(9)

 日時:8月11日21時01分

 差出人:key_sakaki@××××.com

 宛先:○○○○@××××.com

 件名:Re: no title

 本文:申し訳ありません、改めてお伺いしたいのですが、本件はご指定の時間帯での対象の行動を観察する、で良いのでしょうか。対象に知られないようにするよりも、対象の合意の元で護衛した方が良いのではないでしょうか?


 日時:8月11日21時38分

 差出人:○○○○@××××.com

 宛先:key_sakaki@××××.com

 件名:no title

 本文:本人に知られないところでで結構です。それで十分ですので。


 日時:8月11日21時44分

 差出人:key_sakaki@××××.com

 宛先:○○○○@××××.com

 件名:Re: no title

 本文:彼女にも事情を説明して協力いただいた方が、本官のみで護衛する上では効果的だと思いますが。ご親族の安全のために最善を尽くすべきかと具申します。


 日時:8月11日21時49分

 差出人:○○○○@××××.com

 宛先:key_sakaki@××××.com

 件名:no title

 本文:現状で十分です。それから、やり取りは順次消去していますね? 残さないように。


 日時:8月11日21時52分

 差出人:key_sakaki@××××.com

 宛先:○○○○@××××.com

 件名:Re: no title

 本文:承知いたしました。


 ファイルの内容はここまでだった。

 最後まで追ったところで、柴塚の唇が小さく動いた。


「……攻めたな」


 鍛治谷口もうなずく。


「『彼女』に『親族』。なら張り込みの対象は藤木本部長の身内で女性ですね。榊くん、よく書いたな」


 このメールを書く前の昼間、ここに集まる面子メンツで、犯人はと気づいたばかりだった。それと自身が内密に指令を受けている張り込みとが結びつくとしても、平巡査が県警本部長トップに対して容易に発言できるものではない。さらに、やり取りの順次削除を念押しされ、文面でも具体的な内容が特定しづらい単語を使われている中で、『彼女』『親族』と、を書き残している。不興を買うこと間違いなしと思っただろうに。


 それでも、いや、だからこそ万一のために残そうとしたのだ。

 そして、その2語で、対象は特定された。


「藤木本部長の親族で女性。本件に関係して榊君が『護衛』と判断する相手。この条件が該当するのは、ですね」


 高城の言葉に、全員がうなずく。

 赤井が代表する。


「藤木香菜子だ」


 藤木香菜子。藤木本部長の息子、藤木裕司の妻。久七島出身の24歳。

 他に条件が該当するのは藤木自身の妻の富江だが、5年前に死去している。なお、藤木の両親はすでに他界しており、姉妹は元からいない。叔母は健在だが高齢者施設で療養生活を送っており、いずれにしても久七島とは縁もゆかりもない。したがって、該当者は香菜子一名のみなのだ。


 そして、榊が最後に会った相手である可能性が高い人物でもある。


「榊くんとしては、犯人ホシが女性かもしれないということ、自分がしていることが護衛というより監視に近いこと、それを命じたのが県警本部長だということから、不審感を持ったんだろうね」


 鍛治谷口が湖面に置くように言葉を運び出す。

 対して、長谷川が太刀で払うように柴塚に問う。


「接触したと思うか?」


「おそらく」


 斬り返すように柴塚も答えた。


「で、結果がこれならば、榊君の殉職に藤木香菜子は絡んでいますね。直接手を下したか、もしくは間接的にかは分かりませんが、無関係ということはないでしょう。事情聴取したい話を聞きたいところですが……」


 高城が言い淀む。

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