(9)
そこだった。今まで捜査本部では屈強な男を犯人像として想定、
それにしても、だ。犯罪の真相究明のために
……痕跡の一つでも残ってないとおかしい。
【藤木香菜子の身体能力を前提とするならば、特に。この現場は仕込みを作るにも道具を使うにも適しているが、それならば痕跡が一切ないのはむしろ不自然ではないか?】
殺害すれば痕跡が残る。ならば、痕跡が残らないのは――殺害していない?
【ここでは殺害していない】
ここは殺害現場ではなく、遺体の投棄現場なのか。
【そもそも、藤木香菜子を犯人と想定するならば、反撃される事態も十分に想定される】
【足の付かない現場を作り上げるよりも――】
――現場から遺体を移してしまったほうが安全だな。
様々な仕込みと道具を用いて自身より明らかに膂力のある相手を殺害し、その後始末を徹底する。それも深夜2時から3時に。常識があれば、何がしかを見落とすことを心配するだろう。完璧な痕跡抹消を期待するのは無理がある。ならば、動かぬ遺体を運んでくる方がリスクは少ない。
そうなると、今度はどこが殺害現場で、どうやって運んだかが問題になる。殺害現場はそう遠くはないはずだ。司法解剖で確認された
殺害現場はこの近辺か。
無言のまま立ち尽くしていた柴塚の足が動き出す。時間にしてせいぜい10秒ほどではあったが予期しない挙動であり、同行の鍛治谷口は面食らったはずだが、黙って後に続いた。
立入禁止のテープを越えて、
ぐるりと一周し、加えて少し回って、柴塚の向きが定まった。
高架下の内側、本来なら両脇に店舗が並ぶ、細い通路。もう一方は作業真っ只中だったらしく資材やら何やらが積まれていて不通だが、柴塚が今向いている方は開けている。工事中とはいえ路面を
歩き始めて、こちら側にも貼ってあるテープを越え、そのまま足を進める。頭上は線路が敷かれて電車が走り抜ける。県内では本線なので、頻度は高めだ。先程柴塚たちが歩いてきた側道に比べると、内側だけに目撃されにくさは段違いである。
左右、上方へと回すように視線を移動させつつ、確かめるように目を走らせつつ、柴塚は足早に歩く。
ものの数分、3分ほどで目の前が開けた。高架下をくぐる車線へと行き当たった柴塚はまた、ぐるりと見渡して、それから向きを変えた。
西陽に晒される、高台。
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