第41話 アラームショック
アラーム・ショック。と呼ばれる魔女の登場から五日。
海外ではジンクス・ショック《呪いの衝撃》とも呼ばれ、魔法少女登場以上の騒動となっている。
単純な攻撃で、どこかアニメチックなスコラリス・クレキストと違い、魔女アングザイエティーズ・キスの行動と呪いは、諸外国では宗教的な背理と受け取られていた。
そのため、アンチ魔法勢力が生まれたり、歴史ある世界的宗教指導者からの声明を求める声があがったりしている。
金曜日の朝。世間のショックと熱が冷めぬ中、学校へ向かう小夏は呟く。
「でもまあ、ちょっと助かったかなぁ」
「わかる」
登校中の小夏は現状をそんな風に表し、ミンチルはバッグの中で小さくうなずいた。
この五日間、小夏は一度も、タイダルテールに対して活動していない。タイダルテールは沈黙し、偽者たちも近所では現れていなかった。
魔法少女と違い、新たに表れた魔女は危険すぎるからだ。
魔法少女スコラリス・クレキストが来て欲しい、と思っていても、黒い魔法少女の方──魔女アングザイエティーズ・キスが現れたら再起不能にされる。偽者たちはそう警戒し、活動を控えていた。
この五日間、スコラリス・クレキストは事故車からケガ人を救出したり、火事の中から子供を助けたり、逃げた蛇を探して捕まえたり、都心に迷い込んだ猿を導いて山に返したりと、人命救助やほのぼのニュースになるような活動ばかりをしている。
一方、魔女アングザイエティーズ・キスの行動は過激だ。
鮮烈な登場時に、痛めつけた男たちがとある外国マフィアと繋がりがあったため、彼らの復讐対象となった。
認識阻害で魔女の正体がわからないため、それらしい少女に目をつけたという噂がネットで流れている。そして当たりを引いたのか、その行動を咎められたのか。魔女アングザイエティーズ・キスに壊滅させられたという真偽不明の情報もある。
事実、多くの人間たちが、魔女アングザイエティーズ・キスの被害を受けている。命こそ奪われてないが、肉体と精神とわず破滅的な被害を受けていると報道されている。
だが、ほとんどが凶悪な犯罪者なので、ネットではよくやったなどと言う意見が出る始末だ。
警察もスコラリス・クレキストと違い、アングザイエティーズ・キスには神経をとがらせている。
具体的に警察は「アングザイエティーズ・キスと自称する彼女には活動を控えてほしい。現在、当該少女を確保、保護する方向で調整している」と、会見で言っているほどだ。
以上の理由から、偽タイダルテールを語る騒動は激減した。
こうして小夏、スコラリス・クレキストは魔女を不安に思う人々に、ほのぼのニュースを届ける活動になっていた。
よって、スコラリス・クレキストの活動はある程度忙しいものの、やや負担の少ないものとなっている。
「おはよう、小夏ー」
学校近くなり、生徒たちの中から小夏に声をかけるものがいた。
怪我をして休んでいた同級生のリリカだ。
五日前に退院したが、大事をとっての登校は今日からである。
小夏はおっぱいに……リリカに抱き着きたかったが、彼女がまだ松葉杖をついているので遠慮した。
「リカ~♥ やっと会えたね」
「会えたよー。やっと学校だよ~」
「また一緒に遊べるねー」
「お見舞いありがとね~。お礼するから」
二人は学校で久しぶりい会えること喜んで、互いの手を握り合った。
「ねえねえ、ところでさ。なにあれ?」
リリカが鼻先で指し示した方向に、不釣り合いなカップルがいた。
かたや、お世辞にもぽっちゃりとは言えない体型の少年。
かたや、中学生なりに派手めのスタイルで決めている少女。
清水少年と平井香織である。
そんな二人が仲良く肩を並べて歩き、話しかけながら積極的な香織が近づき、清水が困惑して少し離れるという光景を繰り返している。
「かおりんはあの……名前知んないけど、男の子を嫌ってたと思ったけど?」
リリカは交友が広く香織とも親しいが、清水のことはよく知っていない。香織の態度が清水にきつかった記憶はあるが、イジメがあったなどは噂で聞いているだけだった。
「ああ、あれね。リリカが退院する直前かな? 急に香織さんがね、清水くん? に優しくなったんだって。他のクラスなんで、あたしはよくは知らないけどずっと一緒で仲がいい感じなんだって」
「どういうこと? かおりんに何かあったの? 魔女に洗脳された?」
冗談で今話題の魔女を口に出した。リリカ、まさかの正解である。
だが、当人も本気では思っていないし、魔法少女である小夏もリリカの冗談が当たっているなどと思わない。
「まあ、なに。いま、学校の男子たちの間じゃ、オタクに優しいギャルはいたんだ、って大騒ぎだよ」
「ほえー。驚いたー。ちょっと挨拶してくるね」
リリカは松葉杖を鳴らして、香織のもとへと急いで声をかけた。
「かおりん、久しぶりー」
「リリカー! あんた、やっと登校できんの?」
「そうだよー、リハビリあるけどさー」
「うわー、たいへーん」
「大変だよー」
「同情するー」
特別親しいわけではないが、それでも楽しく挨拶を交わすリリカと香織。清水は少し放置されたが、どこか安堵している様子だ。
これ幸いと、距離を置こうとするがリリカも香織も逃さない。
「そんでさ、仲いいの?」
「あん? あー、康くんね。あたしが面倒みてんの」
「康、くん?」
「あ、僕、康介っていいます」
指を差され、答える清水。
清水康介。彼を康くんと呼ぶ気安さ。リリカは驚きを隠せない。
「こいつさー。少五くらいからブクブク太ってさ。なんか気にいらなかったんだよねー」
「そいえば幼なじみだっけ」
「うん、そ。気にいらないから、ちょっときつく当たってたけど悪かったかなぁって。反省してんの」
「そ、そうなんだ」
「でねあたしが面倒見て、痩せさせんの。ほら、あたしダイエット得意だし」
「だったねー。ダイエット何度目?」
「そんな何度もリバウンドしてねーし!二回だし!」
会話が早い!
小夏は若干置いてきぼりだ
無論、清水も。
「今度、遊びいこうな」
「行く行くねー」
こうしてリリカの超早な情報収集は完了した。
香織は巨漢の清水を引きずるに登校していく。
「だってさ」
「やりますねぇ」
クラスメイトのコミュニケーション能力に、素直に驚く小夏。決して彼女もコミュニケーションが不得意ではないが、リリカほど円滑にはいかないだろう。
日頃の交友もあるのだろうと感心する小夏のスマートフォンに、通知が届いた。
「あ、ごめ。リリカなんか……fineに通知が……ッ!」
スマートフォンを取り出し、画面の通知を見て小夏は硬直した。
「どうしたの?」
「な、なんでもない。返信忘れしてもう一回連絡きただけ」
「ん、そういうのあるよね~」
小夏は慌ててスマートフォンを鞄にしまった。リリカは追求しなかったが、小夏は内心では複雑な思いだった。
驚きと気持ち悪さと、なにより不安。
スマートフォンの画面には、連絡先登録交換も友達登録もしていない相手からのメッセージがあった。
『魔法少女の正体と魔女の正体、放課後お伝えします』
────と。
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