(7)

「どんな?」


 食い気味に柴塚が返した。

 それはほんの少しだけだったが、加賀相手にしてみればインパクトがあったらしい。軽く慌て気味に口を開いた。


「いや、本当に関係ないですよ? 最近ネットでちょっと話題になった事件、刑事さんならご存じじゃないかな? アレの話の中で引両紋が引き合いに出されてましてね」


 アタリだ。


 ツキが来ているらしい。柴塚は何ならこちらからもっと振っていくかと構えていたが、予想外に話がつながってくれている。


「『犯行声明』と噂されている一つですね? 確か、七本線だとか」


「おっ、ご存じですか? そうなんですよ、七つ引きの引両紋らしいんですけれどね、この県では珍しいはずなんですよね。七つ割の二引両ではなく、ですよ? 喰違い七つ引両紋かもしれませんが、それにしたって多くはない。もし喰違いではない七本線だとすると、と思うんですよね」


 来た。

 柴塚の目の色が変わる。


「2つとは?」


「一つは、昔に現地調査フィールドワークをした集落の長の家紋です。まあ、こちらは特に集落の民俗信仰と関連があったわけでもなく、もう断絶していて、『昔そうだった』程度の話でしかありませんでしたが」


「もう一つは?」


「知られていませんが、七つ引きをとしている土地があるんですよ。K市の海岸沖合にある『久七島くなじま』という小さな島なんですが、ご存じですか?」


 

 これまでの捜査の中に『久七島』という言葉が有ったのではなかったか。引っかかる。自分が調べた中に、高架下絞殺事件自分のヤマの中で……


【時田尚也の出身地】


 脳の片隅からの指摘に、柴塚の目が見開かれた。

 そうだ、被害者ガイシャの出身地がだったはずだ。


 つながった。


「まあ、ご存じありませんよね。でもちょっと独特なんですよ。この島では『御崎みさき様』というが信仰されているらしいのですが、神仏や妖怪ではなくて霊のような扱いみたいで、盆の時期、ちょうど今時分に訪れるんだそうです。まあ盆の精霊しょうりょうですね。ただ、先祖の霊ではないんですよ。それにだそうで、話を聞くだけだと四国辺りに伝わる七人ミサキが連想されるんですが、怨霊というわけでもなく、年に一度。一年間の感謝と次の一年の無事を祈願して7体を送迎するらしく、歳神と似た扱いになっていると言えます。ですが、それだけにしては畏怖され過ぎていて、一度現地へ行ってみたいと思って――」


 またが入った加賀の話を聞き流しつつ、頭の整理に入る柴塚。

 藤木からのヒントであり小野寺が裏をとった『犯行声明』の『七つ引きの引両紋』。これをネットに流したのは事件の犯人ホシもしくは関係者だと思われ、県警本部に圧力をかけ得るを『引両紋』で脅すことに成功している。つまり『引両紋』はなわけだ。

 そして、今、『引両紋犯行声明』が『久七島』へとつながった。


 久七島が、犯人ホシの動機か、もしくはの秘密かへとつながっている。

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