闇の隙間――の先の闇
(1)
いったん叶署へと戻ったところを、柴塚は
「はい、柴くんちょっと待った」
「鍛治さん」
「赤井さんがお呼びだよ?」
呼び止められた理由は分からないはずがない。しかし、可能であれば、
柴塚が迷いから脱する前に、鍛治谷口が言葉を続ける。
「待ったは無し」
警官同士、考えることは似たり寄ったりである。あっさりと見透かされた上で先に釘を刺されては、柴塚としても強気には出づらかった。
その上で、鍛治谷口は柴塚の肩を軽く叩く。
「赤井さんも外れろとは言わないさ。ただ、打ち合わせは早い方がいい」
鍛治谷口のフォローに柴塚はうなづく。
言われていることに間違いはないのだ。単に、自分が説明下手だから腰が引けているだけで、境に手を打たれるよりも早く動く必要がある。
そして、それは柴塚と榊だけでは手が足りない。特にもう一方の
そう、必須だと分かってはいるのだが、どうにも長谷川と相性が悪い柴塚としては悩み所である。
柴塚は長谷川を嫌ってはいない――どころか、むしろ堅実な捜査遂行能力に敬意を持っている――のだが、長谷川からは敬遠されている実感があった。その理由に全く心当たりがないことと、柴塚は自分に他人の心情を察する能力が欠如していると思っていることが悪い相乗効果を発揮して、関係の改善が見込まれないままになっている。
が、そうも言ってはいられない。
廃工場の方での進捗も、できれば訊きたいところなのだ。感触では一つ探ってる線があったはず。何か出てきてないだろうか。
一つ大きく、勢いよく息を吐いて、鍛治谷口に従う柴塚。その後ろに榊も続いた。
案内されたのは刑事第一課ではなく、被疑者の取り調べにも使う小部屋だった。鍛治谷口が「私です」と声をかけると中から「おう」とだけ返事があり、鍛治谷口が入って柴塚が続く。榊も入ったところで、扉が閉められた。
先客は、赤井課長と長谷川係長、それから長谷川が率いる強行犯係1班の
長谷川からは一瞥だけだが、高城からは「お疲れ」とにこやかに笑いかけられる。妻子持ちの家庭人で外見は大黒様のようと剣呑さとは皆無に見られる――特に初見では――が、中身は知能犯顔負けで腹のさぐり合いではほぼ無敗という、敵には回したくない人物の一人だ。
狭い室内に大の男が計6人。座る間隔も無く、壁沿いにぐるりと並んで部屋の中心へ向く。
そのメンツを見回して、赤井が口火を切った。
「よし、そろったな。まずは柴塚、とりあえず洗いざらい吐け」
「はい」
軽く頭を下げつつ応えて、今日この瞬間まで集めてきた
話し終わって、まず赤井が柴塚をにらみつける。
「毎度だがな、独断専行はいい加減やめろ」
柴塚は素直にすみませんと頭を下げる。下げるのだが、実のところ、自身のどういったところが独断専行なのかが分かっていないので、止め方が分からないというのが本音だった。
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