(3)
「それには反対です」
境が言い終わる前に、赤井が鬼の形相で抗議しようと口を開くよりも早く、よく
「――……長谷川警部補」
力押しで横槍を入れられ、境の矛先が向きを変える。
「長谷川警部補、警察が拳銃を奪われるなど見過ごせない大失態です。責任問題は免れません」
「柴塚が奪われたわけでもないのに、ですか? 単に上司だからという理由だけなら、拳銃配備を決定した堺管理官にも責任の一端はあることになります」
思いの外に強い非難に、受ける境だけでなく抗議しようとしていた赤井も面食らっている。
何より、擁護される柴塚自身が面食らっていた。
「それに、柴塚は高架下事件の責任者で、今から外れるのは捜査に支障をきたします。難航している現状では看過できません。また、榊巡査殺害も、日頃組んでいた柴塚が捜査する方がより成果が見込めるかと」
「……高架下の件は私が直接指揮を執ります。この捜査本部を執行している私ならば支障はないでしょう。また、同僚だから、上司だから捜査に適しているというのは偏見ではありませんか?」
「捜査本部の執行者が個別の捜査まで担当するのは非効率です。管理官の能力の如何ではなく、組織の体制として。榊巡査の捜査も、彼が何を好むのか、非番はどう過ごす傾向があるのか、彼の人となりを知る方が追いやすいのは自明では? 管理官はご存知なのですか?」
が、柴塚には意外だったが、出席している捜査員からは動揺が感じられない。叶署側の熱気が長谷川を後押ししている、もしくは長谷川が背負っていると言えばいいだろうか。
同じく――といってもこちらは姿勢に表れているのだが――首を傾げる境が、独り言のように呟く。
「……君は柴塚君とは合わないと聞いていたんだが」
おそらくはそれが境の本当の声音なのだろう。事務的でも機械的でもなく、角が丸くすらある、温度のある声だった。
対する長谷川も似通った声で応じる。
「確かに
まあ、結局支持は出来ませんし合わないのに違いはないんですがね、と長谷川は口の片端だけ上げて見せた。
思いもよらない評価に、柴塚の目が丸くなる。長谷川からは敬遠されていると思っていたが、そう言えば、そもそも腹を割って話すこと自体が、思い返してみれば無かった気がした。
「……それはただの理想論でしかない」
「そうですね。でも理想を否定したらお終いでしょう?」
境と長谷川のやり取りが続き、最後は境のため息となった。
深いため息だった。
切り替えた境は元の調子に戻っていた。
「結構。長谷川警部補、柴塚巡査部長、引き続き捜査を進めてください。榊巡査の捜査は柴塚巡査部長にお願いします。何か分かり次第、この本部へ逐次報告を。それから――」
境が、この場の指揮官として、声の向きを室内の全員へと合わせる。
「――現在、犯人が拳銃を所持している可能性が非常に高いことに変わりはありません。各自最大限の注意を、特に現場の捜査員は必要に応じて防弾衣の用意を。それから、不可避ならば発砲もいたし方ないことを念頭に行動してください」
最後に加えられた一言に反論する間を許さず、すかさず「以上!」と締めくくる境に、横で赤井が露骨に歯噛みをした。長谷川も同じく、柴塚も唇を一文字に引き絞る。
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