3.二日前
急転、あるいは暗転
(1)
霧のような小雨が薄く、まばらに降る、曇天。
舞台照明の近距離照射のごとき陽光が遮られているにも関わらず、いや、むしろ湿度がさらに増大して不快指数が上がった蒸せる大気の中、駐車場に止めた
「おはようございます」
ドアを開けるやいなや口を開く柴塚。朝一も朝一で、まだ無人でも不思議ではない時間だが、いつもの通り返事が来る。
「おう。おはよう」
部屋の奥の課長席から、上司の赤井伸之介警部が顔も上げずに返答した。目線と手元はデスク上の書類に固定されている。元々得意ではない書類仕事が恒常的に補填されてしまう課長職になってからというものの、差し迫った書類を朝に
とはいえ、建前上とはいえ謹慎明けの部下相手だと、そのまま放置するわけにもいかないらしい。
「で、ちっとは頭冷えたか?」
「はい」
冷えるどころか脳が沸騰しそうな昨日だったが、ここはお約束の返事をする場面だ。
そして、赤井もお約束の返しをする。ただし、柴塚限定の。
「は。嘘付け」
ようやく頭を上げて柴塚と目を合わせ、赤井は口を不愉快そうに歪めてみせた。
ただし、目は笑っている。柴塚も頭を軽く下げて返す。
昨日現場へ顔を出したことは鍛治谷口か榊から伝わっているはずで、柴塚は相変わらず大人しくしていなかったわけだが、赤井には予想通りで、柴塚は隠す気もなかった。
そういう間柄なのだ。
再び目があった時、柴塚も赤井ももう笑ってはいなかった。
「課長、県警本部は
「ああ。鍛治から聞いたか。何か知らんがバラされたくないんだろうよ。
話が早い。
柴塚の行き着いた見解と同じだ。
「『犯行声明』は捜査本部では?」
「県警本部でサイバー対策課が処理するそうだ。手を出すなってことだ。まあ、実際ウチの手には余るだろう」
赤井が腕を組んで背もたれへ大きく仰け反る。
苦虫を噛み潰した顔から、不本意極まりないことがよく伝わってきた。
そこで、柴塚は改めて思案する。
さて、どこまで伝えたものか。
昨日の藤木との対話を一から十まで話すのは
しかし、『犯行声明』――七つ引きの引両紋が
昨夜、小野寺が洗い直したところ、七つ引きの引両紋の書き込み等だけは追えなかったとのことだった。
――「他のワードは追えるねん。せやけど、『七つ引きの引両紋』だけは途中で切れる。いくつも
小野寺の見解に柴塚も同意見だった。結局のところ小野寺でも
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