5. 衝撃の事実
「みんな良い人で良かった」
ドラポン達との顔合わせとチーム結成のための魔物狩りが終わり、後は練習試合を待つだけだ。
フレンは上機嫌で訓練場所の校舎裏に向かっていた。
学園に入学して以来、こんなにも心が躍るのは初めての事。
これまではユニークスキルがあまりにも使えないと罵られて心傷んだ記憶ばかり。
フレンの未来を肯定し、仲間として快く迎え入れてくれたドラポン達には感謝しかない。
「僕も役に立ちたい」
練習試合は彼女達にとって因縁の相手との戦いらしいが、フレンには特に戦う理由は無い。
その名の通り試合を練習として活用してくれて構わないと言われているけれど、だからといって最初から諦めるつもりは毛頭ない。
学園最弱と言われても否定は出来ない実力しかないけれど、負けても良いなどという姿勢で戦ったら受け入れてくれたドラポン達に申し訳なさすぎるからだ。
「こんなことならサブスキルを固定させておけば良かったかな」
フレンはこれまで様々なスキルを試したが、どれもいまいちしっくりこなかった。
暫定で剣術とスタミナアップをセットしているが、これも特に理由があるわけではない。
例えしっくりこなくとも、固定して鍛えていればそこそこ使い物になったかもしれないと後悔した。
「ううん、今からだってまだ出来ることはあるはずだ」
練習試合まで残り三日。
たったそれだけで何かが変わるとは思えないが、どれだけ絶望的でも諦めないところがフレンの良いところ。
「そうだ、みんなに色々と聞いてみようかな」
今は練習試合に向けた対策検討で忙しいかもしれないけれど、もしそうだとしたらそれらを見るだけでも参考になることがあるかもしれない。
フレンは校舎裏に移動するのを止めてドラポン達を探すことにした。
「試合まで残り三日でございますね」
「この声はホウシェさん?」
教室に集まっていた彼女達を見つけ、フレンは中に入って声をかけようとする。
「…………」
しかし足が止まり入口の傍に身を隠してしまった。
「(あれ、なんで僕隠れちゃったんだろう)」
ちらりと教室内を覗き見ると、隠れてしまった理由が分かった。
「(空気が重い……)」
彼女達の表情は皆暗く、どんよりという言葉が似合う程に教室内の空気が重苦しい。
それゆえ元気良く『こんにちは!』などと挨拶して入るのが躊躇われた。
「みんなごめん。オレのせいだ……」
「その話は無しだ。何度も言っただろう、ドラポンは悪くないって」
「そうそう、侮辱されて許せなかったのはボクだって同じだもん」
「その通りでございます。彼らは決して言ってはならぬことを言ってしまったのです」
ドラポンからはこれまでフレンが見て来たような快活な雰囲気が完全に消え去っていた。
そんな彼女をフォローする三人も沈んだ表情を浮かべていた。
「でもマリーは関係ないだろ」
「君達が侮辱されているのを許せなかった。私は自分の判断を間違っているとは思わない。同じ場面があったら何度でも手を差し伸べるさ」
「うんうん、ボクだって自分が関係なくてもみんなを助けると思うよ」
「当然でございます」
「みんな……」
『侮辱』が何を意味しているのか、そしてドラポンが何をしてしまったのか。
フレンにはまだ想像出来ない。
だが何かとてつもなく悪い事が起きているのではないかと予感があった。
そしてその予感が正しかったと、すぐに知ることになった。
「それにしても、まさか奴らが
「そこまでするとは思えず油断してしまいました」
「でもでも、仕方ないよ。使ったら世界中から追われる魔法を使うだなんて普通は思わないもん」
「ポンポコドーン! 超腹立つ!」
この契約を結んだ者は、絶対に契約内容に反することが出来ない。
正規の条件以外で契約を強引に解除しようものなら、ペナルティとして契約相手に全てを差し出すことになる。
心も、体も、その全てを。
世界中の
禁止の理由は、騙されて悪質な契約を結ばれた場合に解除出来ないから。
実際、かなり昔にこの魔法を悪用した犯罪が横行して多くの人が悲劇的な目に遭っていた。
ドラポン達はその禁呪契約をさせられてしまったのだ。
「まさか奴がフォグマイアの者だったとは」
世界で唯一禁呪契約を利用している国、フォグマイア。
世界中から禁止するよう求められても、凶悪な犯罪者を抑えるために仕方なく使っているのだと適当な理由をでっちあげて決して廃止にはしない。
ただしそれが通用するのはフォグマイア国内だけ。
国外で使用してしまえばフォグマイアの貴族であっても極刑に処される。
「あちらにも学園はございますのに、わざわざこちらの学園に通っているという事は……」
「スパイだろうな。といっても別に他国の生徒の受け入れは禁止されていないが」
戦士育成を謳う学園は世界各地にあり、普通は自国や近隣の国の学園に通う。
だが時にはこうして離れた国から生徒を送り込み、他国の戦力情報を収集している。
世界は今、平和であるが、それがいつまで続くか分からない。
表向きは笑い合っていても、いつ誰が裏切るか分からないのだから情報収集は当然の行為。
そのこと自体に何も問題は無いが、相手が好戦的なフォグマイアの者というのが問題だ。
「表向きは友好国ですからフォグマイアだけ拒否することも出来ませんし、難しい話ですね」
「まったくだ。だが今回の事が明るみに出れば変わるきっかけになるかもしれない」
「はい、他国の学校に入学した上で禁呪契約を使用したとなれば全世界から非難されるのは免れません」
「その点においても今回の戦いは絶対に負けられないな」
彼女達が嵌められた契約は次の練習試合での勝敗によりお互いに要望を通すというもの。
勝利すれば彼女達に被害なく契約が終了するため、安全に学園に今回のことを報告出来る。
「でも負けたらみんなあいつらに好き放題にされちゃうぜ!」
「……」
「……」
「……」
だが負けた場合には地獄が待っている。
敵の望みは彼女達そのもの。
つまり『負けたら言う事を聞け』というやつだ。
強力な契約で縛られている以上絶対に逃れられない。
そして『このことを誰にも言うな』と命令されれば闇に葬られてしまう。
もちろん見目麗しい彼女達の悲惨な運命は想像に難くない。
「最初からこれを狙っていたのでしょう。以前から彼らは私達に色目を使ってましたから」
「そうそう、ほんっっっっっっっっと気持ち悪い」
「オレはただムカつかれただけだろうけどさ」
「それはない」
「ドラポンさんが一番の目的でしょう」
「そうそう、この中で一番可愛いんだもん」
「ええええ!? な、なに言ってるんだよ!」
「「「あははは」」」
最低な男達に慰み者にされる未来を振り払うかのように、彼女達は強引に笑顔を捻り出した。
それは逆境に負けない心の強さゆえか、それとも現実逃避なのか。
「勝てば良いんだよ。勝てば」
「その通りです」
「だな」
「ですです。勝てない相手じゃ無いんだもん」
内心では分かっていた。
バレたら終わりの禁呪契約をしかけてきた相手が、勝利の見込み無しに勝負を挑むはずが無いと。
五人目の仲間が見つからないように裏で圧力をかけていたが、それが失敗した場合の対策も考えているはずだ。
果たしてそれを打ち破って本当に勝てるのだろうか。
「フレンが入ってくれたんだ。まだ勝利の女神は私達を見放してはいない」
「その通りです。絶対に勝ちましょう」
「うんうん、勝つよ!」
「やるぞ!」
これがここしばらくの彼女達の日常だった。
勝負の事で気落ちして、相談してどうにか気力を振り絞る。
そうでもしないと、不安でどうにかなってしまいそうだったから。
「そうだ、フレンにはこのことは絶対に知られないようにするんだぞ」
「フレンさんは優しいお方ですから、このようなことを知ったら気に病みます」
「もちもち、言うわけ無いよ」
「フレンはオレたちの恩人だからな。辛い目には合わせられないぜ」
こんな絶望的な状況でも彼女達はフレンのことを想ってくれている。
絶対に勝って欲しい、もっと強い人が良かった、そんな無茶な期待や不満を抱くことは決してない。
「(…………)」
だがフレンは知ってしまった。
彼女達が隠していた戦う理由を。
「(負けたらみんなが酷い目に……そんな……)」
いっそのこと、自分が学園に禁呪契約の事を報告すれば良いのではないか。
チラっとそう思ったけれども、それは出来ないとすぐに気付いた。
禁呪契約のことは学園の授業で習ったことがある。
契約外の人間であっても契約を強引に破棄しようとしたらペナルティが発生するのだ。
その判断は非常に強力で、契約外の者の行動であっても『契約を解除してもらうために行動する』というニュアンスまで正確に汲み取ってしまう。
「(僕はどうしたら……)」
突然の事で震えが止まらない。
しかし、その事実を受け止める時間的余裕などない。
練習試合はもうすぐなのだから。
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