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「いや、非常に興味深いんですよ? そもそも世界中の神話の成り立ちには様々なケースがありますが、というからにはそこには当然『神』が設定されてあがめられています。他方、崇められる存在もあるわけで、まあいわゆる妖怪などのような怪異たちが代表例になりますが、こちらも明らかに人智を逸脱した能力を畏れられ、崇められるのですね。しかしですね、その中にそれほどには逸脱していないもしくはそこまで人間社会に密着していないにも関わらず崇められている存在もあったりするんですよ。それはどちらかというと山間部だったり離島だったりするような、他の集落とは隔絶しがちなコミュニティで見られることが多く、あまりコミュニティ外に公開されることが無いんですよね。その理由としてはやはり『たたり』を畏れるのが一般的なのですが、先ほど言いましたように、そもそもそんなに強大な存在ではないんです。ほら、怨霊となって崇められて神格化した菅原道真公なんかは強大なイメージがありますよね? それと真逆なのに、何故か畏れられている。何故か? それほどのイメージを持たない存在なのに、何故秘匿されるほどに畏れられるのか? その成り立ちを追うとですね、小規模コミュニティでの人間性の肯定と否定から――」


 恐ろしいほど滔々と、立て板に水のごとく溢れる言葉、言葉、言葉。プロの役者やアナウンサーも顔負けの滑舌の良い語りが怒濤のごとく、そして終わる気配無く始まってしまった。

 の人物は、自分の専門分野となると饒舌になりがちだ。しかも、この勢いから察するに、加賀は研究成果を公表する機会が少ないのだろう。加賀の中のが語るチャンスとみて突っ走っている。


 決して口調が熱っぽくなるテンションが上がるわけでもなく、内容が支離滅裂になるわけでもない。

 ただ、止まらない。

 そして、それが一番困る。


「――そこには『人間性』というものが人間社会を形成する上で不可欠であると同時に不要、ともすれば障害ですらあることを示唆――」


「加賀さん」


 まだまだ序の口といった空気を出している加賀を柴塚が呼び止める。怒鳴るのではなく、聞き柴塚へ目線を合わせに来た瞬間を狙って、話し加賀の意識へ顔と声を差し込むように、低く、太く、名前を呼んだ。

 加賀の口が急ブレーキをかけられ、つっかえたかのように止まる。


「興味深いお話ですが、申し訳ない、今日の件をお伺いしても?」


 柴塚に淡々と遮られて、加賀がまた恥ずかしそうに苦笑した。


「すみません、脱線してしまいました。ええと、『余計なことを言うな』と……でも、『余計なこと』って何なんでしょう?」


 話を思い返して戻し、そして、加賀は途方に暮れる。その様子に不自然な点は見当たらない。本心から心当たりがないらしい。


 が、加賀本人に無くとも柴塚他人には有る。


「何か心当たりは? 最近の話題で、誰かと話したのではなくてもとか?」


「ネットですか……」


 記憶の糸を手繰る加賀に、柴塚が「些細なことでもかまいません。、何かこう話題とか。関係なさそうな事でも思い当たることはありませんか?」と畳みかける。

 食い下がられて、加賀がさらに考え込んだ。


 無言の数秒が、重い。


「……そうですね、ちょっと珍しい話がありましたね」

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