第28話 次回のタイダルテールの活躍をご期待ください


 クレキストの予想外の活躍と、偽タイダルテールの登場。

 これを議題とし、タイダイテール地下基地は緊急会議に入っていた。


「回転率を上げるため、格闘怪人のアイデアをできる限りだすのじゃ」


 ディスキプリーナの要求に答えるため、ペーがいくつものアイデアを出した。

 ムエタイや柔道、プロレスなど提案するが、志太がそれらはまだクレキスト相手には早いと言う。

 どうも彼なりに、危険度を考えているようである。

 候補としていくつか揃ったが、まだぺーがアイデアを出し続けた。


「じゃあ次回、サバット使いとかどうっすか?」


 戦闘員ペーが提案をし、志太が困ったと高い天井を仰ぎ見た。そして天井に意図のわからない巨大な耳の造形を見つけた。

 サバットは杖の使用や投げ、関節技もあるが、主に蹴りとボクシングを融合させたスタイルが有名なフランスの格闘技である。


「うーん、すまん。サバットは習熟どころか、純粋なサバット使いとも戦ったこともないんだ」


 どれほど強く、どれほど他者の格闘スタイルをコピーするのが得意でも、できないものはできなかった。


「それで世界最強なんて名乗ってるんすか?」

「うるさいなぁ。別に戦ってない相手がいるだけの話だろう!」


 ペーの挑発に、志太が簡単に乗った。


「戦ってない? じゃあ、もしかしたら、そのサバット使いが世界最強かもしれないじゃないですか!」

「なんだと! よっしゃ、最強のサバット使いを連れてこいや、ここに」


 さらなる挑発を受け、志太は少年のような反応をした。

 中身が70歳とは到底思えない。


 ここで、会議になると時々居眠りをするガーが仲裁に入った。


「まあ、待てい。会議が進まんから、適菜殿が戦うサバット使いは、ペーがサバットを習得してぶつけるとしてだな」

「なんでっ!」

「それはいいな」


 ガーの折衷案に、志太が喜び、ペーがうろたえる。


「丸く収まったところで」

「丸く収まってないっすよ!」

「アーよ。なんぞいい怪人のアイデアはないか?」

 

 問題をアーに振り、ガーは背もたれに身体を預けた。どうやらまた居眠りを始めるつもりだ。


「その前に少しいいですか?」


 仲裁から流れるように話を振られたアーが、腕を拱き尋ねる。


「なんだ?」

「なんっすか?」


「なんで次回の怪人のコンセプトの話になっているのですか? 偽タイダイテールへの対策を協議していたと思っていたのですが?」


 アーは途中から議論に加わっていなかった。話が脱線しているとは思っていたが、白熱していたため圧倒されていたのだ。

 この質問に、決まっているだろうという態度で志太が答える。 


「なぜ次回の怪人の話をしてるのか、って? そりゃ回転率を上げるためだよ」

「偽者が出てくる前に、こっちができるかぎり怪人を登場させて、偽者が出てくる暇を無くすって作戦っす」


「わかりました。では、一つよろしいですか?」


 二人から説明をうけ、アーが問題点を提示した。


「偽者が出てくる隙を与えないほど、怪人を繰り出す。するとこちらの労力以上に、岸 小夏の活動が激務になりませんか?」


 志太とぺーが、はっとした顔で言葉を失った。二人は互いの顔を見合わせ、どうしたものかと首を捻って唸り始めた。

 彼らはあまり作戦を立てる側に向かない。

 ここでついにディスキプリーナ総統が声を上げた。

 

「うむ。アーの言う通りじゃ。おぬしら、小夏の体調や日常をお、おうま、ぱからんぱからん……おも……おうま、ぱかぱか」

おもんぱかるっすか?」

「そうなのじゃ。それを小夏にするのじゃ」


 志太がペーに向かって、「おめぇ、今のよくわかったな」と尊敬の目を向けている。


「回転率を上げるなど、解決にいたってもスコラリス・クレキストのためにならんのじゃ!」


「回転率を上げるって言ったのは」

「総統っすよね?」


 志太とペーが総統ディスキプリーナを指差した。

 ディスキプリーナは立ち上がって、今まで座っていた椅子に抱いていたクマのぬいぐるみを置いて、隣の椅子に座り直した。

 志太とペーはその様子を茫然と見て、指は移動する総統を追いかけていない。


「なんなのじゃ? クマさんに責任を擦り付けるのは感心せんのじゃ」


「総統がっ!」

「お前がっ!」

「「クマに押し付け」」

「てんだろ!」

「てるっすよね!」


 責任転嫁を二乗にするディスキプリーナに、志太とペーが怒り露わにして立ち上がる。

 

「まあまあ、もう少し方向性を確かにしましょう」


 頼りになるアーが、場を収めようと試みる。


「だがなぁ! どうすんだよ!」


 ペーは仕方ないっすねと座ったが、志太は立ち上がったままで声をあららげている。


「私としては、偽タイダルテールは今後増え続けると思います」

「だからそれをどうするのかと」


 志太が苛立ちまぎれに机を叩く。どうも若返ったことにより、以前の性格に戻っている節があった。

 そんな志太に、アーは落ち着いて答える。


「無論、最終的には潰します。ですが一時的増えることは防げません」


 アーがさらっと悪の組織らしい発言をした。潰す方法は言ってはいないが、空恐ろしさを感じさせる。


「よって、一時的に偽者たちが増えた前提の話をします。偽者の活動の増加。これに対応することにより、我々タイダルテールと魔法少女の情報が、世間に蓄積されていくこととなります」


 どういうことだ? と志太の目が話の続きをアーに要求した。


「例えばです。時間に余裕のある若者が、はっきりいいますと無職の愉快犯などが、時間を構わず偽タイダルテールを名乗って活動したとします。これに対応できるのは、同じ無職か時間に余裕があるものです。では、ここで時間的余裕のあるものは? さらには活動範囲は? 地域は?」


「なるほどなのじゃ」


 うむうむ、とディスキプリーナがうなづく。


「吾輩は教職をしている。志太も潜入のため中学生。そして魔法少女もそうである。偽タイダルテールが活動すればするほど、吾輩たちと魔法少女の時間と行動範囲と出現データが蓄積されてしまうというのじゃな?」


「そうです。ですがこれでも小さなダメージなのですよ。次の問題に、当初の予定より多くの活動が行われるため、魔法少女のできることできないこと、我々のできることできないこと、が映像やその他メディア、口コミなどで広まります」


 志太もそろそろアーが言っている意味が分かってきた。

 格闘技でも相手の技、できること、できないこと、それらが分かるだけで大分状況が変わる。

 ディスキプリーナがアーに問いかける。


「膨大なデータを与えれば、国など大きな組織に利することなのじゃな? ではどうすればいいのじゃ?」


「発想の転換をします。いっそ、偽タイダルテールをある程度自由に活動させるべきかと」


 アーの振り出しに戻るような意見に、ディスキプリーナは呆然とした。


「な……じゃ、じゃから、それはスコラリス・クレキストに負担が……! いや違う。そういうことか! アーよ!」

「お気づきになられましたか?」


 アーとディスキプリーナが邪悪な笑みを浮かべ、互いに思い至った作戦を口にした。


「偽タイダルテールをフロント組織に編入させるのじゃな?」

「偽タイダイテールの対応で警察機能をパンクさせるのです」


「……え?」

「え?」


 まったく違う作戦を言い合い、ディスキプリーナとアーは互いの顔を見合わせた。


「アーよ。見どころのある偽タイダルテールを、別組織として結成し、利用するという意味ではないのか?」

「いえ、偽タイダルテールの対応は治安維持組織に任せリソースを消費させ、タイダルテールとスコラリス・クレキストの活動を円滑にするつもりだったのですが?」


 困ったぞ、という顔で、ディスキプリーナはアーは唸った。


「少しよいかの?」


 居眠りをしていたガーが起きて、再び仲介に入った。


「総統の案もアーの案も、両立できると思うがの~? あとそのフロント組織も、うまくやればクレキストの育成にもなるとおもうが、どうだの?」


 見事な仲介であった。

 ディスキプリーナとアーは喜んで、ガーの提案を受け入れた。


「そうなのじゃ。ガーは寝てたくせにそのとおりなのじゃ」

「そうですね。うまくすり合わせましょう。寝てたくせに、やりますね、ガー」


 居眠りに対して、二人は思うところがあったようだが、折衷案そのものは諸手をあげて歓迎した。


「具体的にどうすればいいのじゃ! アー!」


「はい。偽タイダルテールを名乗る者に接触、やる気と思想と目的の精査もしますが、彼らにディスキプリーナ総統閣下の世界、もしくは占領世界の技術や能力を絞って提供します。そして下部組織として制御しますが……」


「が? なんなのじゃ?」


「その組織の襲撃先や、出現場所などは我々がリークして警察などに対応させます。これでスコラリス・クレキストの負担はかからず、なおかつ警察の目を逸らし、その手をこちらの活動から遠ざけることが可能となります」


「おおっ! 見事なのじゃ!」

 

 ディスキプリーナは手放しでアーの作戦を賛美した。


「そうと決まれば善は急げなのじゃ?」


「善?」


 アーが首を傾げた。

 ディスキプリーナは即座に言い直す。


「そうと決まれば悪は急げなのじゃ? 議事録は修正しておくのじゃ!」


 志太がふてくされたように答えた。


「誰も議事録取ってねぇよ」


 そう、誰も記録していないのである。

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