(15)
鍛治谷口の返しと柴塚の割り込みが重なった。
やや気圧されたバーテンダーが慌て気味になる。
「あ、あれですよ、裏に
「防犯用に目立つところに?」
「いや、そんときは頭にきてたんで、犯行現場を
「見せてください」
柴塚の体が半歩分ほど前に出る。素人では断れない圧をモロに浴びたバーテンダーの首が小刻みに上下した。
バーテンダーに続いて柴塚と鍛治谷口は店のバックヤードへ入る。在庫スペースの奥に事務用の一角があり、そこのパソコンのマウスが少し動かされる。
省電力モードから復帰した画面を、バーテンダーが操作していく。
「設置した業者によると、三日過ぎたら自動的に圧縮する設定らしいんで、画質は悪くなってると思いますよ。一ヶ月分は記録残したいってオーダーしたから、かなり圧縮することになって……そう言えばここんとこ何もなかったからチェックしてなかったな……えっと、
「8月2日――いや、1日の22時から。早送りで」
柴塚にバーテンダーが「はあ」と応えて動画ファイルを開いた。
画質は言う通りかなり悪い。が、暗視カメラだけあって真夜中でも十分に判別が可能な映像になっている。
特に何も映らず時間表示だけが過ぎていく。表示の日付が変わった……0時30分……1時……1時30分……
「あ」
「止めて」
バーテンダーの声に、すかさず柴塚が指示を出す。行き過ぎた分を戻して、再生し直す。
時間表示は8月2日午前1時52分。
止まる車。降りてくる人。運転席から女、助手席から男。男が助手席なのは矛盾しない。
「――
「だね」
映っている車のナンバープレートは、時田自身の車であることを示していた。柴塚も鍛治谷口も頭に叩き込んである情報だ。
刑事二人の様子と、録画映像とを見比べるように往復しながら、バーテンダーがまた大慌てになった。
「いや、知らないですよ!? 店に来なかったのはホントですよ!? ここのところチェックしてなかったんで、ウチのコンテナには何もなかったし、こんなん知らなかったんですよ!?」
出会ってから一番の早口になったバーテンダーの肩を、鍛治谷口がなだめるように優しく叩いた。
「ええ、ええ、大丈夫ですよ、貴方のお話は信用しています。大丈夫。ですので、このデータのコピーを頂けませんかね?」
にこやかに語りかける鍛治谷口に、バーテンダーが何度もうなずく。
動画ファイルをコピーしたUSBメモリを受け取り、軽く礼をしてBARを立ち去る柴塚と鍛治谷口。
「殺害現場と当日の行動、穫れたねぇ」
「鑑識でロープから塗膜と木皮が検出されれば、裏もOKですが」
言いながら、検出されないはずがないと柴塚は思っていた。当日の映像が手に入ったのだ、これ以外のシナリオになる道理はない。
8月2日午前1時52分、
物証は、BARの裏手に停められた時田の車から出てくる男女の記録動画、それから鑑識でロープから検出されるはずの公園フェンスの塗膜及び木皮。
「鑑識を待つとして、午前中はどうする? 柴くん」
捜査本部の定時会議は昼一、それまでの時間を何に使うか。
鍛治谷口へと柴塚が顔を向ける。
「発見現場と殺害現場、それぞれの工事業者をあたりましょう。遺体を運んだ手口も割り出せれば――」
「――さらに説得力が増すね。朝一で手早く周ろう」
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