第11話 仮面と依頼

ロッドは気絶しているラクスを連れて孤児院に〔瞬間移動テレポート〕し、元の服装に着替えて孤児院のドアを叩く。


少し待つとシスターが鍵を開けて出て来た。


シスターには疲れて寝てしまっているラクスを見つけたと言って、ラクスを寝所まで運び、また徒歩で孤児院を去る。


そして人気ひとけのないところで着替え宿屋に〔瞬間移動テレポート〕した。


宿屋の2Fに〔瞬間移動テレポート〕で戻ったロッドは、ジュリアンとリーンステアを確認したが、アイリスとジョアンナがいない事に気づく。


恐らくアイリスが避難させているのであろうと考え他に目を向けるが、

ちょこちょこといろんな場所に悪魔が散在し、一番大きい悪魔が今にも女性に拳を振り下ろそうとしていた。


あれを食らったら女性は死んでしまうと考えたロッドは、〔念力サイコキネシス〕を纏って身体を強化し、〔瞬間移動テレポート〕で女性の前まで移動して、〔念動力テレキネシス〕で少しブレーキを掛けながら大きい悪魔の拳を受け止めた。


=============== 〔サイコ纏い〕

ロッドは〔念力サイコキネシス〕を身体に纏う事により身体が淡く青白い光に包まれ、力属性、敏捷属性、耐久属性を大幅に上げる事が出来る。

ロッドはこれを〔サイコ纏い〕と名付けている。

発動中は常時精神力を消費する事になるので持続時間には注意が必要になる。

上がる属性値も一律ではなく少し〜最大まで自由に調整できる。

また武器に纏わせる事により切れ味や耐久度を一時的に上げる事も出来るが、他人の武器に纏わせる事はできず自分が使用する武器に限定される。

精神力の消費が大きくなるがサイコキネシスで武器の形をとる事も可能である。

注意事項としてサイコキネシスで作る障壁である〔サイコバリア〕と〔サイコ纏い〕は今のところ併用する事は出来ない。

==============================


自慢の攻撃を軽く受け止められてキョトンとしている大きい悪魔を〔サイコ纏い〕で身体強化した足で蹴り飛ばすロッド。


悪魔の巨体が3m以上ふっ飛ぶ。


次にロッドは〔サイコシャワー〕を発動すべく、〔サイコキネシスの玉〕を生成した。白く輝く玉は緩やかに天井付近まで上昇する。


遠隔知覚テレパス〕の応用で悪魔全てを赤い点で感知し、ロッドの合図で〔サイコキネシスの玉〕が弾け、白い光の矢が全ての悪魔に轟音を立てて突き刺さり全て消し炭になった。


これを見て、ジュリアンとリーンステアは姿が少し違うし仮面を被っているが、これはロッドであると確信して安心する。

※ジュリアンはリーンステアから野盗がどうやって倒されたか後で聞いていた


意識があるのは銀級シルバーランクパーティーで二人だけとなってしまった弓使いと女性魔法使いは、この様な魔法があるのかと唖然とし驚く。


最後に残った大きな悪魔が立ち上がり、もの凄い怒りの叫び声をあげる。

「グオオオォォォーッ!!」


「うるさいな、コイツ!」


思わず耳を塞いでいたロッドは片手を上げ長さ1mぐらいの〔念力サイコキネシス〕のサイコエネルギーで白い槍のような物を作り出す。


それを見た女性魔法使いが叫んで忠告する。

「仮面の人!上級悪魔グレーターデーモンに魔法はあまり効かないわ!」


ロッドはチラッと女性魔法使いを見たが、直ぐに視線を悪魔に戻し〔サイコジャベリン〕を投げた。


=============== 〔サイコジャベリン〕

ロッドが〔サイコジャベリン〕と名付けているこの技は訓練中に思い付いた単体向けの攻撃技である。

敵1体への効果を高めるべく拡散せず速度も出せるよう槍状に〔念力サイコキネシス〕のサイコエネルギーを凝縮して中距離〜遠距離で放つ技となっている。

槍状のサイコエネルギーが身体に刺さった相手は内部からサイコエネルギーに細胞を破壊されて焼き尽くされる。

サイコエネルギーは幽体や思念体などにも有効であるため、例え実体のない敵であってもダメージで相手を消滅させる事が可能である。

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上級悪魔グレーターデーモンは魔法で生成されたと思われる白い槍を見ても平然としていた。


魔法に対してかなり高い耐久性を持っており、低級の魔法であればかき消してしまうほどである。


そのため無防備に〔サイコジャベリン〕を喰らう上級悪魔グレーターデーモンだが、何故か白い槍が体に深々と刺さり、何らかのエネルギーが体の内部を駆け巡り凄い勢いで壊してゆく。


悪魔は自分の肉体が滅びるのを感じ弱々しく声を発した。

「グフッ…」


最後には焼け焦げ、黒くなったような死骸だけが残った。

シンとする室内。


ロッドはふと近くに消えそうな生命を感じて歩み寄る。

そこには腹をえぐられている男が横たわっていた。


仰向けにしてみると口からも血を流しており、すぐにでも命の火が消えそうである。


「「ザイアス!」」


弓使いと女性魔法使いが夢から覚めたようにビクっとした後、腹がえぐれている男=ザイアスに駆け寄った。


とても助かりそうも無い傷を見て、女性二人は食いしん坊でお調子者だったザイアスの最後を思い涙する。

※ザイアス=戦斧バトルアックスの男


リーンステアとジュリアンも近づいてきて、男の様子を見て下を向き話す。


「このパーティーの人達が僕を殺すため召喚された悪魔と戦って、僕達を守ってくれたんです…」


(そうか…俺が遅れた為に悪い事をしたな…)

ロッドはそれを聞くとしゃがみ、男の腹に手を翳すと超能力で治療する。


治癒ヒーリング


すると瀕死だった男の腹の傷がシュウシュウと白く光りながら塞がってゆく。

少しすると完全に治ったようで男はパッ目を開けた。


「はっ!飯の時間?」


それからロッドは男性魔法使いの傷と毒、長剣ロングソードの男の内蔵損傷と各種骨折、盾使いの内蔵損傷と潰れた腕と肩の修復まで行った。


死の淵から、再起不能の状態から回復され、唖然としている精霊の扉のメンバーだが、エスティア=女性魔法使いと弓使いから状況を聞いた長剣ロングソードの男が礼を言った。


「おれの名はバーン。俺も含めて皆を回復してくれて助かった。ありがとな!」


「ああ、たまたま通りがかっただけだから気にするな。災難だったな」


ロッドは誤魔化すようにそう言うと精霊の扉には見えないよう、ジュリアンとリーンステアの方へ向き指を口にあて、内緒にするように促した。


その時、宿屋の入口から大勢の完全武装の冒険者達が崩れ込んできた。

後ろからゴルドーも来ており、冒険者ギルドからの救援のようだ。


精霊の扉が無事なのを発見して冒険者ギルドのオルスト支部長ゴルドーが話しかける。


「バーン!上級悪魔グレーターデーモンは何処だ!状況を説明してくれ!」


バーンがゴルドーに話す。


「支部長!救援か。上級悪魔グレーターデーモンは死んだ。ここにいる仮面の人が倒して俺達の怪我も治してくれたんだ」


バーンがそう話し、全員バーンの手の先を見るが誰もいなかった…

「えっ!今までここにいたんだ!何処いった?」


精霊の扉のメンバーも驚き辺りを探すが、煙のように消えてしまい見つからなかった。


ジュリアンとリーンステアは顔を合わせて苦笑いする。


「まあ見つからないならしょうがない、後で名乗り出るかもしれないしな。

この黒焦げになった巨体が上級悪魔グレーターデーモンなのか?」


ゴルドーが悪魔の死骸を指して確認する。


エスティアと弓使いが前に出て説明した。


「ええ。間違いなくこの死骸は上級悪魔グレーターデーモンです。倒されるところを見てましたから」


「私は仮面の人に上級悪魔グレーターデーモンに魔法はあまり効かないと警告したわ。でもその人の魔法1つで今みたいな状態になったの。正直信じられないわ!」


「それにザイアスもお腹に穴を空けられて瀕死だったし、バーンやクラインも相当の大怪我だったはずなのに、直ぐに怪我のない状態まで治療してくれたの。マックスも動けないぐらいの猛毒に侵されていたし、本当に信じられないわ!」


エスティアは同じ魔法使いとして信じられない思いを再度吐き出した。


とりあえず、この宿からギルドに移動して今後の方針を話し合う事となった。

ジュリアンとリーンステアも当事者として同行する事になった。



ーーーーー


ロッドは冒険者ギルドの応援が来た時、面倒な事になりそうだと宿屋からアイリスの位置を探して〔瞬間移動テレポート〕した。


アイリスとジョアンナ、侍女達が避難していたのは冒険者ギルドにも近い公園の側であった。


恐らくアイリスが気を利かせて人気ひとけの少ないところで待ってくれていたのだろう。


「アイリス、ジョアンナ、悪い待たせたな」

ロッドが二人にそう言うと、仮面を被ったままのロッドにジョアンナが飛び込んで来る。


あの時、避難を拒むジョアンナにアイリスが仮面の人物はロッドであり、すぐに帰ってくると伝えていたのだ。


「ロッド様!お兄様が、悪魔が!」

ジョアンナはロッドに抱きついて涙目で兄の窮状を訴える。


「大丈夫だ。もう悪魔共は倒したよ。ジュリアンとリーンステアも無事だ。悪魔は倒したんだが、ギルドの増援が大勢来たので逃げてきたんだ。俺が倒したのがバレると色々と面倒だしな」


そう言ってジョアンナを安心させ頭を無でる。


ジョアンナはしばらく抱きついたままでいたが、ロッドが超能力でジュリアンの居場所を確認すると冒険者ギルドにいるようだったので、変装を解いて皆で冒険者ギルドまで行く事になった。



ーーーーー


ジュリアンとリーンステアは冒険者ギルド内の大会議室にいた。

支部長のゴルドーから事情を聞かれている。


「それで、その双剣のディックが悪魔を召喚したという事ですか?」


ゴルドーに聞かれリーンステアが答える。


「そうです。ジュリアン様を殺せと命令していたので間違い無いと思います。奴が何らかの方法で脱獄し、何処からか入手したアイテムで召喚したのだと思います。奴はまたいつの間にか逃亡したようですが…」


ここで精霊の扉のエスティアが自分の見解を説明する。


「私が見た限りではディックという殺し屋が持っていた人形が怪しいと感じました。

人形が現れた途端に精霊が凄く怯え始めたんです。

仲間割れしたように見えたのも人形に捧げる生け贄が足りなくなったからだと思います」


「う〜ん。生け贄を捧げると悪魔を召喚出来る人形か…聞いた事が無いな。

サラ、この件は本部に報告する時、人形に関わる話についても問い合わせておいてくれ」


ゴルドーが受付嬢サラに指示しサラが頷く。


「しかし、あの仮面の男は一体誰なんだろうな?」


「男とは限らないんじゃないか?長髪だったし、俺と比べて身体もあまり大きく無かったぞ」


「エスティアが上級悪魔グレーターデーモンに殴られそうになった時、あの拳を片手で楽々止めてたのよ?女性では無いと思う」


バーンを皮切りにクライン、弓使い=フランも仮面の男について話した。


マックスも参加する。


「それに凄い治癒魔法の腕だよ。

僕の毒だって何の毒かも分からなかったし、皆も瀕死か再起不能レベルの怪我だったんだろう?

そこまでの腕の治癒魔法使いは魔法師ギルドでも聞いた事が無い。

冒険者ギルドで仮面の人物について何か情報は無いんですか?」


「あっ!そう言えば、これ言うと自分でも怖いんだけど…仮面には目も鼻も口も無かったぞ!それでどうやって戦ったりするんだ?」


ザイアスが皆にオカルト的な疑問を投げかける…


「…皆には見えなかったと思うけど仮面の人が現れた時、精霊がいつもより集まって来ていたわ。

だから悪霊だったり悪魔だったりする事は絶対にないわ。

それだと精霊が怖がるもの。

でも妙な事に精霊が集まってもベタベタ触る事は無かったの。

うまく言えないけど何か遠巻きにしてお辞儀しているような感じね」


エスティアも仮面の人物について自分の視点で補足する。


ジュリアンとリーンステアは困ったような顔で口を噤んだ。


二人ともロッドが喋るなというジェスチャーをしていたのは覚えていたので、仮面の人に関しての発言はしないよう気を付けた。


「その不可思議な仮面を着けた人物はギルドでも情報が無いが、上級悪魔グレーターデーモンを倒してお前達を救ってくれたのであれば、少なくとも危険人物では無いと思う。もし情報が上がったら報告して欲しい」


ゴルドーが纏める。


「そういえばロードスター辺境伯嫡男であり、ここにいるジュリアン様から辺境伯領の領都まで護衛のパーティー依頼が出されているの。今この街にいる最高ランクの精霊の扉に打診しようと思っていたのだけど…」


サラが精霊の扉に対して依頼がある事を説明する。


「パーティー皆の意見も聞きたいが、俺は受けようと思う!

今回の戦いでフランを守ってもらったのもあるが、子供を生け贄にしようとしたり、何よりこんな卑怯な手で暗殺しようとする事が許せん!」

正義感の強いリーダーのバーンが自分の意見を述べる。


エスティア「そうね。仮面の人にも会えるかも知れないわね」

フラン「私も賛成よ。リーンステアさんともお話ししたいし」

マックス「僕も賛成で。もっと魔法の練度を上げないと」

クライン「俺も賛成だ、新しい盾でリベンジするぞ」

ザイアス「賛成!賛成!」


皆も賛成したため、バーンがサラに伝える。

「じゃあサラさん、依頼を受注します。手続きを頼みます!」


「精霊の扉の皆さん、護衛依頼の受諾ありがとうございます!」

ジュリアンが礼を述べ、精霊の扉のメンバーも笑顔になるのであった。

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