(5)
会議室内のざわつきも収まらない。
それはそうだろう。“悪魔の証明”まで持ち出してくるとは。犯人を示すものが何もない無い現状では、当然、犯人が別であることを証明することなど出来ようもない。
ここまでくると、いっそもう清々しい程の暴論だ。
それにしても、だ。
何故ここまで県警本部は強硬なのだろうか。柴塚や長谷川に止まらず、叶署職員の全てが不可解に思っているのはその一点だろう。
ここまでごり押しする理由は……
【本部には介入しなければならない理由がある】
脳の一部が代弁した。
……上層部への圧力、だな。時田が副市長の弟だから、その線から介入されるかとは思っていたが。
【本部が両方の事件をコントロールしたがっている点から、別の理由があると考えるべき】
両方の事件に共通するものは無い。
【それは我々の捜査線上ではの話だ。本部へ圧力をかける者とは違う】
圧力をかける者にとってはつながっていると?
【例えば、直接脅迫されているケースなどもあるだろう。また、両方の事件が同一犯だと示唆されているケースも考えられる】
どちらにしても、上の世界の話で俺たちには知りようもない、か。
【そうでもない】
?
【直接の恐喝ならば知りようもないが、間接ならば。つい先ほど、我々の捜査線上には無く、両方の事件に共通する話があったはず】
……『犯行声明』! 現場には実在しない、ネット上の虚構。まさか、本部はまんまと釣られたと?
【釣られたのは県警本部ではなく圧力をかける個人もしくは団体だが。『犯行声明』のどれか又はどこかに、圧力をかける者の琴線に触れるところがあったのでは?】
それを狙っての『犯行声明』か。ならば、無節操に作られバラまかれる中に、犯人が書いた本命が混じっているわけだ。
【先に例えばと言った。現状ではあくまで推論の一つにすぎない。が、この推論が的外れかどうかは、この場ですぐに確認できる】
……ああ、なるほど。彼が知っていれば分かるな。確認する価値はある。
【虎の尾を踏む危険性もある】
事件解決のためだ……
…………
「『犯行声明』で動かされたのですか?」
脳の一部との討論から帰ってきた柴塚の口から、言葉が転がり出る。怒鳴り声ではないが、はっきりと、喧噪の中でも聞き分けられる程度の大きさで。
境管理官の顔が変わった。
ある意味
警官が容疑者から
「……柴塚巡査部長?」
一段階下がった、冷えた声が、会議室内の騒然とした空気へと当てられる。
滴が落ちた水面に走る波紋のように、静寂が広がった。
立ち上がる柴塚。
座して見上げる境。
冷え固まった空気。外で騒ぐ蝉の鳴き声の異物感が酷い。
アタリだな。
この時点で確認は取れた。が、穫れる限りの情報を穫っておきたい。
柴塚はもう少し踏み込んでおくことにした。
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