第17話 野営と蝙蝠(コウモリ)
襲撃者のリーダーと思われる一人だけ異色の装束をした者をバーンが少し尋問してみたが、とても口を割りそうに無かった。
但し、ロッドは隙をみて接触して〔
これ以上の尋問は無駄と判断した一行は話し合いの末、馬車2台に拘束した襲撃者を積み真っ直ぐ領都アステルへと急ぐ事とした。
今後の襲撃を躱す為にも先を急ぐ事となったのだ。
近隣の街に寄るとかなりの回り道となり、領都に着くのが遅れてしまうからである。
追加の御者は1台が精霊の扉メンバーで担当し、もう1台はロッドとアイリスがやる事になった。
ロッドは事前にアイリスが魔法で馬を制御出来るという事だったので、模倣してしまえば良いかなという軽い気持ちで立候補したのだった。
〈襲撃者の馬車追加後の隊列〉
1.リーンステアの騎馬
2.ジュリアン達の馬車(エスティア、フラン同乗)
3.荷馬車(侍女2名)
4.精霊の扉の馬車(バーン、クライン、マックス)
5.襲撃者の馬車1(ザイアスが御者、襲撃者7人拘束して同乗)
6.襲撃者の馬車2(アイリス、ロッドが御者、襲撃者7人拘束して同乗)
順次出発する一行。
だが、アイリスは手綱を持たない。
ロッドはどうするのだろうと思ったが、アイリスは杖を持ち呪文を唱え発動する。
〚
杖から発された光が消え、馬達が一瞬白く光ったと思うとスッと前を向く。
「前の馬車と歩調を合わせて進め!」
アイリスが馬に向けて話す。
すると馬が手綱では指示されていないのに動き始めた。
「ロッド様。これは
通常は半日程度の使役時間となりますが、ロッド様の場合は精神力に依存しますので、かなり長い時間例えば1年間でも使役可能だと思われます」
アイリスが魔法の細かい仕様を説明してくれた。
「なるほど。ありがとうアイリス。しかし解除はどうすれば良いんだろう?」
ロッドがアイリスに解除方法を尋ねる。
「通常は効果時間がそれほど長くないので効果切れを待ちますが、ロッド様の場合は
アイリスが解除方法について説明してくれる。
「わかったよ。ありがとう、アイリス」
アイリスに返答し、ロッドはしばらく馬車の人となった。
ーーーーー
一行は限界まで進み続け、このまま山道を抜ければ明日のお昼頃には領都に着けるというところまで進んだ。
かなり急いだので馬はそろそろ限界であり、日も落ちようとしているので近場で最後の野営をする事になった。
リーンステアがこのすぐ先に大きな盆地のような場所があり、騎士団の魔物狩り遠征でもよく利用しているというので、その場所を目指してもう少し移動した。
大きな盆地に着くと既に商隊と思われる一行や、その他の馬車が野営準備をしているところだった。
バーンがそれぞれに確認したところ、商隊の荷馬車が5台と護衛と物資を乗せた荷馬車が2台、他領からの乗合馬車が1台といったところだった。
皆、明日の朝に領都アステルに向けて出発するとの事。
何処に敵が潜んでいるかわからない為、バーンの判断で精霊の扉が
野営場所にいる集団としては、中規模の商隊、商隊の護衛、乗合馬車、ロッド含むジュリアン一行、精霊の扉という区分けになった。
盆地の壁際の守りやすい位置に中規模の商隊、そこを守るように商隊の護衛が位置しており、盆地の領都方面には乗合馬車が位置していたので、本来なら敬遠したい盆地の中央〜領都から離れる方向に野営するしかなかった。
ジュリアンの身分を明かせば簡単に場所を移動させる事も出来るが、身分を明かすのはリスクが高いと判断し、盆地中央に野営する事になった。
精霊の扉は街道側に位置し、盆地中央を守るように少し離れて野営する。
襲撃者の乗る馬車2台は一旦、精霊の扉の野営場所で管理する事になった。
襲撃者の馬車を離れる際、静かに
ロッドはそれを見て予定通り模倣で習得を行なうのであった。
それぞれの場所に移動するとロッドはいつものように、馬車の横にストレージから簡易水洗トイレを配置し、馬車と荷馬車で囲むようにした中にファミリー用テント☓3と中に寝袋、LEDランタンを配置する。
御者達にはいつも使っている毛布を手渡した。
ロッドは夕食を何にしようかと考える。
明日はとうとう領都に着くので護衛任務で迎える夜は今夜で最後となる。
やはり最後は豪華にとの思いで、少し奮発して牛肉のステーキを振る舞う事にした。
牛肉とパン、スープ辺りでデザートは何か良いかな?と考え、最後は贅沢にプリンアラモードを出す事にする。但しコンビニやスーパーでも買える位の物だ。
以下の物を指輪で新たに取り寄せた。
・熟成牛サーロイン300g☓30枚(45,000P)
・ステーキソース1kg(3,000P)
・業務用濃縮オニオンスープ(3,000P)
・バターロール60個入り(3,000P)
・プリンアラモード30個(12,000P)
まず1台目のカセットガスコンロに大きい鍋をセットし、業務用濃縮オニオンスープと水を適度に配合し軽く沸騰させる。
2台目のカセットガスコンロは鍋でカットした人参とアスパラガスを茹でる。
次に焼きそばの時に使用した大型の鉄板プレートを出し、左右にカセットガスコンロをセットし、油を引き中火で熱した後、肉のスジに包丁を入れ水分を拭き取って塩胡椒を振り5枚を一気に調理する。
適宜水分をキッチンペーパーで拭き取り片面が焼き上がったら裏返し、少し火を強めて焼いた後、弱火でじっくり焼く。
ロッドは念入りに〔
30枚全てを焼いたロッドは、皆のテーブルと椅子をストレージから配置し、組み立て式折り畳みテーブルにドリンクバーとロールパン、オニオンスープを用意した。
そしてハム美とピーちゃんの水と餌とおやつを用意した後皆を夕食に呼び出した。
〈夕食メニュー〉
・熟成牛のサーロインステーキ(茹でた人参とアスパラガス付き)
・ロールパン
・オニオンスープ
・ドリンクバー
ロッドは皆に今日のメニューを説明する。
「今日は今回の護衛任務での最後のディナーになるので美味しいステーキを用意したんだ。遠慮せずにたくさん食べてくれ。熱々を食べて欲しいので最初の配膳とお代わりの時は手を上げて欲しい。パンとスープも用意したので、こちらはドリンクバーと同じで自分で食べられる分を取りに行ってくれ」
ロッドは皆が飲み物とパンとスープを持ってくると、一人一人に熱々のステーキと付け合わせ野菜の乗った皿を出し、上からステーキソースを掛ける。
ジュワッという音がをしてステーキソースに熱が通るいい匂いがする。
リーンステアは熱々のステーキを早速ナイフで一口分切り分け、口にする。
「美味しい!!肉も柔らかくて(もぐもぐ)いくらでも食べられます!」
ジュリアンとジョアンナもステーキを切り分けて口にする。
「ん〜美味しい!ソースのお味も良くて。このお野菜も美味しいです〜」
「(もぐもぐ)こんな柔らかくて美味しいステーキ(もぐもぐ)食べた事が無いです!」
侍女と御者達も熱々のステーキを目を丸くしながら美味しそうに食べていた。この旅で侍女達と御者達は相当仲良くなったのではとロッドは思った。
ロッドは食事を終えた皆に冷たいプリンアラモードとスプーンを配った。
例によってリーンステアとジョアンナは2個目を希望したが、今回は侍女達にも2個目を配るロッドであった。
〈それぞれが食べた物〉
ロッド ステーキ2枚、パン1個、スープ1杯、ウーロン茶2杯、プリン1個
アイリス ステーキ1枚、パン1個、スープ1杯、レモンティ2杯、プリン1個
ジュリアン ステーキ3枚、パン2個、スープ2杯、レモンティ2杯、プリン1個
ジョアンナ ステーキ2枚、パン1個、スープ2杯、オレンジジュース2杯、プリン2個
リーンステア ステーキ6枚、パン2個、スープ1杯、レモンティ3杯、プリン2個
侍女2名 ステーキ4杯、パン2個、スープ4杯、オレンジジュース4杯、プリン4個
御者2名 ステーキ6枚杯、パン4個、スープ2杯、ウーロン茶4杯、プリン2個
ーー
食事の後片付けをした後、プリンを8つ携えて精霊の扉の野営場所を訪れるロッド。
彼らも既に食事を終えていたようだった。
「ロッド、どうしたの?」
フランがやって来たロッドに声を掛ける。
他のメンバーは訪れたロッドに気づかず、夕食の後片付けや武器の手入れ、見張りの準備をしている。
「ああ、これを分けようと持って来たんだ。プリンという甘いデザートだよ。8つあるから女性は2個ずつ食べてほしい」
ロッドはそう言ってプリンアラモードとスプーンが入った籠をフランに渡す。
「まあ!ありがとうロッド。皆喜ぶわよ!」
フランが中身を見て最高の笑顔をみせる。
「じゃあ、悪いけど夜間の見張りは任せたよ」
ロッドはいつよりも遅くなっていたので早々に戻る事にした。
ーー
ロッドが戻る途中、10歳ぐらいの少年が野営場所周辺をウロウロしているのが見えた。
不審に思ったロッドは声を掛ける。
「どうかしたのか?」
少年は地面で何かを探していたが、顔を上げて答えた。
「おいらお父と妹と馬車で来たんだけど、妹がお腹が空いたって。食べるもんがないから何か落ちてないか探してんだ」
ロッドが更に尋ねる。
「今日の夕食は食べてないのか?」
少年は下を向き凹んだお腹をさすって元気なく答える。
「あした馬車で街に行ってお父が仕事を探すって。それまで食べ物は無いよ。昨日食べた木の実…取っといて妹にあげれば良かったな…」
少年の父親はどうやら仕事を探しに領都に行くらしかった。
察するに乗合馬車の代金を支払うと食べ物を買う金が足り無かったのだろう。
ロッドはこの世界はまだまだ発展途上であり弱者には厳しい事は分かっている。
自分もついこの間までは似たような立場だった。
この世界にいる全員を助ける事は出来ないだろう。
だが見てしまった以上は無視出来なかった。
空腹の辛さは誰よりも身に沁みていたから…
「肩を少し揉んでほしい。揉んでくれたらパンを3つあげよう」
ロッドはストレージからロールパンが3つ入ったビニール袋を取り出し少年に見せると、ニヤリとして地面に座り込んだ。
「えっ……やるやる!やるよ!」
少年は最初はビックリしてパンを眺めていたが、やがてハッと気付き急いでロッドの依頼を受けると宣言した。
良い笑顔でロッドの肩を揉む少年。
ロッドはもう少し上とかもっと強めになど色々指示しながら5分ほど揉んでもらい、その代価としてパンを少年に差し出した。
「明日の朝もここに来な。今度は足と腕を揉んでもらおうか」
少年はパンを受け取って嬉しそうに頷くと乗合馬車の方に走り去って行った。
ーーーーー
5匹の
この者達は闇に生きる者であった。
闇の一族の者は普通の人間よりも永い年月を生きている。
敵などいないからこれからも永遠に生き続けるであろう。
この者達は一族になってそれほど経っていない若い者達であった。
彼らは若者ゆえ日々の娯楽に飢えていた。
だが人間を過度に殺生する事は禁じられていた。
闇の女神を信仰している者も中にはいるからである。
破壊衝動は常にあるが闇の君主の命令には逆らえない。
心情的に逆らえないのではなく生物的に逆らえないのだ。
だが先ほど闇の君主から若者達へご褒美が出された。
ある人間の集団を皆殺しにして良いという褒美だった。
人間を殺すなど簡単な事だが娯楽に飢えた者には魅力的なご褒美でもあった。
最初3人が呼ばれたが我も我もと希望者が多く君主の指定で2人が追加された。
若者達は
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