった。横から赤井が奪い取ったのだろう。
『現場に到着した巡査から報告! 屋内には男性一名が意識不明の重体、腹と胸に銃弾食らってるらしい! それ以外誰も居ない! 繰り返すぞ!
『長谷川、了解!』
「柴塚、確認します!」
別車両の長谷川に続いて返答したと同時に現場到着、全員が駆け下りる。目前には一戸建て、広いとは言い難い敷地に二階建て、ただし築年数はまだまだ浅いと見た。
玄関の鍵は閉まったまま。長谷川が家屋横へと指を指し、柴塚と鍛治谷口がうなずいて向かう。長谷川と高城は逆回りで進む。柴塚たちが回り込んだ先、窓が破られていた。鍵付近だけを割り解錠する手口。侵入者は素人ではなさそうだ。
現在は中にいるのは存命の巡査、および生死不明の男のみのはず。危険があるとは思えないが、一応銃を抜いて、音を殺しつつ迅速に窓際へ。
「ふっ、ふっ、ふっ……」
一定のリズムで呼気が響いてくる。覗き込むと、制服姿の背中が倒れている人影へと心臓マッサージを施していた。
即座に踏み込む柴塚、鍛治谷口。
気付いた制服姿が振り返る。
「本署の方ですかっ? 自分は△△通派出所の山岡ですっ」
「叶署刑事第一課の柴塚です」
「同じく鍛治谷口です。状況は?」
「はっ、110番通報を受けて急行、状況を確認してここで倒れている男性を発見、救急車要請済みですっ。私と来た川崎が屋内を捜索しましたが誰もおらず、心肺停止したため心臓マッサージを実施していますっ。川崎は通報者に事情聴取しに行ってます!」
報告が終わるか終わらないかのうちに、同じ窓から長谷川と高城も入ってきた。
「屋内不在確認済み、被害者心肺停止救急要請済み、通報者事情聴取中」
柴塚の報告に長谷川がキレよくうなずく。それから高城と鍛治谷口へと声を飛ばした。
「念のためだ。鍛治谷口1階、高城2階」
「はっ」
影が滑るように離れていく一方で、長谷川と柴塚は被害者を確認する。顔を覗き込んで、長谷川が眉をひそめた。
「コイツは……」
柴塚もしゃがんで覗き込む。
「知った顔ですか?」
「竜河組の構成員だ。以前別件で見た覚えがある」
竜河組といえば、指定暴力団岳山組の2次団体で、組長がその岳山組の若頭補佐も務めていたはずだ。
「久七島関係者の誰かから?」
「だろうな。上の方から手が回ったんだろう」
柴塚と長谷川が立ち上がったところに、影が戻る。
「1階、異常ありません」
「2階、異常ありません」
鍛冶屋口と高城が続けて報告する。
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