(2)
「まあ、とにかくネットの方はちと難しいっちゅうことで。もうちょいヒントが出てきたら、もう
吸い終わった加熱式煙草のスティックを捨てながら、小野寺は顎で柴塚を指してきた。
合わせるように灰皿で煙草をもみ消しつつ、柴塚はしれっと答える。
「出て来なくていいと言われたからな。一度帰ってから散歩でもするさ」
「散歩ねぇ。どこまで散歩するつもりなんやら」
「自由だろう? 署にさえ行かなければどこだろうと」
違いないと笑って、小野寺は「ほな、計画的に有給を消化する俺は、今日発売の特典付き
このご時世、
自身も喫煙場所から抜け出し、公園をざっと見渡して誰もいないことを確認し、自宅へと
玄関から廊下の先、台所で振り返る後ろ姿。まとめた長い髪が翻る。
「あ、お兄ちゃんお帰り」
柴塚の妹、柴塚
「小野寺さんは帰ったの?」
「用事があるそうだ」
「あら。ブランチでも作ろうかと思ってたんだけどなぁ」
残念がるというよりも、手順が狂って困惑したという風に腕を組む奏。
仕草や口調は中性的でフランクなので親しみやすさが主張するが、容姿がそれを上回る勢いで女性らしいため、女慣れしていない男は気後れすることがままある。「
まあ、そのコミュニケーション能力の高さから、大抵の相手は実際話してみると一気に打ち解けることになるのだが。
「ま、いっか。お兄ちゃんは食べる?」
「これから出かける」
「だよね。後で作ったのを冷蔵庫に入れておくからね」
そう言いつつも、「はい」と奏は小皿を差し出してくる。
載っているのはトマトとゆで卵とハムを挟んだサンドイッチだった。逆の手には鮮やかなトマト一玉、何故かわずかに自慢げにかざしている。
「お隣の中村さんからのお裾分け。ご実家からたくさん送られてきたんだって」
隣室の中村氏の夫人のことだが、ここに住んでいる
もっとも、柴塚の部屋を管理するにあたっては必要なことでもある。柴塚は『片付けられない人』というわけではないのだが、致命的に無頓着で、かつ自宅を空け気味にすることが多い。結果として、人が住んでいる気配の無いまるで打ち捨てられた廃墟のような雰囲気の部屋になってしまうのだ。
ハムと適度な厚みにスライスしたトマトを重ね、さらに、潰したゆで卵にマヨネーズとマスタードを絡めてまとめたものを重ねて挟んだパンが一口大にカットされている。
缶コーヒーだけの朝食で誤魔化していたので、柴塚はありがたく頂戴した。
トマトの
「ごちそうさま」
空いた皿を返すと、代わりにアイスコーヒーが差し出されてくる。それも一息に飲み切って返した。
「残りは全部トマトソースにしておくね」
空グラスを引き取りつつ、奏は「そのままでも食べれる味にしとくから」と付け加える。
「遅くならないうちに帰れ」
「分かってるよ」
後はまかせて出て、柴塚はアパート隣の駐車場で
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