(3)
「それでは、私が担当している廃工場の案件から。
発生は8月5日金曜日、時刻は午前2時前後と推定されます。同日の午前8時頃、夜中に廃屋から大きな物音がしたと通報があり、最寄りの交番から警察官が確認に行って発覚しました。
現場は○○区○○○通5丁目の元板金工場で、10年程前に廃業で閉鎖、それ以降は放置されていた建物です。建造物は小規模、中身は荒れて廃墟に近い様相です。
被害者は
死因は撲殺。解剖では頭頂部から少し左後方に直径4センチメートルほどの陥没が認められました。角度は斜め上方から、深さは頭蓋骨を貫通して脳まで達しており、それを中心として放射状に亀裂骨折。
凶器は現場からは見つかっていません。金槌のような鈍器で殴打されたと想定されますが、遺体の状態から、
近隣の住人に聞き込みをしましたが、目撃情報は今のところありません。通報してきた隣家の主婦も、です。自宅の窓から外を
被害者の佐々木の評判は特に良くもなく悪くもなく、周囲の人間関係で明確なトラブルも起こしていませんので、怨恨の線は薄いかと。それよりも、少し羽振りが良すぎたという話があり……その、そちらの線を洗ってみているところです。
以上です」
一通り述べて長谷川が着席する。が、
他方、
柴塚としては、最後に長谷川にしては歯切れの悪い間が入ったことが引っかかった。羽振りが良すぎる線、おそらくは調べが多少進んでいるのだろう。何かしらの手応えがあったが、この場ではまだ出せないと踏んだのか。
感傷に浸る間もなく、境が話を次へと運ぶ。
「なるほど。では、高架下の担当の方、進捗の報告をお願いします」
上座の赤井、横の長谷川から視線が来た。おそらくは後ろの席にいる叶署員からも向けられていることだろう。その視線を読んだ境が柴塚へと間断なく目を向ける。
奥だけ。表層はガラスのよう。
特に間を空けることもなく、己を値踏みする相手の前で滑らかに立ち上がる柴塚。
「高架下の案件を担当している刑事第一課強行犯係主任、柴塚薫巡査部長です」
境の目に違う色の光が点る。
興味を抱いた、といったところか。
素知らぬ風で柴塚が続ける。
「発生は8月2日火曜日、犯行推定時刻は午前2時から3時頃。同日午前7時半頃に通勤途中の会社員が発見。
現場は○○区○○町6丁目、鉄道高架下に小規模店舗が軒を連ねる商店街、高架の耐震補強のため立ち退き及び工事が順次進められている再整備区画の一画です。
被害者は
死因は絞殺。発見時は首吊りの状態でしたが
なお、
ロープはビニロンロープと呼ばれる種類で、非常に多種多様に生産、流通されており、入手経路の線から追うのはかなり難しいと思われます。
その直接の原因が現在の不倫相手でしたので、そちらの線を洗ってはみたのですが、白でした。その不倫相手も既婚者で、犯行時刻のアリバイは彼女の夫他から証言が取れました。
当日の被害者の足取りを追いましたが、部下と飲み午後9時に職場へ戻ったところまでは分かりましたが、それ以降犯行時刻までが全くの不明です。
以上です」
淡々と説明して、柴塚は腰を下ろす。
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