第40話 衝撃の魔女
魔女が出現したその日。
小夏は運悪くアジトにてパンケーキで豪遊! 小夏、豪遊! をしてしまい、直後にヴァイオリン教室へ行ったため、魔女の情報に触れる機会がなかった。
初めて魔女のニュースに触れたのは、お風呂上がりにリビングで夜の報道番組を見かけた時だった。
衝突しながら逃げるワンボックスカーを、飛んで追いかける黒い魔女の映像や、両手のロンググローブを黒い影に変えて、取り押さえる映像がテレビで何度も繰り返されている。
「は? なにこれ! なんなのこれ!」
風呂上がりにいつも通り全裸徘徊で、リビングに立ち入った小夏は、報道番組で魔女を見て、そのまま画面に飛びついた。
「ぶほっ! こ、こら、小夏!」
リビングでテレビを見ていた小夏の父は、愛娘のつきだされたお尻を見ることとなり、ビールを噴き出した。小夏の父は眼鏡をかけた痩身の男性で、今は普通のサラリーマンだが大学時代は新年に盛り上がる駅伝で走ったこともあるアスリートである。
父の口から噴き出たビールの飛沫がかからないよう、足を開いて避ける小夏。
「汚いなぁ、パパ」
「ごは、ごほ……そういうお前は、はしたないぞ! 小夏」
いつものことだが、今日の恰好とポーズは特にひどい。さすがの小夏も少し、少しだけ恥ずかしいと思った。
「ごめんなさーい」
真面目な父に怒られた小夏は自室に逃げた。階段を裸で駆け昇り、二階奥の自室に飛び込んだ。寝て(?)いたミンチルの耳が開け閉めされるドアに向く。
自室にテレビはないが、タブレット端末で魔女について調べた。
「ん? どーしたの?」
たまにしゃべたり動くぬいぐるみとして、岸家に居候し潜伏するミンチルは、全裸のままタブレットで検索する小夏に怪訝な視線を向けた。
「そんな……まさか。見て、ミンチル」
タブレットPCで一通りの情報を得た小夏は、画面を椅子の上で丸まるミンチルに見せた。
流れるSNSの映像は、テレビの映像と違ってショッキングだ。
服を黒い霧に変えて全裸となり、ワンボックスカーを停止させる様子や、男の顔にある蛇のタトゥーを操って目を奪う姿がアップロードされている。
ネットでの反応は
>:新しい魔法少女キタ!
:<魔女だってよ
>:名前が…名前が長い!
:<魔女アン……アン、アンザイさん、したいっすキス
>:アンザイ先生とキスしちゃうのかよ!
:<アングザイエティーズ・キスだ!
>:すげぇ可愛い!
:<すげぇ怖い!
>:これヤバいやつじゃん…
:<警察動くんじゃないかなこれ
と、距離感のある流れとなっている。
「この魔法少女は……いや、魔女はきっと彼女だよ」
映像を一通り流してみたあと、ミンチルは確信を持った様子で告げた。
「そんなはずは……でも」
「ボクにはそう《見えない》けど、おそらくと推測してる。だけど、君は違うんじゃないかな?」
思わずうなずく小夏。
小夏にはわかる。憧れの美少女が、黒いコートで暴れていると認識できていた。
「ね、ねえ。ミンチル。魔女……ってなんなの?」
「この世界で今まで言われている伝承の魔女という言葉の意味は分かるけど、ボクはそういった存在を知らない。この地球の
ミンチルはわからないと言うより、把握しきれないという様子だ。神妙な面持ちで椅子から立ち上がる。
「姫子さんが魔女……。でも、そんなことより……」
「そんなことより?」
振るえる小夏、心配してミンチルは椅子から飛び降り──
「姫子さん、露出少なくない!?」
ようとして、小夏の発言を聞いて膝から力が抜けてべちゃりと着地した。
「許せないよ! もっとこう、あの感じなら女王様っぽい感じで、ビスチェでVに切れ上がったなんていうんだろうアレ? とにかくそういうパンツでさ。あたしとお揃いでもいいけど、そういうのでしょ!」
タブレットを操作しながら、コートを着込む魔女アングザイエティーズ・キスの姿をミンチルに見せながら文句を並べた。
「何を言ってるかな? 何を言ってるかな? 小夏は何を言ってるのかなぁ!」
床から立ち上がり、ミンチルは吠えるように叫んだ。しかし、小夏の文句は止まらない。
「あと裸になっちゃうのなに? これってあたしが禁じ手にしてるやつじゃん! あんなに堂々と! 次にクレキストで披露するとき、インパクト足りないでしょ!」
「やる気か、この子」
禁じ手としながら、披露することを想定していた小夏にミンチルは慄いた。
「はぁ、姫子さんの裸、キレイ……。おっぱい小さいけど、すっごいキレイ……。全部丸出しなのに、堂々としてて……素敵♥」
タブレット画面。うっとりとし始めた
そういえばまだこの子、服着てないな。いろんな意味で裸が好きなんだな、とミンチルは呆れた。
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