(6)
「!」
一同に緊張が走る。
それは波のように、同時ではなく若干のタイムラグを持ちながら伝わっていった。赤井と長谷川から始まり、榊に行き着くように。
高城にしては珍しく、憎々しげな舌打ちが入る。
「ちっ。まさかこんなボケミスをしているとは……」
「不覚を取りましたね。頭から疑ってませんでしたよ。しかし――」
鍛治谷口も頭をやや乱暴に掻いた。そして、それから改めて首をかしげる。
「――現実的に、可能でしょうか?」
「そこが問題ですね。まずは可能か不可能かを検証しないと。不可能なら身も蓋もない――が、疑ってみればやり様は充分見つかりそうだ」
「見込み捜査では?」
「違いますよ鍛治谷口さん。今までが見込み捜査だったんですよ。だから可能性を検証しなおすんです」
鍛治谷口と高城が意見を交わす傍ら、長谷川は眉をしかめて腕を組み直している。
「仮にそうだとして、これは意図的でしょうか?」
同じように腕組みをしている赤井が
「んん……難しいところだな。偽装工作だとは思うが、完璧を狙ったとは思えん。勘違いしてくれればラッキー、とか思われてそうなレベルだ」
一番最後に気付いた榊が、目を丸くしながら呟いた。
「
「とは限らん。が、仮にも偽装工作なら、
間髪入れずに注意書きを入れる柴塚に、榊はただ目を丸くし続けた。
やや違和感を覚える柴塚。普段の榊ならもっと大げさにリアクションをとるはずである。頭の中で何かが渦巻いていて遊びが無い、といった様相だ。
違和感が不審に変わる前に、赤井が手を打つ音が響き渡った。
「話が飛び過ぎて追っつかんが、時間がこれまでだ」
赤井が顎で示した先、時計は12時半を回っている。会議までは30分近くあるが、直前に滑り込むのはマズい。特に、このメンツが一斉に雪崩れ込むのは、境管理官から見れば怪しい以外の何物でもないだろう。
「続きは終わってからだ。大方、柴塚の件でまた釘を刺されるんだろうが、絶対に口答えするんじゃねえぞ?
取り分け柴塚へと、指差しを加えて念を押しながら、赤井は一同へ指示を出す。「はっ」と答えて全員は解散し、適度にばらけながら定時会議の部屋へと入っていった。柴塚が入室した時点で既に9割がたが着席しており、当然、境管理官も正面に陣取っている。
露骨に攻撃的になった視線を、素知らぬ顔で流して柴塚も着席した。
定刻、境管理官が口火を切る。
「では時間となりましたので、定時会議を始めます。まずは――」
境の視線が柴塚を軽く捉える。
来るか。
淡々とした表情の内側で、心構えを固める柴塚。おそらくは、赤井を始め先ほどの打ち合わせの場にいた全員が同様に構えたその瞬間、ある点では予想通りに、そしてある点では想像のはるか外側から、境の声は切り込んできた。
「――今朝、市内N区でK大学人文学部非常勤講師の加賀秀行氏が暴行を受けた件について、当該案件を高架下、廃工場と関連があると判断し、本捜査本部にて扱うこととします。また、素人とは思えない集団による犯行であり、危険性を考慮して、捜査員に拳銃を配備します」
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