第21話 総統の失策、志太の失態
月曜日の朝。
志太が地下基地で登校の準備をしていたら、ディスキプリーナが出杉・プ・リーナ教師姿でやってきた。
少しでも大人びた姿になるように、髪をアップにしているのだが、どう見てもお誕生日会の主役というイメージになる。
「い、言いにくいのじゃが、一つ頼まれてくれんか?」
鞄を抱えながら、志太に気まずそうに言う。
「なんだ? オレ様にできることなら」
志太は頼まれると比較的弱い。そのため、軽くだが面倒を見た格闘家の数は多い。
安請け合いする志太に、ディスキプリーナは資料を手渡す。
「なんだ、これ? 小桜姫子……のプロフィールか?」
「うむ。お主のほうで、彼女を調べてくれんか?」
「やれというなら同じ学校だし、やるけどよ……なんでだ?」
「教師という立場で潜入すれば、対象を調べ放題だと思っていた先月の吾輩を殴り倒したい!」
異世界からの侵略者の斥候ディスキプリーナは多忙である。タイダルテールの総統としてのディスキプリーナも多忙である。そして教師である出杉・プ・リーナも多忙である。
つまり彼女が姫子を調べている暇はない。
「一言でいうと、それ潜入失敗だよな」
「面目ない……」
本気で反省しているのか、ディスキプリーナは素直だった。
「小桜ねぇ……。上総も近いし高棟流か、高望流か?」
高棟流と高望流。これらは武術の流派ではない。桓武平氏の流れを組む一族のことだ。
志太は古い人間であり、またそういった人々と交流があるため、少なからず氏素性を意識する節があった。
志太はざっと、小桜姫子のプロフィールを読んだ。
一人娘で父は警察庁の役人、母は専業主婦。
成績は上位をキープ。学年二位から九位を行き来して波はあるが、常に順位は一桁だ。
平均的な体格だが、運動能力も高い。一部競技では、男子生徒と競えるほどである。
古来から続く治安に関わる官吏の家系で、日本武術に長けている。
弓道部、剣道部、薙刀部、合気道部、どれもがこの学校に無いため、彼女の活躍する場はない。
資料を見た限りでは、中学生離れした腕前のようだ。
格闘家の最高峰である志太は、それなりに姫子へ興味を持った。
「放課後あたり、それとなく張り付いてみるよ」
「よろしく頼むぞ」
ディスキプリーナは出杉・プ・リーナとして、
遅れて出かけた志太は徒歩通学である。
バスで通学してもいい距離だが、身体を使うことを厭わない志太は通学に徒歩を選んでいる。
小桜姫子を調べる。と言っても、完全に張り付くわけではない。
友人と放課後どこにいくか、日常のタイムスケジュールを記憶するなどそれくらいである。
授業中や休み時間程度は、監視する必要はない。
いつも通り登校し、いつも通り授業を受けて、いつも通り……でもないが放課後を迎えた。
なにしろ魔法少女スコラリス・クレスキトが話題になりすぎて、クラスメイトから一緒にリリカが入院する病院へ行ってみようと何度も誘われた。リリカの見舞いを出汁にし、スコラリス・クレスキトが現れた場所へ行くつもりだ。
「今日はせっかく連絡事項とかなくて、リリカのところへ行く必要がないんだから、今日は行かない」
志太はノリが悪いと思ったが、そういった理由を述べて断った。
しかし、意外と男子生徒たちはすぐに引き下がった。
つまりリリカへ用があるとき、一緒に行けばいいと考えているからだ。それも間違いではないので、その時は一緒に、という約束をした。
放課後。
数人の誘いを断ってから、帰る振りをしながら志太は隣のクラスを覗き込む。
まだ姫子は下校していない。
取り巻きの女子生徒が「一緒に帰りましょう」と声をかけているが、用があるので「少々待ってもらえますか」と言っていた。
志太はいったんこの場を離れ、廊下の角に身を隠した。
鵤木中学校は先進的な機器がある学校だが、防犯カメラは防犯上の最低限しかない。生徒たちを管理しないという名目のためだ。しかも防犯カメラの位置は、すべて職員に公開されている。
職員であるディスキプリーナが知っていれば、志太に教えることができる。
そのため志太はフルスペックで動くことができた。
姫子が一人で教室を後にする。
まずは追いかけたりせず、向かう先を移動ルートから推定する。
階段を降り、一階の渡り廊下へと向かう。これを二階の窓から確認してから、志太は校舎の外へ目にも止まらぬ速度で飛び出した。
渡り廊下の先は部室棟である。
物音も立てず、渡り廊下のガルバリウム鋼板製屋根を数歩で走り抜け、部室棟から近いイチョウの若葉と枝の中に隠れた。
「さてと……あれ?」
志太は部室棟の廊下を歩いているはずの姫子を探した。
だが、どこにもいなかった。
しばらく見渡したあと、するするとイチョウの木から降りて裏にまわり、順番に部室棟の部屋を覗いて見た。
「……いない」
どこも部活を始めているが、どこにも姫子の姿はない。
もう一度、念のため探してみたが、やはり姫子はどこにもいなかった。
「どういうことだ?」
今までなかった経験に、志太は困惑するばかりだった。
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