(5)

「前にこの部屋で藤木本部長と話したことを報告しましたが、あの時、榊は『主任?』と言った。ということは、榊も本部長に接触されたのではないか、と」


 柴塚の説明に一同が首を傾げる。思い返そうとするのだが、何しろ柴塚が藤木に呼び出された話その時のネタのインパクトが上回っていて、誰の記憶でもはっきりとは残っていないのだ。辛うじて高城が「そう言えば、そんな一言を言ってましたっけ」と反応できただけだった。


「確かか?」


「確かです」


 赤井に念を押されて、柴塚がきっぱりと返す。それからさらに続けた。


「思えば合同捜査本部が置かれた県警本部が介入してきた日以降、榊は妙に寝不足気味でした。睡眠不足には強いはずなのですが。仮に、藤木本部長が榊にも接触していたとして――」


「――柴塚お前に何らかの動きを期待したように、榊にも何かをしていて、それを榊は夜に実行していた、か?」


 意を汲んだ長谷川が引き取って言及した内容に、柴塚はうなずいた。


「この案件の捜査に入ってから榊とは常に組んで行動していましたが、何か別の作業をしていることはありませんでした。となれば、何かするのであれば夜中しか無い」


 首を傾けたままの赤井が加わる。


「ただの巡査が本部長から指示されれば、そりゃあ黙ってるだろうな。辻褄はあってるように聞こえるが……」


「推測の域を出ませんね。榊君が言ったというのも、確かそうだったような気はしますが、断言できるほどには思い出せません」


 そう言いつつも、高城はすぐに自説へ自分で反論していく。


「しかし、どんな些細なことでも今は調べる当たるべきでしょう。特に、常に組んでいた柴塚君が感じた違和感なら期待できる」


「そういう感覚は馬鹿にできませんからね」


 高城に鍛治谷口も同意した。そして腕を組み直す。


「となると、どうやってを追いましょうか?」


 仮説が正しいとすると、榊は藤木から指示を受けて動いていたわけだが、その指示はどういうものだったのだろうか。柴塚自身の時のようにアドバイスを投げて終わりか、もしくは定期的に成果を確認するような内容だったのか。柴塚と同様単発ならお手上げになりかねない。が、もし定期的な報告を要するものだったならば、必然的に、

 手がかりが切れない単発ではないことを祈りつつ、調べるならば――


「――普通に、携帯スマホでしょうか」


「だろうな」


 柴塚の提案に赤井もうなずく。

 このご時世、連絡を取るといえばまず自身のスマホだろう。メールだろうがSNSだろうが、とにかくスマホが使われる可能性は極めて高い。


 問題は、事件現場の遺留品として鑑識の管理下で保管されていることだ。つまり、まともに調べるなら捜査本部境管理官に一言通すことが筋である。

 しかし、率直なところ、県警本部にこれ以上牽制されたくはない。そんなやり取りをしている暇はない。それに、今はまだ気付いていないようだが、柴塚や榊が藤木本部長から誘導やら指示やらを受けていたと知れば、境は間違いなく榊の捜査も仕切ろうとするだろう。何故榊が殉職することになったか、境が違和感だけで確信まで届いていないであろう今のうちなのだ。

 であるならば。


「よし、後で話を通すから取り敢えず取ってこい」


 迷いなくしれっと指示する赤井。場の誰しもが理解してはいるものの、一応、鍛治谷口が確認する。


「いいんですね、赤井さん?」


「まあ、所轄の面目のためのお飾りとはいえ、俺も捜査本部の指揮官責任者だからな。その代わり情報ネタは根こそぎ回収する獲るぞ? し残してあちらさんが見つける、なんてことは許さんからな?」


「はっ」

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