(3)
この季節だけに掛け値無しでサウナのような車内だが、
が、そう思うのもつかの間で、あっさりと目的地近くまで到着する。
この辺りは大通りを除けば一方通行ばかりで、駐車場も数台レベルの大きさが点在している。無理に最寄りの駐車場へ停めようとすると、かえって不毛な時間が過ぎる可能性の方が高い。
さっさと見切りをつけて、柴塚は公営駐車場へとハンドルを切った。
城郭――というよりは見張り用の砦と言った方がしっくりくる大きさの――跡地である高台の公園の地下を掘り抜いて造られた駐車場は、優に100台以上の収容数を誇る。埋まっていることは、平日の昼間であれば、まああり得ない。
数秒で瞳の
高さにして3、4階建てぐらいだろうか。
積まれた石垣が、肌が、陸亀の甲羅のようだ。
根本を囲うように植えられた松が、柵のように連なっている。
折り返す坂と階段が、それぞれ別に、細く、細く、続いている。
頂上はここからでは見えない。
公園になっている、らしい。
柴塚は、知らない。
何も。
どうも頂上の公園で何か工事をしているらしく、上から荷の吊り上げ用と思しきウインチのフックが垂れ下がっていたり、廃材を積み込んでいる
夕刻であれば、少なくとも午後になれば日陰になるのだろうが、今はただただ光を跳ね返してそびえ立つばかりだ。まあ、陽に照らされているので不穏な印象を受けるわけではない。存在感と自己主張はひしひしと受けているが。
その公園と道路を挟んだ対面に、鉄道の高架が延びている。
石垣に沿うように足を進め、大通りの横断歩道を渡る。高架下の側道を西へと向かうと、
遠目に人影が2つ確認できる。
見当をつけつつ、柴塚は滞りなく距離を詰めた。
「あれ!? 主任なんでいるんすか?」
近づいてくる柴塚に先に気づいたのは榊だった。
「謹慎中っすよね?」
「出て来なくていいとは言われたな。だから今日は署には行かんさ」
「えー、そんなんアリっすかあ?」
何食わぬ顔で答える柴塚に、榊が驚いた顔から呆れ顔へとスライドさせる。その隣で、中年の男が愉快そうに小さく笑った。
「やるかなとは思ってたよ、
「任せてすみません、
叶署刑事第一課強行犯係の
警官としての勤務年月なら柴塚の倍以上あるのに、柴塚よりも階級が下で柴塚率いる2班の班員なのは、過去に県警本部に盛大に噛みついたから、というのは署内では有名な話である。鍛治谷口曰く「若気の至り」だそうだが、故に、未だ巡査長止まりであっても彼を軽んじる者は署内では一人もいない。
柴塚にとっては、過去に噛みついた者としては大先輩にあたるわけだ。
彼が2班で柴塚の補佐的な位置にあるのは、何かと危なっかしい柴塚のお目付役を課長の赤井が狙ったもので、それは柴塚も理解している。
素直に頭を下げる柴塚の肩を、鍛治谷口はにこやかに、軽く叩いた。
「ま、赤井さんの顔を潰さない程度に、ね?」
「はい」
緩く諭され、再度頭を下げる。
それから、逆に見上げた。
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