(7)

 柴塚も小野寺も言葉を交わし、小野寺が有線usbケーブルで繋いでノートパソコンを操作し始める。スマホとノートパソコンとを忙しくなく往復していた小野寺が、ぴたりと止まった。


「変やな、どうもこのスマホコレ管理権限を全部外してあるっぽいで?」


「外してある?」


「正確には、出荷状態に戻してあるわ。出荷状態あるあるなパスをいくつか試したらすぐアタリ引けたし」


 首を傾ける小野寺よりも、柴塚の方が困惑する。


「どういうことだ?」


「多分やけど、ロック自体は榊くんがんちゃうかな?」


「何故――いや、わざとなら、か?」


「カンやけどな。何か残すつもりやったんかもしれん。、な」


 もしそうなら、遣る瀬無い話である。

 室温が上がったと錯覚したのは、人が寄せ集まったからか、それとも――


「バカ野郎が」


 割れたまきの裂け目から熾火おきびが覗くように、赤井の罵声は密やかに静かに、だが鮮烈だった。

 それを背負いながら、小野寺はノートパソコンと向かい合う。


犯人ホシに逆手に取られるんを承知の上で、っぽいです。このスマホの起動履歴やと、最終操作は12日の午前2時8分。薫ちゃん、榊くんの死亡推定時刻は――」


「――午前0時から2時の間だ」


 小野寺から柴塚が話を引き継いだ。


「榊が操作したんじゃないのか?」


「かもしれん。けどな、いくつかのフォルダの削除履歴が11日の午後10時頃でそろっとんねん。さらに各ロックを初期状態に戻したのも10時。ややこしく考えへんかったら、、と思わへんか?」


 黙り込む柴塚。


「それにな? 最終操作は発信とかとちゃうで? フォルダの閲覧履歴や。のな? 死の直前にすることか?」


 確かに違和感がある。数時間前にきっちりやっておいた作業を、死の直前でもう一度しようとするだろうか? 消してあることを最後の最後に確認――する余裕があるなら警察に通報誰かに連絡するだろう。

 柴塚の代わりに高城が口を開いた。


「そうすると小野寺君、君は榊君が11日午後10時にスマホのデータを一部削除して設定を初期状態に戻し、榊君殉職の直後に犯人ホシが彼のスマホをチェックした、と考えるんだね?」


「そうですね」


「なら、榊君がデータを削除したのは……犯人ホシに見られないようにするため?」


「もあるかと思いますが、、やないでしょうか?」


?――ああ、なるほど」


「いやいや、何が『なるほど』だ?」


 一人納得した高城へ、赤井が横槍を入れる。説明不足以前に説明していないことに思い至った高城が、一同へと向き直った。


「復元です。あれですよ、パソコンでファイルをゴミ箱に移しても即抹消されるわけではなくて、ゴミ箱から戻すことができるじゃないですか」


 ああ、と赤井が手を打った。ノートパソコンと向かい合ったままで、小野寺がさらに説明を加える。


「本質的に、デジタルで『削除』しようとするならするしかないんですよ。見られたくないハードディスクの中身を抹消する作業って、意味のない数字の羅列なんかで上書きしまくることなんすよね。ボールペンの文字は消しゴムでは消せないから、読めなくするにはボールペンで線を引きまくるしか無い。修正テープ貼っても光に透かせば何となく見えちゃったりしますし、そもそも剥がれちゃったら丸分かりですし」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る