(3)

 一つには、藤木が自身の関与をあっさりと認めていたことがある。思えば、会話の終始にわたって、駆け引きらしき節がさして感じられなかった。もっとも、それは藤木格上に一方的にしてやられただけでしかないのも否定できないのだが。


 また一つには、県警本部のサイバー対策課にと公言したこともある。

 おそらく、藤木は秘密を守りたい『誰か』からの圧力で捜査を管理しようとしている。それは確かに事件解決を優先していないのだが、かといって妨害したいわけではないはずだ。理想的な形は、秘密が守られることと犯人が確保されることが両立することだろう。ならば、無駄足を踏ませるのではなく、むしろ積極的に調べ上げてさせるのが妥当ではないだろうか。


 しかし、いずれも所詮しょせんは柴塚の憶測の域を超えるものではない。心証では証拠とはならない。かといって物証はなく、論証できる論拠もない。


「ふん、いいじゃねえか」


 回答できない柴塚を余所に、赤井が腕を組んだままふんぞり返った。鼻息の一つまでおまけで加えてくる。


「胡散臭いこと限りねえが、どうせ手詰まりなのは変わらん。踊らされてやろうじゃねえか」


「課長!」


 見方によっては自棄やけにも取れなくはない赤井の勢いに、長谷川が抗議する。


所轄こっちの責任を取らせるつもりかもしれないんですよ!?」


「そうですね。どこかの誰かに守りたい秘密があるとして、一方、犯人も放っておけない。ならば、犯人を突き止めて確保する前かその時にとなるのが一番都合がいいでしょう。が、県警本部としては一番ダメージが少ない」


 考え込みながら、高城が長谷川の主張を補足した。

 しかし、赤井は動じることなく言い返す。


「かもしれんが、要するに死なせなければこちらの勝ちだ。それにな――」


 一度、ちらりと柴塚へと目を遣って、改めて赤井は口を開いた。


「――そもそも一警官こいつに会いに来る時点で、本部長の腹に一物いちもつあるのは間違いねえんだ。単に秘密を守りたいってだけじゃねえ、本部長の思惑があるんだろうよ。圧力かけてる誰かさんとは別の、な」


 赤井に続いて鍛治谷口も柴塚へと目を向ける。


「赤井さんは、本部長は被疑者死亡お宮にはしないつもりだと思われますか?」


「するつもりならこんな回りくどいことはしねえだろ。もっとに任せてもみ消せばいいだけだ。どうにも、かなりややこしい落とし所を狙ってるような気がするな」


?」


カンでしかないんだが……秘密を守りつつ事件を解決してホシを挙げてような気が、な」


 赤井は鍛治谷口とのやり取りをいったん切って、にやりと笑いつつ柴塚を指さす。


「で、柴塚こいつはそのもう一つのための駒に選ばれたんじゃねえか? と」


「県警本部としての目的は境管理官に、自分の目的は柴くんに、ですか?」


「ああ。だったら、あながち罠だけってこともねえだろう」


 赤井と鍛治谷口とのやりとりを聞きながら、一同が首を傾ける。

 誰かの秘密とやらを守りつつ被疑者を検挙して、さらに何を目指そうというのだろうか?

 そして、藤木は柴塚に何をさせようというのだろう?

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