第14話 寒村と盗賊

大鬼オーガの死を確認したバーンはザイアスに指示して大鬼オーガの角と牙を回収させた。


回収後はこのままでは通行の邪魔になるので、クラインとバーン、ザイアスとマックスで大鬼オーガの死体の左右の足を引きずって街道から外れた草むらまで運ぶ。


精霊の扉が素材回収と死体運びをしている間にリーンステアがロッドに尋ねる。


「ロッド殿は戦闘には参加しないのですか?ロッド殿なら大鬼オーガなど一撃ではないでしょうか?上級悪魔グレーターデーモンもそうでしたし」


ロッドが答える。


「俺やアイリスがやると過剰殺傷オーバーキルになって目立つからな。

あまりギルドに知られたくないんだ。

危なくなったら例の格好で手助けするよ」


その後、大鬼オーガの死体を運び終わったバーンがやってきて、馬車を少し街道脇に寄せて一旦ここで昼休憩にしようという事になった。


馬車横に簡易水洗トイレを出した後、お昼はさっと済ませたくなったロッドは、ドリンクバーは出すとして食事は簡単にハンバーガーとフライドポテトで済ませる事にした。


・チーズバーガー30個(9,000P)

・フィッシュバーガー30個(12,000P)

・フライドポテト5kg(10,000P)


〈昼食メニュー〉

・2種類のハンバーガー(チーズバーガー、フィッシュバーガー)

・フライドポテト

・ドリンクバー(ウーロン茶、オレンジジュース、レモンティ)


ロッドは全員のテーブルと椅子をセットした後、昨夜と同じ様に組み立て用折り畳みテーブルにチーズバーガーを入れた籠、フィッシュバーガーを入れた籠、フライドポテトを入れた籠、各種ドリンクバーを配置した。


ハンバーガーとポテトは冷めると美味しくないので、まずは少しずつ出す事にした。


ロッドはチーズバーガーを指差して説明する。


「お昼はこのハンバーガーという物を食べてほしい。

この包み紙を剥がすと、このように肉とチーズを挟んだパンが出てくる。

これを食器を使わずにこう、かじって食べる(モグモグ)」


ロッドが実演して見せる。


「次にこっちは肉ではなく魚のフライとチーズが挟んである。

女性はこちらの方が良いかもな。

最後にこの細長い食べ物はフライドポテトという芋を油で揚げた食べ物だ。

これは自分の皿にある程度取ってから食べてくれ。

塩味が効いて美味しいぞ。

冷めてしまうと美味しくないので全てわざと少しずつ出している。

補充が出来るから、遠慮なく食べてくほしい」


ロッドは説明を終えると、ポテトとウーロン茶と食べかけのチーズバーガーを持って席に着く。

ハム美とピーちゃんにいつも通り餌と水を与える。


「むおお。美味しい(もぐもぐ)これは本当に美味しいです(もぐもぐ)またいくらでも食べられます(もぐもぐ)」


「(もぐもぐ)こんなに上質なお肉を贅沢に使っているなんて!このフライドポテトポテトというのも塩が効いて美味しい(もぐもぐ)」


「お魚のハンバーガーというのも美味しいです。この白いソースのお味がとても良いですね(パクッ)」


リーンステアはとりあえず3個ずつ確保し満足して食べているようだった。


ジュリアンはチーズバーガー、ジョアンナはフィッシュバーガーをそれぞれ食べて気に入った様子である。


侍女達はフィッシュバーガー、御者達はチーズバーガーを笑顔で食べてそれぞれ満足しているようであった。


ロッドはチーズバーガーを一つ食べ終わると、ハンバーガーとポテトを補充し、それとは別にチーズバーガー4個とフィッシュバーガー2個を籠に入れて精霊の扉の休憩場所に赴く。


「よお、ロッド。早いなもう済んだのか?」

固い干し肉をかじりながらバーンがロッドに話しかける。


「いやまだ食事中だが冷めると不味くなるので、先にこれを分けに来たんだ」

ロッドはそう言うと籠に入れたハンバーガーをバーンに渡した。


「ハンバーガーという料理だ。

2種類あってこの色が肉、こっちの色は魚がサンドされている。

包んでいる紙を外して食べてくれ。

女性には魚がお勧めだ」


「いつも悪いな。ロッド」

「本当にそうね。ありがとう」

「しかしそっちの馬車には色んな物を積んでいるんだな」


バーンとフランが礼を言い、クラインは不思議がる。


やはり一番先にザイアスがチーズバーガーの方を手にとって、紙を全て外してかぶり付く。


「おおお、うめ〜っ!何だこれ。今まで食ったことないぐらい美味い!」

ザイアスがチーズバーガーを食べ、あまりの美味さに叫んだ。


フランもそれを見てフィッシュバーガーの方を手に取り、紙を少しずらして静かに一口食べる。


「美味しい!(もぐもぐ)この白いソースが凄く美味しいわよ!エスティアも食べて見なさいよ」


エスティアはロッドを少しだけ訝しげに見たが、勧められた通りフィッシュバーガーを一口食べると目を引く丸くして一心不乱に食べていた。


ロッドはバーンに一言挨拶して食事に戻り、減っていたハンバーガーなどを補充した後に今度はフィッシュバーガーを手に取り、席に戻って食べるのであった。


〈それぞれが食べた物〉

ロッド チーズバーガー2、フィッシュバーガー1、ウーロン茶2杯

アイリス フィッシュバーガー1、レモンティ1杯

ジュリアン チーズバーガー2、フィッシュバーガー1、レモンティ1杯、オレンジジュース1杯

ジョアンナ フィッシュバーガー2、レモンティ1杯、オレンジジュース1杯

リーンステア チーズバーガー4、フィッシュバーガー3、ウーロン茶1杯、レモンティ1杯、オレンジジュース2杯

侍女2名 チーズバーガー2、フィッシュバーガー2、レモンティ2杯、オレンジジュース2杯

御者2名 チーズバーガー4、フィッシュバーガー2、ウーロン茶2杯、レモンティ2杯



ーーーーー


ロッド達はその後は順調に進み、あと半日進めば辺境伯領に入るというところまで来ていた。


まだ夕方でありもう少し進めるはずであったが、オルストで急遽購入した馬の中に元々調子が良くない馬がいたらしく速度も落ちてきた事もあり、丁度街道近くに村があったので今日は早めにその村に入り休む事になった。


一行が村に近付くと村人が10人ほど軽武装でやって来る。

リーンステアが騎乗したまま村人達に話す。


「私は騎士リーンステアだ。

我々は自領であるロードスター辺境伯領に向かっている。

旅で馬が疲れているのでこの村で一晩休みたい」


それを聞き、村人達はそれぞれ驚いたように話し合っている。

少しすると村人の中から一人の初老の男性が進み出た。


「ワシがこの村の村長です。

この村で休みたいという事ですが……

今はこの村には物があまり無く、もてなしなど出来そうに無いんで…」


村長は苦々しくそう言うと頭を下げる。後ろの村人達も慌てて頭を下げた。


リーンステアと村長が話している間に精霊の扉のバーンも前に出てきており、村長との会話に参加する。


「特に村で大層にもてなす必要は無いぞ。

野営の場所を貸してくれるだけで良い。

馬の飼葉と水ぐらいは欲しいがな」


村長がリーンステアを見ると、リーンステアも馬上で頷く。

村長はそれならと、一行を村の中に案内した。


ジュリアン達の馬車が村内に入ると、そこかしこからすすり泣く声が聞こえる。


怪我を負った村人も何人もいる様子だった。

もう夕方なのに食事の準備をしている者は見えなかった。


一行は真っ直ぐに村外れの広場のような場所まで先導され、そこで各自馬車を降りて野営の準備を始めた。


リーンステアとバーンはただならぬ村の様子が気になり、村長に尋ねた。


村長は最初は言葉を濁して誤魔化していたが、リーンステアが鬼のように睨むとやがて重い口を開いた。


少し前から少数の柄の悪い者達がちょくちょく村を訪れるようになり、一部の村人と物々交換などをしていたが、村の人数や規模が知られるとやがて集団で金品や食料や女を強請るようになり、それを断わると暴力を振るうようになった。


近隣の街や村に助けを求めたが、手を貸してくれない。


そしてとうとう今日の午前中、大挙して訪れた盗賊団が金目の物や食料、女房や娘を無理やり攫っていったという事であった。


他領の人に知れるとまずいかもという事で黙っていたらしい。


ロッドは野営の準備をしながら〔念聴クレアオーディエンス〕でこの会話を遠くから聞いていた。


遠隔知覚テレパス〕で村の周囲を感知してみると5kmぐらい先に盗賊団だと思われる反応を感知した。


どうやら30人ほどの散在する盗賊と一か所に集められている村人らしき反応もある。


この世界では日常茶飯事の事かも知れないが、日本での倫理観を持つロッドはまた胸糞悪い気分に襲われた。


ロッドは馬車横に簡易水洗トイレを出し、テントと寝袋を配置するとアイリスにだけ断りを入れテントで仮面に仮装し、盗賊の拠点まで〔瞬間移動テレポート〕した。



ーーーーー


「何だお前?」

見張りの盗賊がいきなり現れたロッドを見て驚く。


「お前は見張りだろ?ちゃんと仕事しろよ」

ロッドはそう言うと盗賊の膝を蹴り砕く。男の左膝が本来とは逆方向に曲がる。


「ぎゃああああ!」

盗賊が一瞬間をおいた後、痛みで絶叫する。


「やっと仕事したな」

ロッドはそう言うと続けて盗賊の右腕を持ち、打撃で肘も逆方向に曲げる。


「うぎゃああああ!」

盗賊はさらなる痛みで泣き叫んだ。


「生き延びたら、今後は真面目に働けよ」


片腕と片足が壊れたらもう盗賊など出来ないだろう。

ロッドはそう言うと盗賊を殴って気絶させ盗賊団の拠点に乗り込んでゆく。


入ってすぐ見張りの叫び声を聞いてやってきた6人の盗賊達を次々と見張りの男と同じ目に合わせる。


そして拠点の奥に進むと中にいた15人は短剣などの粗末な武器で一斉に襲いかかってきた。


少し多いなと感じたロッドが〔思考加速〕を使うと周囲の動きが遅くなり時間がゆっくりと流れるように感じる。


ゆっくりとした時間の中で襲いかかる盗賊達の間を最小限の動きで躱し、全員の片足と片腕を折った後気絶させ同じ目に合わせた。


ちなみに右足と左腕またはその逆など、ランダムだが左右のバランスはちゃんと考えて折っていた。


さらに奥へ進むと牢のような場所があり、そこに女性達が15人ほど閉じ込められていた。中には少女のような年齢の者もいる。


皆、仮面のロッドを見て驚き怯え、牢の反対側の隅に集まる。


ロッドは〔念力サイコキネシス〕で形どった剣〔サイコブレード〕を作って右手に持ち、牢の木の格子を音もなく切り落とす。


切り落とした木はストレージに収納した。

それを見て驚く女性達。


=============== 〔サイコブレード〕

ロッドが〔サイコブレード〕と名付けているこの技はサイコエネルギーを凝縮して一時的にブレード状の武器を創る事が出来る技である。

切れ味などはサイコエネルギーの凝縮度合に左右されるが、総じて人間が創り出せる武器よりも上になる。

知っている物であればどの様な形状も作り出せるが、身体を離れると形状を維持させる事は出来ない。

〔サイコ纏い〕の身体強化との併用も可能である。

==============================


「俺は盗賊に攫われたお前達を助けに来た。だが、もう少しそこで待っていてくれ」


ロッドは村の女性達の何人かが震えながらも頷くのを見て、さらに奥へと進んだ。


ドアを勢いよく蹴破ると奥は盗賊団の幹部の集まりだったようで、村から奪ったと思われる食料を食い散らかしており、中には泥酔している者もいた。


一人だけ妙齢の女性がおり一番偉そうな盗賊のお酒を注がされている様だった。


皆、勢いよくドアを蹴破った仮面のロッドをポカンと眺めていたが、やがて侵入者だと分かると各々手に武器を持った。


一番偉そうな盗賊が叫ぶ。

「何だお前!仮面なんかかぶりやがって!手下共は何してる!」


「村の物を取り返しに来た。お前の部下達は全員手足を叩き折って倒した。これからお前達も確実にそうなる。早く武器を取れ、それぐらい待ってやる」


ロッドがそう言うと武装して向かって来る盗賊達


今度は〔サイコ纏い〕を使い身体を強化するロッド。

身体が青白く淡い光に包まれる。


盗賊の一人が切りかかって来た剣を素手で掴み取るロッド。

盗賊は必死に剣を引っ張るが動かない。


ロッドはそのまま素手で剣を握り潰して折る。


驚愕する盗賊達。

ロッドは折れた剣を持って唖然としている盗賊の手足を折り殴って気絶させる。


それからロッドは目にも止まらぬ速さで、次々と一番偉そうな盗賊以外の手足を折り頭を殴って全員気絶させた。


「ひいい!何て強さだ!勘弁してくれ、俺が悪かった。村の物は全部返す!返しますから…」


一番偉そうだった盗賊は次々と倒されてゆく手下を見て腰を抜かし、全員倒された後は驚愕しブルブル怯えながらながら懇願する。


「駄目だな。首領の癖に自分だけ助かろうとする性根が気に入らない。お前だけは両方の手足だ!」


そう言うとまず首領の両足を折り、絶叫する首領に構わず右手、左手を折る。

すると首領は頭を殴る事なく痛みで気絶したようだった。


シンとする室内。


ロッドは首領に酒のお酌をしていた女性に話し掛ける。

「奪われた村の物資が何処にあるか知っているか?」


仮面を被ったままのロッドに女性は少しビクッとした後、恐る恐る話す。

「あの…少し奥に倉庫の様なところがあるので、そこにあると思います。こちらです」


女性の案内で進むと食料や武器などある程度の物資が積まれている部屋があった。


ロッドは片手を伸ばし恐らくあの村の物では無いと思われる物まで片っ端から全てストレージに回収する。


次々と消えていく物資に目を丸くして驚く女性。

あらかた回収し終えたロッドは女性に尋ねる。


「お前も牢にいた女性達と同じ村から連れて来られたのか?」


「はい。

昼間に皆と一緒に連れて来られました。

食事の用意を手伝わないと皆を酷い目に合わせると言われたので…

あの…

あなた様は神様なのでしょうか?」



女性は大勢いた盗賊を一人で物ともせずに退治し、何か分からない力で物を消してしまったロッドを神様か、神様の使いなのでは?と考えた。


「俺は神じゃない。

そうだな…

この世界の守護者と言ったところか」


ロッドは女性にそう説明しながら自分でも納得したように頷いた。

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