(13)
時間にして夜11時半過ぎ。犯行時刻には少々早いが、このぐらいまで夜が更けていればまあ結果は変わるまい。
仮にも都市部の住宅街、自然に近しいとは決して言えないに関わらず、そこここから虫の音が耳に届いてくる。だからといって涼やかになるわけではなく、柴塚の感性的にはただ鼓膜に響くだけだが、昼間の蝉の狂声と比べれば遥かにマシではある。
街のノイズと、自然のノイズが、概ね等しい割合。
候補の一つの道筋へ、足を踏み入れる。
虫の
「あ、すみません」
――人に
軽く会釈をしてやり過ごす柴塚と鍛治谷口。見ると、右手の向かいのマンションの1階に飲み屋があるらしい。夕刻に見て回った際には準備中だったはず、ということは深夜営業の形態か。マンション自体も点灯している部屋が多く、しかもベランダが全て
振り返った左手にはコインパーキングがある。カメラが設置されているのは確認済みだ。
この
日が落ちてから開業する飲み屋があり、住人の宵っ張り率が高そうなマンションの主たる採光部が直面している通りなど、とても使われるとは思えない。
では次のルートを、と柴塚と鍛治谷口は
次が最後の4本目。これでダメなら読み違いということだろう。
細い路地。右手はマンションの壁。はめ殺しの小さなすりガラスのいくつかからは光が漏れているが、総じて暗い。左手は見るからに廃屋、それに続く竹藪。随分古い洗濯機や本棚など、家庭ゴミらしきものが不法投棄されている。突き当りは建設工事中の現場で、フェンスが絶え間なく並んでいる。かなりの規模のマンションらしく、結構続いている。逆サイドが駐車場で、ブロック塀が長々と続いている方へと進路転換する……。
街のノイズも、自然のノイズも、遠い。今までのルートの中では、特に。夜の暗い熱気の中から逃れようと、月が浮かび上がろうともがいて行く。
抜けられはしないのに。果ては無いのだから。
熱帯夜を裂くように、しかし注意深く目を走らせながらゆっくりと、柴塚と鍛治谷口の足が進む。
進んでいく。止まらない――止まった。
「越えたね」
「はい」
鍛治谷口に柴塚がうなずく。
半径1kmの境界線が足元。この
ここからは目撃者探しも兼ね合わせながら進むことにする。コンビニ等があれば
そうしてさらに1km程歩いたところに、BARがあった。既に日付が変わって1時間以上が過ぎている。
「ああ、来たねこの人」
バーテンダーが時田の写真に反応した。
柴塚の体が少し前のめりになる。
「いやいや、しばらく前に2、3度見かけただけで? 俺は関係無いから!」
気色ばんだ
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