(5)
藤木の声は気さくになったが、柴塚は変えなかった。
それは都合の良い解釈ではなく、実際、藤木からの
しかし、柴塚の側にしてみれば、その理由が皆目見当がつかない。故に態度は変えず、むしろ、やや
それを読み取っているであろう藤木は、どういうわけか愉快そうだった。
「そうそう、昨日の会議で君は『犯行声明』を指摘したそうだが、それが何か、調査は進んでいるのかね?」
来た。
柴塚の瞳に少し力が入る。
藤木の目的は結局
その話題を、藤木から振られた。
では、どう答えるべきか。
馬鹿正直に答えるべきだろうか。
それで安心して、ついうっかり口を滑らす――ような相手には思えない。収穫無しで終わり、か。そしてこんな機会は二度はあるまい。
では、カマをかけてみるべきか。
といっても、何をぶつければ良いというのだろうか。こちらは百万超えの『犯行声明』から何を拾えばいいかお手上げ状態。カマをかけるにしても博打が過ぎるだろう。
「……『犯行声明』が実在しないことは再確認しました。ネットで拡散している『犯行声明』について洗い出しをかけているところです」
諦めて柴塚は実際のところをそのまま白状する。
ただし、手詰まりになっていることは伏せて。
「漠然と追っても
あっさりと手の内を暴露されても、もう柴塚は動揺することはない。今更も今更である。
が、続く藤木の
「まあ、サイバー対策課もさすがに的を絞れなければ手を焼くだろうな。彼らには申し訳ないが、しばらくは無駄足を踏んでもらおう」
やや上を見ながらさらりと言われたが、その後半に柴塚は引っかかった。
サイバー対策課に無駄足を踏ませるとは?
藤木は『犯行声明』に釣られた『誰か』に動かされている立場だ。そして、その『誰か』は、何らかの秘密を明るみに出さないために犯人検挙を望んでいる。
であるならば、サイバー対策課には迅速に洗わせるべきではないだろうか。
捜査本部設立によって
しかし、先ほどの藤木の発言はその方針にそぐわない。
改めて、藤木は事件の解決を望んでいるのだろうか?
「で、『犯行声明』にはどんなものがあった? 君たちはどんなものを見つけているのかね?」
内心では不審げな柴塚に対して、藤木の声は愉しげなままで変わらない。
やや面食らいながらも、柴塚は記憶を覗き込んで取り出していく。
「……言葉通りに文章がかかれていたという話から、家紋まで、非常に広いバリエーションだと認識しています」
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