(5)
「藤木本部長が気を遣われているとは。一体どこのお嬢様なんですか?」
高城がサラリーマンっぽさを演出する。さも、もしも上司にとって得意先だったら失礼は出来ないと言わんばかりの慌て方を器用に混ぜ込んでみせた。
自身が上位と思い込んでいる藤木裕司は、そんな高城の姿に優越感を呼び起こされて、鷹揚な態度になった。
「ああ、大丈夫、別に
唐突に口を閉じて、藤木裕司が目を泳がせる。流石に連続殺人事件の被害者との関係を公言するのはまずいと気付いたようだ。
ほとんど公言したようなものではあったが。
しかし、目下捜査しているのは
目前の刑事たちから追及が来ないことに安堵したのか、藤木裕司が咳払い一つして
「まあ、あれだ。とにかくあの店には頭を下げてもらえりゃいいんだよ。そうすりゃ別に荒立てる気は無いんだからさ」
顎を上げ気味にして、藤木裕司は手を払うように振ってみせる。ここに来る前の情報では慰謝料を請求すると息巻いていたようだが、別に確固たる意志をもって主張していたわけではないらしい。
ただの難癖のために――と、釈然としないのも正直なところでは有るが、柴塚たちとしても話が切り上げられるのは歓迎である。
「はい。それでは捜査の――」
「藤木本部長は嫌いですか?」
高城が対談を終いにしようとするところに、柴塚が食い気味を超えて思いっきり被せた。
無言の鉄面皮がいきなり声を発するのも、その発言の内容も、そろって突飛過ぎた故に、問われた藤木裕司だけでなく高城も長谷川も呆然とする。
そして誰よりも柴塚自身が愕然とした。相変わらず顔には出ないが。
何を言ってるんだ俺は?
「……は?」
「おい?」
「柴塚君?」
初手の藤木裕司の声はただの
が、口は翻意する気がないらしい。
「貴方は父親の藤木本部長のことを嫌いなのですか?」
柴塚に繰り返されて、目に見えて藤木裕司の機嫌が悪くなっていく。
「何だ手前――」
「嫌いですか?」
藤木裕司の声に、柴塚がまたも被せる。
【この場に不適切な発言は――】
やかましい。
柴塚は頭の片隅の声も封殺する。
「おい――」
「嫌いですか?」
柴塚の口は相手に異を唱える隙を与えないつもりらしい。
出がかりで切り捨てられるのが繰り返され、苛ついた藤木裕司が声を荒らげた。
「おうよ嫌いだね! だからどうしたよ!? お前に何か関係があんのかよ、ああ!?」
立ち上がりながら叩きつけるように叫ぶ。
間はあるものの、柴塚と藤木裕司が向かい合う形になった。
「嫌いですか?」
「当たり前だろうがよ!
ひとしきり激高する藤木裕司。そして速やかに鎮静し、今度は自身の発言を振り返って動揺、と乱高下を繰り広げる。
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