第4話 治療と護衛

目の前にはロープで拘束されているディックが座らされている。


他の野盗は全てロッドの〔サイコシャワー〕の一撃で死亡していた。


実はロッドも即殺す気は無く手加減したつもりであったが、予想以上に〔サイコシャワー〕の威力が強かったようだ。


予期せず大量殺人をしてしまったロッドであったが、相手が悪人である事がハッキリしているため、特に罪の意識は無く気にしていなかった。


騎士側もリーンステア以外の騎士12名は野盗に止めを刺され全員死亡していた。

御者と騎士達の亡骸はロッドとリーンステアにより馬車横に一列に並べられている。


「さて、コイツはどうしようか?」


ディックはその後大人しく投降した。

訳ではなく…逃げ出したところをロッドが捕まえたのだ。


「コイツは悪い奴なんだろう?」


ロッドがリーンステアに確認する。

リーンステアは既に替えの服を着て上鎧も装着済みだ。


「ええ。双剣のディックというお尋ね者の殺し屋で賞金首でもあります。何者かの依頼でジュリアン様のお命を狙っていました」


そう言うとリーンステアはロープで拘束されているディックのえり首を掴み、ガクガク揺らしながら鬼のような剣幕で問い質す。


「言え!誰がお前の依頼主だ!」


「…………」

ディックは一言も話す気は無いらしい。


ロッドはリーンステアを宥めて引き離し、ディックの手首を掴み〔精神感応テレパシー〕を発動する。


ロッドの瞳が金色に煌めく。


素肌に接触して〔精神感応テレパシー〕を使うと相手の今考えている事がわかってしまう。


そのような事が出来るとは夢にも思っていないディックの思考はロッドに筒抜けであった。


「分かったぞ。ブランドル伯爵家からの依頼だそうだ」


「なっ!俺は何も言ってないのに何で分かるんだよ!」

ディックはビックリして遠まわしにロッドの意見を肯定してしまう。


「…ブランドル伯爵家…ロードスター辺境伯家のご親戚の家ですね」

リーンステアは伯爵家を知っているようで、知った途端に暗い顔をしていた。


それもそのはず、今回ジュリアンが王都に赴く事になった発端はそのブランドル伯爵家が王都で良い薬師が見つかったと連絡してきたからであった。


「では、良い薬師がいたというのも…ジュリアン様をここへおびき寄せる罠だったと…」


リーンステアの呟きを聞いて、ジョアンナも肩を落とす。

その場はまるでお通夜のような雰囲気となった。


「ん?何でそんなに暗くなるんだ?」

ジュリアン達の状況を知らないロッドがリーンステアに尋ねる。


「その…ジュリアン様は過去にかかった病で目の光を無くされています。

今回、良い薬師が見つかったという事でしたので、治療を受ける為に王都へ旅をしているわけなのですが、それ自体が罠だったという事であれば…目は治らないという事に…」


「リーン、アンナも気にしないで。僕は今のままでもかまわないよ」

ジュリアンが明るさを装うような感じで笑う。


「それより僕の為に、亡くなった騎士達に申し訳が無いよ……」

今度は一転してジュリアンは暗く申し訳無さそうな顔で下を向く。


それの様子見てロッドはジュリアンをやはり心根の美しい子だなと思った。

(貴族は傲慢な者ばかりだと思っていたがな。ジュリアンか…)


ロッドはジュリアンにゆっくりと歩み寄る。

(生まれつきでないなら治療出来る可能性はある。試してみるか…)


「ジュリアン、今から目を治療してみる。正直、治るかどうかは分からないがな。動くなよ」


ロッドはジュリアンにそう告げるとジュリアンの前に立ち、両手のひらをそれぞれ目を覆うように軽く合わせる。


治癒ヒーリング


手のひらから光が溢れ、それがやがて目に移るとシュウシュウと音がする。


ジュリアンは目頭が熱くなり、詰まっていた何かが洗い流される感覚がしたと思ったら、それから急に眩しさを感じた。


ロッドが手を降ろして尋ねる。

「とうだ?目を開けてみてくれ」


ジュリアンは恐る恐るでゆっくりと目を開けてみる。


薄く見開いた目にボヤケた光景が移り、やがてそれははっきりとした物になった。


「見える!目が見えるよ!見えます!」

興奮したようにジュリアンが叫ぶ!


「お兄様!」

「ジュリアン様!」


ジョアンナは叫ぶと両手を口にあてて瞳から大粒の涙を流し、リーンステアも喜びの涙を流した。


「馬鹿な!盲目を治せるなんて聞いた事がないぞ!一体何者なんだあんたは!」

ディックは大きく目を見開いて驚いて叫んだ。


「うるさい!」

ロッドは頭上から拳骨を落としディックを気絶させた…



ーーーーー


ジュリアン、ジョアンナ、リーンステアはひとしきり喜び合うと、ロッドに向けてお礼の言葉を告げた。


「あなたが何者なのかわかりませんが、僕の目を治していただきありがとうございました!」

「お兄様を治してくれて、ありがとう!」

「野盗から助けていただいたばかりか、私とジュリアン様の治療までしていただきありがとうございます」


ロッドが答える。

「まあ。通りがかったついでだ。気にするな」


ジュリアンが尋ねる。

「あの…あなたのお名前を教えていただけないでしょうか?

ロードスター辺境伯家の名にかけて後日必ずお礼をいたします」


ロッドは少しだけビックリして答えた。

「そういえば乱入しただけで名乗ってはいなかったか!俺の名はロッド。ただの平民のロッド、オルストの街に住んでいる冒険者だ」


そして4人は改めて名前を名乗りあった。


「あの!ロッド様はおいくつなのでしょうか?」

ジョアンナが食い気味に顔を前に出して聞いてくる。


「……15だ。今年15歳になってすぐ冒険者ギルドに登録したよ」


ロッドは一瞬、前世の年齢なのか現世の年齢なのか迷ったが、見た目との違いを突っ込まれると面倒なので今の肉体年齢を答えた。


「そうですか!わたくしは13歳、お兄様は15歳になります。リーンは……」

「わ、わたしの歳は言わないで下さい!」


リーンステアは顔を赤くしながら慌てて遮る。


「何でもいいんだが、これからどうするんだ?野盗はともかく騎士達の亡骸もあるだろう?まだ王都に向かうのか?」


これからの事をロッドが尋ねる。


リーンステアは素早く考えをまとめ、全員に話すように伝える。


「ロッド殿の助力で危機は脱しましたが、まだジュリアン様のお命が狙われているのは変わりません。運よく目の治療もしていただいた事ですし、ここは迅速に辺境伯領に戻るべきかと。領内の城に戻れば騎士団もいますので、どのような敵が来ようと万全かと思います」


ジュリアンもリーンステアに同意する。

「そうだね。リーンステアの意見に賛成するよ。父上には手紙を届けよう」


ジュリアンの答えを確認したリーンステアはしばし何事か思案すると、ロッドの前に進み出てガバッと頭を下げた。


「ロッド殿、助けていただいた上にこの様なお願いをとは思いますが、辺境伯領まで私どもの護衛をお願い出来ないでしょうか?

護衛が私だけではジュリアン様、ジョアンナ様を守り通す事が出来ません。

あれだけの野盗を倒せるロッド殿であればどのような敵が現れようと安心出来ます。何卒お願い出来ないでしょうか……」


ジュリアンも頭を下げ、ジョアンナは目をギュッと瞑って両手を組み合わせて祈るように返事を待っている。


(まあ、乗りかかった船だ。ジュリアンは気に入ったし特に何かの期限があるわけでもないか、護衛の経験は無いが…)


「わかった、頭を上げてくれ。俺で良ければ護衛を引き受けよう」


ロッドは少し思案した後に答えた。

3人はホッとしてそれぞれ笑顔を交換した。


「だが可能なら俺の他にも護衛の経験者を雇った方が良いと思う。

それと俺にも連れがいるんだ。今呼ぶから待って欲しい」


そう言うとロッドは〔精神感応テレパシー〕で待機している皆に話しかける。


(アイリス、ハム美、ピーちゃん聞こえるか?

『はい聞こえております』『はいでチュ』『はいデス』

あ〜待たせて悪かった。成り行きでロードスター辺境伯領まで人を護衛する事になった。今から皆をこちらへ移動させるから待っていてくれ)


そう言うとロッドは皆を感知した後、手をかざして超能力を発動する。

物質取得アポート


目の前に白ローブの少女、インコ、ハムスターがいきなり現れた事にジュリアン達はびっくりした。


「こ、これも魔法なのでしょうか?そういえば、ロッド殿もいきなり現れたような…」

リーンステアが恐る恐る聞いて来る。


「まあそうだな。色々不思議かもしれないが、俺が使うのは少し特殊な魔法だと思って欲しい。この子達は俺の連れでアイリス、ハム美、ピーちゃんだ」


ロッドは飄々と答え、それぞれを紹介し挨拶を交わした。


「まあ、かわいい〜!」

ジョアンナはハム美とピーちゃんを嬉しそうに撫で撫でしていた。


その後、これからの事を考えたロッドは少しストレージの実験をしてみる事にした。ロッドは野盗の死体の前まで行き指輪のストレージに死体を格納してみる。

・野盗(ゴッズ)の死体 1


死体が無事に格納できた事がわかる。続いてもう一体格納してみる。

・野盗(ゴッズ)の死体 1

・野盗(ジマー)の死体 1


野盗の死体は名前別に別の物として格納された事がわかる。

次に指輪から死体を取り出すよう念じると、指定した位置に整列するように死体が装備もそのままに取り出せた。


死体が指輪のストレージに格納でき、取り出せる事がわかったロッドはジュリアン達に向けて今後の対応を説明する。


「俺は別の空間に物体を置いておく、取り出すといった能力を持っている。

これを使って野盗と御者、騎士達の死体を運ぼうと思う。

それと2台の馬車については馬と御者がいないから、これも俺が同じく運ぼうと思う。そちらの物は後で必ず返す事を約束しよう。当面は各自歩いて移動するしかないな」


「そんな事が…」

「そんな魔法は聞いた事がありませんが……」

「凄く便利な能力ですね!」


ジュリアン、リーンステアは驚愕し、ジョアンナはそれがどれほど常識外れなのかあまり理解出来ていないか、気にしていない様子であった。


かくしてジュリアン、ジョアンナ、リーンステア、生き残った侍女2名、ロッド一行、拘束されたディックは辺境伯領を目指して旅を開始したのであった。

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