第15話 奪還と呼称
突如、村の中央に女性の集団、手足を砕かれ意識を失っている男達が現れた。
その中央には目も鼻も口も空いていない白い仮面を被り、赤い燕尾服を来た怪しい人物が立っている。
周囲の村人達はしばし放心していたが、その中に盗賊に攫われた女性達を見付けると喜びながら駆け寄った。
人を呼びに行く村人もいる。
いきなり現れた女性達の方も訳が分からずぼーっとしていたが、我に帰ってここが自分の住む村だと分かると涙を流して喜んだ。
村人達のネットワークで人が人を呼び、村の中央の広場で大勢の村人達が喜びあっていると、連絡を受けた村長が息を切らしながら急いでやって来た。
村長は攫われた女性達がいるのを見て驚き、さらに手足が折れ曲がっている見覚えのある盗賊たちを見て更に驚く。
「お前が村長だな。
見ての通り娘たちを取り返してきた。
関係した盗賊達は手足を全て叩き折ってあるから安心しろ。
こいつらはお前たちの好きにすれば良い。
それと奴らが奪った物資を返すぞ」
ロッドが村長に状況を説明し、ストレージから盗賊の拠点にあった食料・武器防具・その他資源など全てを村長の目の前に取り出した。
いきなり現れた山のように積まれた食料などを見て、村長は心底ビックリした様子で顎が外れそうなほど大口を開いて固まっている。
ロッドは呆れてため息をつくと村長に指示する。
「村長。怪我をした村人をここに連れてこい。今すぐだ」
村長はロッドの指示にハッとして近くの男たちに何事か指示する。
男たちは走り去り、少しして村中の怪我人が20人ほど村長の近くに集められた。
怯えながらロッドに目線を送る村長。
ロッドは恐らくこれで全員なのだろうと思い、村長の一番近くにいる腕を怪我した村人の前までゆっくりと近づき、怯える村人の腕を掴み超能力を発動する。
〔
ロッドに掴まれている村人の腕が白い光を帯び、少しして光が消えた。
村人が首をかしげなら既にロッドが離している腕をグイグイ動かし驚いて叫ぶ。
「怪我が治ってる!」
驚愕する村人達。
今まで治癒魔法の使い手など見たこともない村人達には神の御業に思えた。
ロッドは残りの村人も治療して回る。
最後の方は村人も安心し、自分から怪我の部位を差し出すぐらいであった。
中にはロッドに手を合わせて拝む村人もいる。
※治療はロッドの超能力で行った。治癒魔法ではない。
一通り治療を終えたロッドの前に、盗賊の首領の酌をしていた娘が現れ、膝を折ってロッドに対してお礼の言葉を言った。
「村をお助けいただきありがとうございます。守護者様」
それを聞いた他の村人も口々に噂話や、お礼の言葉などロッドを見ながら話す。
「盗賊も全滅だってさ」
「食べ物もいっぱい戻って来たって」
「神の使いかもしれん、ありがたや」
「皆の怪我も治してくれたって」
「守護者様だと、ワシらも守って貰えるんか?」
「あの仮面でよう見えるの」
「白い仮面…」
「守護者様…」
「仮面の守護者様…」
「仮面の守護者様じゃ、ありがたや」
「「仮面の守護者様〜」」
村の子供達もロッドの呼び名で騒いでしまい、ロッドはこの村で〈仮面の守護者〉と呼ばれるようになってしまった様であった。
ーーーーー
バーンは村長の話を聞いた後、少し気まずい顔をしながらリーンステアと話し合った。
盗賊の件は気の毒だが、精霊の扉は護衛任務中なので何も出来ない
それより盗賊の再来に備えてロッドとアイリスとリーンステアにも夜間の見張りに参加してもらうべきかどうか。
取り急ぎ野営の準備をしながらリーンステアにロッド達の意見も確認してもらう事になった。
野営準備をほぼ終えた頃、村が突然騒がしくなった。
他のメンバーも気づいたらしく、全員武装したのを確認して騒ぎが起こっている村の中央に向かう。
万が一に備えてリーンステアとロッド、アイリスはジュリアン達の護衛に残ってもらう事にした。
騒ぎに気付いてこちらに相談にきたリーンステアにそう指示する。
パーティーメンバー全員で村の中央まで近づくと凄い人だかりで、バーンがハンドサインで注意を促す。
バーンの見たところでは村人が何やら拝んだり、祈ったり、皆何事か同じ様な事を口にしている。
さらに近づいて人だかりを超えて村の中央を見渡せるようになると、バーンはそこにいる人物を見て驚く。
あの
村人は口々に彼のことを〈仮面の守護者様〉と呼んでいる様であった。
バーンが村人をかき分け仮面の人物の前まで出ようとしたところ、ちらっとこちらを向いたような気がしたら煙のようにフッと消えていなくなってしまった。
慌てて辺りを見回してもやはりいない…
広場にいた村長の前まで行き何があったのかを聞いてみたところ、盗賊に攫われた女達が全員、仮面の守護者様に助けられ戻って来た事、盗賊達は全員手足を折られて気絶した状態でここに運ばれた事、盗賊達の奪った物がほぼ全て戻って来た事を伝えられた。
バーンやパーティーメンバーはそれを聞き信じられない思いだった。
盗賊達は目の前に多分30人ほどだと思うが全員片手と片足が折られ、それも左右のバランスをわざと取ったように対照的に折られている。
一人だけ両手両足なのは首領だからなのだろうか?どれ程の実力差があればこの様な事が行えるのか。
そもそも歩けない奴らをどうやってここまで運んだのか?
女性達もどの様に村に戻ったのか聞いてみても分からないと言う。
物資も山積みされているが、これもどうやって運んだのか?
パーティーで少し話し合って見たが分かる事は何も無かった。
助けられたという村娘に聞いたところ、彼は自分の事を守護者と名乗ったらしい。
以後、精霊の扉では彼の事は仮面の守護者と呼ぶ事になった。
ーーーーー
ロッドは村人達を治療した後、口々に仮面の守護者様と呼ばれ、内心とまどっていた。
それとなく脱出する機会を伺っていたが、人垣を掻き分けてバーンが姿を現した時、これはまずいなと思いとっさに〔
野営用テントに戻ったロッドはいつもの服装に着替えアイリスに戻った事を伝えた。
少しするとバーンがこちらの野営地にやってきて、仮面の守護者というこの前の謎の人物が現れたとリーンステア、ジュリアン、ロッドに説明してくれた。
少し遅くなってしまった為、食事準備がまた面倒になってしまったロッドは夕食は完成品を取り寄せて済ます事にした。
何が良いかな?と考えるロッド、朝パン、昼ハンバーガーと来たのでここは麺か米系にしたいと思う。
基本的に西洋風のこの世界に麺や米はあまり馴染みが無いかと悩んだがここは麺系で行く事を決める。
そして最終的には自分が食べたかったラーメンを取り寄せる事にした。
デザートだけは西洋風に苺のショートケーキにする。
・ラーメン10杯(10,000P)
・苺のショートケーキ20個(8,000P)
皆のテーブル等をストレージから配置しラーメンとフォーク、レンゲを用意し、ドリンクバーをセットして皆を呼び出す。
ハム美とピーちゃんは水と餌とおやつだ。
「これはラーメンという料理なんだ。
このフォークで中に入っている麺をすくって食べて欲しい。
このレンゲという食器は中のスープを飲む時に使ってくれ。
早く食べないと麺が伸びたり冷めたりするので以上だ。
お代わりは手を挙げてほしい」
ロッドは手早く説明すると箸を使って麺をすする。美味い!
もう一口すする。美味い!
ロッドは満足そうにラーメンを食べた。
「こ、これは(ズズッ)美味しい!この前の焼きそばも良いですが(ズズッ)これも美味しい!もう1杯食べたい」
「このラーメンという食べ物、暖かくてお味も良くて美味しいです〜」
「美味しいですね!(ズズッチュルチュル)この細い麺が何とも言えず美味しいです(チュルチュル)」
リーンステアはもう1杯食べたいそうだ。
ジョアンナとジュリアンもそれぞれ美味しく食べている。
侍女達と御者達も初めて食べる味に驚きながらも美味しく食べている様子であった。
リーンステアのお代わり分を配膳し、食べ終わった者から苺のショートケーキを配布した。
このケーキも食べ過ぎると身体に良くないので1人1つという説明をするが、やはりリーンステアとジョアンナには詰め寄られもう1つずつ渡すのであった。
〈それぞれが食べた物〉
ロッド ラーメン1杯、苺のショートケーキ1個、ウーロン茶2杯
アイリス ラーメン1杯、苺のショートケーキ1個、レモンティ1杯
ジュリアン ラーメン1杯、苺のショートケーキ1個、レモンティ2杯
ジョアンナ ラーメン1杯、苺のショートケーキ2個、オレンジジュース2杯
リーンステア ラーメン2杯、苺のショートケーキ2個、レモンティ2杯
侍女2名 ラーメン2杯、苺のショートケーキ2個、レモンティ2杯
御者2名 ラーメン2杯、苺のショートケーキ2個、ウーロン茶2杯
ロッドは食事の後片付けが終わると、苺のショートケーキを6つお盆に乗せて精霊の扉の野営場所に向かう。彼らも丁度今食事を終えたようであった。
「また持ってきたものがあるが、食べないか?甘い物だ」
ロッドは精霊の扉のメンバーに問い掛ける。
「どんな物なの?」
珍しくエスティアが真っ先に反応する。
「苺というフルーツが入ったケーキだ。かなり甘いぞ」
ロッドはそう言ってケーキの乗ったお盆をエスティアの目の前に差し出す。
甘い物に目がないエスティアは、あまりにも美味しそうに見えるケーキを眼の前にして見た事が無いくらい笑顔になる。
フランもスッと近くに寄る。
「どうぞ。これで食べてくれ」
まずエスティアとフランに使い捨てフォークを渡すロッド。
落とさない様にそっとショートケーキを手に取り取る女性達。
次にフォークでケーキの先端を削り取り一口食べる。
「!(ん〜)甘〜い!美味しい!(パクッ)ん〜」
「(えっ)これ、美味しすぎ!こんな甘いケーキ食べた事無いわよ!(パクッ)」
エスティアとフランは至福の表情でケーキを食べる。
その間にロッドは他のメンバーにもケーキとフォークを配り、恐らく女性はあの感じだと食べ足りないだろうなと、そっとストレージから追加のショートケーキを2個出しておく。
「いつも悪いな、ロッド。エスティアとフランは礼を言う余裕も無いようだ。すまないな」
「ロッド君ありがとう」
「うひょお〜俺も食べたかったんだ〜」
「ありがとな。しかし出発時は凄い荷物だったんだな」
バーン、マックス、ザイアス、クラインもそれぞれお礼か何かを口にした。
「ああ。良いんだ。それとこの追加の2個は女性達にあげてくれ」
そう言うとロッドは自分達の野営場所に戻った。
ーーーーー
野営場所に戻ったロッドは、昨日入っていないし今日は安全な村の中だという事もあり風呂に入る事にした。
ストレージからパーテーションを取り出して周囲を囲み、檜のバスタブ、湯桶セット3つ、シャンプーなどをセットし、少し熱めの湯も張る。
ジュリアン達に聞いてみるとやはり入りたいとの事だったので、順番を決めて入る事にした。基本的には前回と同じだ。
〈決めた順番〉
1.ロッドとジュリアン
2.アイリスとリーンステア
3.ジョアンナと侍女2人(侍女2人はジョアンナの世話後)
4.御者達2人
御者達は当初は恐れ多いと固辞していたが一番最後に入る事で合意した。
また侍女達に御者達への利用方法の説明もお願いした。
ーー
ジャンプーで髪と身体を洗い終わり湯船に浸かりくつろぐジュリアンとロッド。
「ふう〜いい湯だ。一仕事した後の風呂は気持ちいいな」
ロッドは目を瞑って今日一日を振り返る。
「は〜そうですね〜。
そういえば仮面の守護者が盗賊から村人達を救ったと聞きましたが、
それはロッドさんですよね?」
ジュリアンが湯の中で両腕を伸ばしながら尋ねる。
「ああ、そうだ。やり方が気に入らなかったからな。お仕置きしてきた」
ロッドは少しだけジュリアンの方を向き答える。
「やっぱりそうでしたか。
それはいいんですが、
なんで仮面の守護者と呼ばれるようになったんでしょう?」
首を傾げるジュリアン。
「いや、それが半分冗談で、助けた娘に世界の守護者だと名言ったら、
それが広まってしまったんだ…」
少し後悔した感じでロッドが答える
「そうだったんですか、でも似合っていそうですけどね。
実際に守ってもらっていますし」
「ははは…」
ロッドは中二病的な呼称が恥ずかしくなり、乾いた笑いで誤魔化すのであった。
ーー
リーンステアは前回よりは素早く衣服を脱ぎ、今回は髪用と身体用とを間違えずに洗い終わり、アイリスとほぼ同時に湯船に入る。
「ふう〜やはり気持ちいいですね。風呂という物は。はあ〜」
リーンステアは手と足をいっぱいに伸ばして話す。
「…」
アイリスは黙っている。
「そういえばアイリス殿の出身は何処なのですか?
ロッド殿はオルストの街だという事でしたが」
リーンステアは気まずいので無難な話題を振ってみる事にした。
「私の出身地はこの近くにはありません」
アイリスが良い姿勢で目を瞑ったまま答える。
「相当遠い所なんですね。もしかして外国なんでしょうか?
私は辺境伯領と王都ぐらいしか行った事が無いのであまり分かりませんが」
リーンステアが話しを繋ぐ。
「ええ、そうです。
遠い遠い所です。
イメージで言えば空の上でしょうか」
アイリスが空を少し寂しげに見上げ、答えた。
「空の上ですか…」
リーンステアは何処まで本気の発言なのか?
がまた測れず、何となく怖くなったのでこの話は終わりにしようと思った…
ーー
ジョアンナは侍女達に服を脱がせて貰い、髪も身体も洗ってもらう。
「ふ〜。またお風呂に入れたわ。
気持ちいい。
前は初めてで気が付かなかったけど、何か凄く良い匂いのするお風呂だわ。
木の香りかしら?」
ジョアンナは檜の匂いを嗅ぎ湯船で軽く手を回してくつろぐ。
だがジョアンナはもう明後日には辺境伯領に着いてしまう事を考えた。
(そうなれば護衛の依頼が終わってロッド様は何処かへ行ってしまう…)
少し寂しくなってしまったジョアンナであったが、辺境伯領に着いたらしばらく滞在してもらって、帰って来るお父様にお願いして騎士団にでも入団させて貰えないか頼んでみようと思った。
(そうなればずっと領内にいてもらえる。そしていずれは…)
ジョアンナはロッドの事を考え、お湯以上に顔が熱くなったような気がした。
「また少しのぼせたみたい」
湯から上がったジョアンナの顔は耳まで真っ赤になっており、また侍女に心配される事になった。
ーーーーー
侍女や御者達も風呂から上がったので、ロッドは一旦湯を熱めのお湯に入れ替え、精霊の扉の野営場所に向かった。
「おお。ロッド、どうした?」
「どうしたの?」
バーンとフランが野営場所に訪れたロッドに尋ねる。
「風呂の用意があるんだが、そっちで入りたい人はいるか?」
ロッドはバーンに訪問理由を告げる。
「えっ!お風呂?お湯に浸かれるの?」
フランが速攻で食いつく。
「ああ、その通り。
洗剤などもあるし、俺かアイリスが湯を張れるから湯加減も調整できる。
ある程度の大きさがあるので3人までなら同時に入れるよ」
ロッドは少し細かく説明した。
「村から借りれたという事か?」
バーンが追加で質問する。
「まあそんな感じだよ。一度見てみないか?」
ロッドは少し誤魔化したような感じになったが、逆提案してみた。
ーー
とりあえず見学にきたバーンとフランの2人を簡易的な風呂場に連れてきた。
パーテーションに囲まれた檜のバスタブと椅子や桶などを見て驚く2人。
「凄い!本当にお風呂だわ。貴族みたい!」
「ああ、風呂は入った事は無いが、本格的だな。何でこんな村に…」
フランは興奮したように喜び、バーンは風呂に入った事が無いと及び腰であった。
「とりあえず説明しよう。
ここは四隅にパーテーションがあるので外から見られる事はないから
安心して欲しい。
ここに髪用と身体用の洗剤があるので、全身にこの桶でかけ湯をした後、
髪と身体を洗って綺麗にする。
身体用の洗剤は顔も洗える。
髪と身体を綺麗にした後は湯船に浸かって楽しんで身体を温めてくれ。
3人までは一度に入れるが男女は別々に入った方が良いだろうから精霊の扉のメンバーなら2人ずつで入れば良いんじゃないかと思う。
無理強いはしないけどな。
2人が入り終わったタイミングで俺に声を掛けてもらえれば
お湯の張り替えを行うよ」
ロッドはフランとバーンに風呂の使い方を一気に説明した。
「私は是非入りたいわ!エスティアにもすぐ声を掛けて見る!」
フランは絶対入るとの意気込みでバーンに話す。
「分かった。一度野営場所に戻って順番を相談してみるよ」
バーンはそう言うとフランと野営地に戻って行った。
結局、物珍しさもあり精霊の扉のメンバー全員が順番で入る事になった。
〈決めた順番〉
1.フランとエスティア
2.クラインとマックス
3.バーンとザイアス
ーー
パーテーションの隙間を閉じて一応辺りを警戒しながらゆっくりと鎧と服を脱ぐフランとエスティア。
フランがロッドから聞いていた洗剤の種類などの使い方を説明し、かけ湯をして髪と身体を洗う2人。
泡を洗い流した後、楽しみにしていた湯に入った。
「ふう〜最高に気持ちいいわ!まるで貴族になったみたいだわ!」
エスティアが笑顔で手足を伸ばし子供のように騒ぐ
「そうでしょ!あ〜いい気持ち。ねえ、髪も凄く良い匂いがしない?」
フランも気持ち良さそうに入り、洗い終わった自分の髪の良い匂いに驚く。
「本当!良い匂い。あの洗剤高いのかしら?安ければ川で洗う時にも使いたいわ。しかし凄い村ね、こんなお風呂があるなんて」
エスティアも洗髪後の匂いに驚きながら話す。
「仮面の守護者もいたぐらいだから凄いのかも。あの人は一体誰なのかしら?」
フランは村に絡めて仮面の守護者の話題を出した。
「そうね。分からないけど恐ろしいぐらいの実力があるのは確かだわ。
もしかしたら私達が知らないSランク冒険者なのかも知れないわ」
エスティアがSランク冒険者なのではという自分の推論を話す。
「でも悪人じゃない事は間違い無いわね。
今回も村人を助けて治療まで施していたようだし。
普通そこまでやらないわよ。
治療だって魔力が相当必要なはずだし」
フランが仮面の守護者の人物像を想像してそう言った。
「ふふっ。実は最初はロッドを疑っていたのよね私。
一人だけあの場にいなかったし、髪の長さも丁度良いでしょう?
それに精霊もなんだか集まっていたし。
でも今回はずっと村の中にいたはずだし、髪の色だって違うし、アイリスさんにも精霊が集まっている時もあるし、精霊って結局気まぐれなのよね」
エスティアは当初ロッドが仮面の守護者ではないかと疑っていた事を話す。
「それこそまさかよ。ロッドは良い子よ。
言葉使いは年齢よりも大人びていてぶっきらぼうだけど、
バーンが言っていた様に気が利くし。
あの辺境伯の長女がぞっこんのようだしね」
フランが最後に少しからかうように言った。
ーー
風呂から出た2人は野営場所にいるロッドに入り終わったと声を掛けた。
ロッドはストレージ操作で冷えたオレンジジュースを2杯注いで取り出し、置いてあった物を今出したように差し出した。
風呂上がりのジュースの美味しさにビックリしながら2人は自分達の野営場所に戻って行く。
ロッドは風呂に戻ると湯を張り替え、シャンプーを補充して次の2人を待つ。
やがて現れたクラインとマックスに風呂の使い方を教え、終わったら2人に冷たいオレンジジュースを振る舞い、また湯を張り替えてバーンとザイアスにも同様に最後にオレンジジュースを振る舞うと、ストレージに風呂セットを格納して忙しかった今日を終えるのだった。
ーーーーー
男は目覚める。
男は闇を統べる者である。
男は女神ベラドナによってその力を与えられた者だった。
闇の女神ベラドナがこの世界に来て呼び寄せた12の大いなる者の一人でもある。
深夜、起きたばかりの男のところに闇の女神教団からの使いが来た。
ランデルス王国のロードスター辺境伯領に戻っている途中の一行を、男の一族の力で滅ぼして欲しいとの事。代償として6人の無垢な乙女を差し出すとあった。
男は人間共の争いなど心底くだらないと感じるが、闇の女神ベラドナ様を信望する教団の願いは、おいそれと無下には出来ない。
それに、このような簡単極まる事にうれしい代償も払うと言って来ている。
ここから辺境伯領はそう遠くない。
仮に遠くても飛んで行けば良いだけである。
我らが人間などに殺られる事も無い。
遊びと同じである。
男は一族の中で今一番のお気に入りの者を数名呼び出し、褒美代わりに指定された人間共の始末を命じたのであった。
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