第16話 馬車と奇襲

また少し早く目覚めたロッドは日課である精神統一を今日も行った。


まだたった10日ほどだが、最近では最初の頃よりも精神力が上がってきているとロッドは感じていた。


続いてロッドは今朝の朝食のメニューを考える。

そろそろ米を食べたくなったロッドであったが、朝食で米だとどうしても日本食が思い浮かんでしまう。


自分やアイリスだけなら良いのだが、ジュリアン達は箸が使えないので純日本食はきついだろう。


そこで昼食をスプーンで食べられる定番のカレーライスにして、朝飯はロールパン、グラタン、コーンスープを出す事にした。


グラタンは一から作ると大変なのでグラタンの素を使い、同時にお昼に食べるご飯やカレーも作ってしまうつもりだ。


ロッドはまずカセットガスコンロを1台用意し、お昼のご飯用にして5合炊きの土鍋に米と水をセットしご飯を炊く。


炊き終わったら中身をストレージに格納してもう10合分を同じ様に炊いてストレージに格納する。


2台目は大き目の鍋に水と濃縮用コーンスープを合わせて適度な温度まで温めコーンスープを作りストレージに格納する。


3台目は大き目の鍋に油を引き、小さくカットした鶏肉とスライスした玉ねぎを相当量炒めマカロニグラタンの素、水、牛乳を加え最後にマカロニを加えてよく混ぜる。


その後沸騰させながらとろみが出るまで混ぜ、大きい耐熱皿に移して上からナチュラルチーズをたっぷり掛ける。それを5皿分用意して誰も見ていない事を確認してから〔念動力テレキネシス〕で浮かせ〔火操能力パイロキネシス〕の応用でボール状に囲んだ範囲内が220度ぐらいになるよう調理用温度計で確認しながら10数分ほど熱する。


完成したグラタンはストレージに格納した。


4台目は深型の大きい鍋で牛のブロック肉をサイコロ状にカットして表面を炒め、一旦取り出して玉ねぎを長めに炒めた後、人参、ジャガイモも追加して炒め、肉を戻して水を加えてよく煮た後、前に取り寄せておいた辛口のカレールーを適量混ぜて少し煮込み、これもストレージに格納した。


〈新たに取り寄せた物〉

・耐熱の金属製角皿30cm☓20cm5個(5,000P)

・調理用温度計(3,000P)

・グラタンの素4皿分(マカロニ入り)☓25袋(7,500P)

・ナチュラルチーズ1kg(2,500P)

・バターロール30個入り1袋(1,500P)


やがて皆が起き出したので、全員のテーブルを用意し、朝食を呼び掛けた。


〈朝食メニュー 全て組み立て式折り畳みテーブルに配置〉

・チーズたっぷりのマカロニグラタン

・コーンスープ

・バターロール

・ドリンクバー(オレンジジュース、ウーロン茶、レモンティ(冷))


「今朝はグラタンとパン、コーンスープというメニューになる。グラタンはこのテーブルに大皿で2つ用意しているので、各自食べられそうな分量を取って食べて欲しい。無くなったら補充もあるので遠慮なく食べて欲しいが、このグラタンは皿も含めて凄く熱いから火傷に気を付けてくれ。飲み物、スープ、パンも各自で取って欲しい」


ロッドはハム美とピーちゃんの水と餌を用意した後、皆に朝食の説明をした。

早速、初見のグラタンを取って席に戻って食べるリーンステア。


とうとう主より先かよ?と少しだけ思うロッドであった。


「ふ〜(はふはむ、ごっくん)美味しい!ふ〜(はふはむ、ごくん)おおお、このチーズと中に入っているお肉が何とも言えず合っていて美味しい!」

リーンステアが何やら叫びながら食べる。


「少し熱いけど美味しいです〜。中に入っている食材の味もとて良くて!」

「ふ〜ふ〜(もぐもぐ)これは美味しいですね!肉とチーズも良く合っていて」

ジョアンナとジュリアンも気に入ったようだ。


侍女達、御者達も熱さではふはふ言いながらも笑顔で食べていた。



ーーーーー


食事後、ロッドは皆に確認した後に簡易水洗トイレの後始末を行なってストレージに格納し、続けてテントや寝袋も格納して出発準備を終えた。


リーンステアとバーンの2人で村長に一言挨拶した後、一行は村から街道に出る。


ちなみに来た時とは異なり、村長は始終ニコニコしていた様子であったという。


その後の旅は順調で、お昼前になってやっと境界線上は辺境伯領へと入った。


馬車の中で、ようやく自領に戻れた事で笑顔になるジュリアンとジョアンナ。


しかしその時、荷馬車で〔遠隔知覚テレパス〕をアクティブに使用して周囲を警戒していたロッドは街道の前方約10km地点に悪意のある反応、少なくとも一般人では無い反応を感知した。


このまま進むと2時間もしないで接触する事になる。


千里眼リモートビューイング〕で確認したところ、〔透視クレアボヤンス〕も同時に使用し、1台目に6人、2台目に6人、御者を合わせると14人いる事が分かる。


馬車の中に潜んでいる者は黒装束で目以外を隠しており、完全に暗殺者の出で立ちだった。


ロッドは〔精神感応テレパシー〕でアイリスに話し掛ける。


(アイリス。街道の進行方向から悪意のある集団がやって来る。このままだと、後2時間もせずに接触するだろう。

とりあえずアイリスが魔法で発見した事にしてほしい。

『はい。承知しました。ですがロッド様、先に遠距離から滅ぼしてしまうのはいかかでしょうか?』

…いや、何事かと思われてしまうのでそれはやめておこうか。

『はい。残念ですが承知しました』)


ロッドは迎撃するにしても超能力以外では武器も持っていない事に気づき、サバイバルナイフを指輪で取り寄せて装備しておく事にした。


また、あるアイデアがあるので催涙スプレーも取り寄せておく。


・鞘付きサバイバルナイフ高硬度(10,000P)

・催涙スプレー4個(20,000P)


その後、アイリス経由でジュリアン達の馬車から合図を送ってもらい、一行は一旦停止した。ジュリアン達の馬車付近に皆が集合し、事前にロッドとアイリスが話していたように装った後、ロッドが皆に説明した。


「アイリスの魔法がこの街道の先に悪意ある反応を感知した。どうやら馬車で接近しているようで、このままだとそう遠くないうちに接触するようだ」


その場が緊張に包まれる。


バーンが発言する。

「その魔法で何か他に敵の情報は得られないか?」


アイリスとロッドがボソボソと2人で話した後、ロッドが説明する。


「多分だが2台の荷馬車に15人近くが乗っているらしい。武装した暗殺者集団かもしれないという事だ」


「まずいな、思ったよりも数が多いぞ。罠を仕掛けるにしても時間が無いな…」

パーンが考え込む。


「遠くから魔法で倒そうぜ!」

「もし仮に違ったら不味いわよ。私達が犯罪者として追われるわ」

「それもそうね…」


ザイアスが意見を出し、エスティアが疑問を呈し、フランが追随する。


「俺は睡眠スリープの呪文が使える。少しなら眠らせる事が出来ると思う」

マックスが魔法で眠らせるという案を出した。


「いや移動する馬車には使えないだろう?それに少人数を眠らせるだけでは決め手に掛けるな」

クラインがマックスの案を冷静に分析する。


沈黙する一同。


「一つ案がある」

皆の意見が出揃ったところでロッドが唐突にそう宣言した。


「言ってみてくれ、ロッド」

バーンがロッドに発言を促し、皆が注目する。


「ハム美!ピーちゃん!来てくれ!」


ロッドは1つ頷くと荷馬車に向って叫ぶ。

ロッドが叫ぶと、ハム美とピーちゃんが急いでやって来て、ロッドの両肩に乗る。


「ロッド、お前魔獣使いテイマーだったのか?」

ザイアスがトンチンカンな事を言った。


「俺は魔獣使いテイマーじゃない…これは俺の大切なペットのハム美とピーちゃんと言う。このふたりに頼んで馬車が近付いて来たら、これを馬車の中に投げ入れてもらう」

そう言ってロッドは催涙スプレーを懐から取り出す。


「この中身が衝撃で爆発して目などに入ると痛みでしばらく動けなくなる。狭い馬車の中なら全員に効くはずだ。それで混乱しているうちに拘束してしまおう」

ロッドは催涙スプレーを使って制圧するという案を説明した。


「こんなもん効くのか〜。無駄だと思うけど?それにこれペットに運べんのか?」

ザイアスが疑問を投げかける。


案を否定されたロッドは内心を隠し、笑顔でザイアスを手招きする。


ザイアスはロッドがまた何かくれるのか?とニコニコしてやって来るが、ロッドはザイアスの顔にほんの微量だけ軽くスプレーしてあげた。


「うぎゃああああ!!!」

目を押さえて絶叫し、転げ回るザイアス。


「まあ、ほんの微量でもこんな感じだ。この催涙スプレーに紐でもかければハム美とピーちゃんでも運べると思う」

ロッドは良い笑顔で皆に実演して見せた。


「わ、分かった…ロッドに任せる。駄目なら正面からやるしかないな!敵が前から来るのであれば念のためジュリアン様達は俺達の馬車に乗ってもらって、俺とクライン、ザイアス、ロッドがそちらの馬車に乗って飛び出す事にしよう。事が起こったらリーンステアさんはジュリアン様達の方へ護衛に付いてほしい」


バーンが提案した通りの入れ替えを行ない、10分ほどして回復した後プリプリしているザイアスを乗せ、一行は旅を続けるのであった。



ーーーーー


ロッドは馬車に揺られながらサバイバルナイフの鞘を抜いて眺める。


実は馬車のメンバー入れ替えの際に内緒でアイリスにこのサバイバルナイフを鑑定してもらっていたのだ。


〈鑑定結果 高品質ハイクオリティな短剣〉

・異世界名称:サバイバルナイフ

・切れ味+2…30%向上(1.3倍、item呼称:高品質ハイクオリティ)

短剣ダガー+2と同様


鑑定結果の説明に異世界名称とあったので、地球のアイテムはこの世界に持ち込んだ時には別名になってしまい、地球での名前は異世界名称として扱われる事が分かった。


また、常にかどうか分からないが地球産のアイテムは高品質ハイクオリティとしての扱いになるようだ。普通のアイテムよりも良い性能になっている。


サバイバルナイフを見つめるロッドにバーンが声を掛ける。

「良さそうな短剣だな」


ロッドは笑顔で短く返す。

「ああ。高品質ハイクオリティな短剣なんだ」


ザイアスは先程の事をまだ根に持っているようで、ロッドに絡む。

「小さい武器だな〜俺の戦斧バトルアックスを見ろよ。すげえ刃だろ?」


「そうだな。当たれば良いダメージが出そうだ。まあ当たればな」

ロッドは多少の皮肉を込めてザイアスの武器を肯定する。


そんなやりとりをしている間に敵だと思われる馬車が近付いて来ていた。


残り100mぐらいになったところでロッドは馬車の扉を少し開けて、ハム実とピーちゃんに指示した。


「いいか。ピーちゃんは奥の馬車、ハム美は手前の馬車だ。行け!」


催涙スプレーに結んだ紐を咥え、一斉に飛び出すハム美とピーちゃん。

10数秒ほどしてふたりが催涙スプレーを馬車に入れたのが分かった。


ロッドは〔思考加速〕を使いながら、新たに応用技と定義した〔自在の瞳〕でふたりを同時に見ていたのだ。


そのまま集中し、催涙スプレー缶☓2をほぼ同時に〔火操能力パイロキネシス〕で200度に熱した。


=============== 〔自在の瞳〕

千里眼リモートビューイング〕と〔透視クレアボヤンス〕を組み合わせ、透視しながらも自在に遠近の視点を合わせて視る応用技

==============================


周囲にパン!パン!という乾いた音が響き、敵だと思われる馬車が10mぐらい手前で急に停車する。


そして馬車の中から黒装束の男たちが絶叫の声を上げながら次々に転げ出る。


「行くぞ!」


ロッド達はバーンの掛け声で扉を開けて馬車から躍り出る。

ロッド達の御者はそれを見てあらかじめ決めていたように馬車を停止した。


4人のうちバーンとロッドの2人が先に馬車に着き、バーンは手前、ロッドは奥の馬車の御者に武器を突きつけた後、ロープで拘束する。


あとは4人で転げ回る黒装束の男達を各種の打撃で気絶させ、拘束していった。


1人だけ目の痛みに耐え、見えずとも武器をやたらと振り回している色の違う装束の男がいて手がつけられなかったが、ロッドが〔思考加速〕を使って斬撃を避けつつ懐に入り、脳が揺れるように顎にストレートを入れて気絶させ拘束した。


その様子を見てロッドには喧嘩を売らない方が良いなと思うザイアスであった。



ーーーーー


「うまく行ったな!ロッド」

バーンはロッドとパチンと掌を合せた。


「ハム美とピーちゃんもお疲れ様」

ロッドは肩に乗っているふたりそれぞれ見て、ねぎらいの言葉をかける。


「本当に凄かったわね!」

「そうよね!敵の馬車にアレを投げ入れるなんて!」


エスティアとフランも作戦がうまく行った事を喜び、それぞれが立役者であるハム美とピーちゃんを撫で撫でする。


とりあえず襲撃者を全員馬車に押し込み、皆で昼食を食べながら今後の方針を話そうという事になった。


ロッドは素早くジュリアン達の馬車に戻り、馬車近くに皆の椅子とテーブル、組み立て式折り畳みテーブルを展開し、朝作っておいたカレーの入った鍋と炊いたご飯、ドリンクバーを配置した。


ハム美とピーちゃんの水と餌とおやつを用意した後、皆に昼食の準備が出来た事を知らせる。


昼食を取りながらという事だったので精霊の扉にもカレーを振る舞う事となった。


皆に飲み物だけ取って席に着いてもらい、カレーはコツがいるのでロッドがよそって配膳する事にした。


精霊の扉は席が無いので組み立て式折り畳みテーブルで立食となる。


事前に取り寄せておいた使い捨てのカレー皿にご飯を適量盛り、空いているスペースに肉と野菜を適量混ぜたカレールーを注ぐ。


リーンステアとザイアスはどうせ食べるのだからと大盛にした。


手早く全員分よそって皆に昼食の説明をする。


「これはカレーという異国の料理だ。少し辛目の味なので気を付けてほしい。もし辛くて食べられないという人がいたら手をあげて教えてくれ。生卵で辛さを緩和出来ると思う。お代わりはいっぱいあるから食べ終わったら申し出てほしい」


ロッドは説明が終ると自分のカレーを早速食べる。ロッドにとって16年ぶりのカレーである。


久しぶりに食べるカレーはとても美味く懐かしい辛さだった。


「(もぐもぐ)はあ、辛いけど美味しい!もう一杯食べたい!」

「こんなに辛い物は食べた事が無いですけど、美味しいです。」

「お肉もいっぱい入っていて(もぐもぐ)美味しいです」


リーンステア、ジョアンナ、ジュリアンは少し汗をかきながらも美味しそうに食べていた。


見ると侍女達は辛いのが辛そうにしていたため、ストレージから出した生卵を加えてあげると、程よい辛さとなったようで喜んで食べていた。


御者達はそのままの辛さでも問題ないようだった。


「美味いな!辛さが後から来るが体が暖まる!」

「うん。美味いな。辛いが美味い!こんな料理まで積んでいたとはな」

「何これ!辛いけど美味しい〜。何かの野菜も入っているわね」

「うまっ!辛っ!(バクバク)肉も入っている!」

「美味いですね。何がこの味を出しているんでしょう」

「はぁ。私には少し辛いわ」


バーン、クライン、フラン、ザイアス、マックスはは満足そうに食べていたが、エスティアは辛過ぎるようで手を上げたので、生卵を加えてもらい程よい辛さで食べてもらった。


ロッドは皆に分からないようにストレージからご飯を補充しつつ、お代わりの要望に答えていた。


〈それぞれが食べた物〉

ロッド カレー2杯、ウーロン茶2杯

アイリス カレー1杯、レモンティ2杯

ジュリアン カレー2.5杯、レモンティ3杯

ジョアンナ カレー1.5杯、オレンジジュース3杯

リーンステア カレー大盛3杯、レモンティ2杯、オレンジジュース2杯

侍女2名 生卵入りカレー2杯、オレンジジュース4杯

御者2名 カレー4杯、ウーロン茶4杯

バーン カレー2杯、ウーロン茶、レモンティ、オレンジジュース各1杯

クライン カレー3杯、ウーロン茶2杯

ザイアス カレー大盛3杯、ウーロン茶、レモンティ、オレンジジュース各2杯

エスティア 生卵入りカレー1杯、オレンジジュース3杯

フラン カレー1.5杯、レモンティ1杯、オレンジジュース1杯

マックス カレー2杯、ウーロン茶1杯、レモンティ1杯


ーー


バーンは内心驚いていた。

いつもこんな温かく美味しい食事を食べていたのかと。


飲み物も3種類あってどれも冷たくて美味しい。


アイリスは魔法使いだと言っていたのでアイリスが温めたり冷やしたりしているのか、それとも湯を張れると言っていたのでロッドにも出来るのだろうか。


ロッドは先程の動きからみて打撃技が得意のようだ。

動きもかなり速い。


アイリスも未知の探索魔法を使っていてその情報は正確のようだ。


二人とも是非うちのパーティーに入ってくれないかなと思うバーンであった。

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